Family

3.0
Family
「Family」

 日本で言う「冬至」を祝うローリー祭(地域によってはマカル・サンクランティ、ポンガル、ビフーなどとも呼ばれる)も過ぎ、今までの極寒が嘘だったかのように急激に暖かくなって来た。つい数日前までは手袋なしでバイクを運転することなど考えられなかったのに、今では夜でも手袋は必要ない。このローリー祭から3月のホーリー祭までが、一応インドの春ということになる。ホーリーを過ぎると、酷暑期が始まる。短い春である。今日はPVRアヌパム4で、2006年1月13日公開の新作ヒンディー語映画「Family」を観た。

 「Family」の監督は、「Lajja」(2001年)や「Khakee」(2004年)のラージクマール・サントーシー、音楽はラーム・サンパト。キャストは、アミターブ・バッチャン、アクシャイ・クマール、アーリヤマン、ブーミカー・チャーウラー、スシャーント・スィン、カダル・カーン、、グルシャン・グローヴァー、シェールナーズ・パテール、アンジャン・シュリーヴァースタヴ、バールティー・アチュレーカルなど。

 ヴィーレーン・サーヒー(アミターブ・バッチャン)は、バンコクに住みながらムンバイーを支配するマフィアのドンであった。ヴィーレーンは、自分と息子のアービール(スシャーント・スィン)の暗殺を企んだ敵対マフィアの甥を自らムンバイーまで行って殺害する。だが、そのときシェーカル・バティヤー(アクシャイ・クマール)も巻き添えになって死んでしまう。

 シェーカルは中産階級の家族の長男であった。レストランを経営しており、数日前にカヴィター(ブーミカー・チャーウラー)と結婚したばかりだった。シェーカルにはアーリヤン(アーリヤマン)という弟がいた。トラブルメーカーだったが、兄を誰よりも慕っていた。アーリヤンは兄を殺したヴィーレーンへの復讐を誓い、仲間と共にムンバイーに住む彼の家族を全員誘拐する。誘拐されたのは、ヴィーレーンの妻(シェールナーズ・パテール)、息子のアービール、その嫁、娘のシュエーター、そして5歳の孫の5人だった。

 家族を誘拐されたヴィーレーンは激怒し、ムンバイー中のマフィアを召集して全力で誘拐犯を探し始める。一度ヴィーレーンの追っ手がアーリヤンの隠れ家に迫ったことがあったが、アービールに逃げられてしまったもののアーリヤンたちは人質を連れて間一髪で逃げ出し、ヴィーレーンが昔住んでいた空き家に身を潜める。だがその場所も見つかってしまい、アービールの撃った流れ弾によりヴィーレーンの妻が死んでしまう。ヴィーレーンは自首することをアーリヤンに伝え、待ち合わせ場所に現れる。アーリヤンは警察や人質と共に駆けつけ、ヴィーレーンは逮捕される。

 ところが警察は当然のことながらヴィーレーンの手中にあった。ヴィーレーンは自首の演技をしただけだった。アーリヤンらは警察に捕まり、アービールたちに引き渡される。ところが、シュエーターはヴィーレーンに、母親の死は全てヴィーレンにあると責める。ヴィーレーンの悪行の償いを母親がしたのだ。その言葉を聞いたヴィーレーンは考え込み、アーリヤンたちを解放するよう命令する。そして自身は警察に出頭して自首する。

 ところが、ヴィーレーンの心変わりを知ったアービールは父親が狂ったと考え、息のかかった警察に父親を殺すよう命令する。息子に裏切られたことを知ったヴィーレーンは怒ると同時に失望し、警官を皆殺しにする。そこへアーリヤンがやって来て、ヴィーレーンを殺そうとする。そのとき、アービールも他のマフィアのドンたちを連れてその場にやって来る。ヴィーレーンはマフィアのドンたちを一斉に殺し、最後にアービールをも殺してしまう。それを見たアーリヤンは、ヴィーレーンを一人残して去っていく。「お前の罰は死じゃない、人生だ」と言い残し・・・。

 兄を殺された弟の復讐と、家族を誘拐されたマフィアのドンの復讐がぶつかり合う血で血を洗う復讐劇。だが、そこには憤怒の情よりも悲哀の情の方が多いのは、副題「Ties of Blood」が示す通り、家族の絆を主題にしたからであろう。血まみれの乱闘や銃撃戦が耐えない暴力映画ではあるが、けっこう感傷的な気分にさせてくれる佳作であった。

 アクシャイ・クマール演じるシェーカルが殺されるまでが映画の導入部だと言っていいだろう。それまでは、ヴィーレーンやマフィアたちの物々しいシーンが時々カットバックされるが、基本的にシェーカルとカヴィターの結婚に重点を置いた明るい展開である。いくつかのアップテンポのミュージカルシーンもある。この間に、ヴィーレーンがいかにパワフルなマフィアか、シェーカルがいかにいいやつだったか、シェーカルの家族がいかに幸せいっぱいであったか、アーリヤンがどんな性格の男なのか、などがスマートに描写されていてよかった。シェーカルとカヴィターの出会いから結婚までも、急過ぎず、強調され過ぎずに描かれていて好感が持てた。

 アーリヤンとその仲間たちがヴィーレーンの家族を誘拐するシーンは、映画の最初のクライマックスである。特にアーリヤンがアービールを誘拐するシーンは手に汗握る。家族の誘拐に成功してからは、ヴィーレーンの追っ手にギリギリまで迫られるシーンが4回ある。1回目は隠れ家が発見されたとき、2回目はヴィーレーンの妻が発作を起こし、病院へ連れて行ったとき、そして3回目はヴィーレーンが自分の旧家(ここにアーリヤンたちは隠れていた)を19年振りに訪ねたとき、4回目はアービールらに隠れ家を急襲されたときである。これらも非常にスリルがある。特に3回目、ヴィーレーンが昔を回想しながらアーリヤンの仲間たちや人質が隠れる部屋に徐々に近づいていくところなどは監督の才能を感じさせた。

 この映画のキーとなっているのは、ヴィーレーンが家族と、特に妻と良好な関係を保っていなかったことだ。ヴィーレーンはずっとバンコクに住んでおり、家族はほとんどヴィーレーンと関わり合いなくムンバイーに住んでいた。ヴィーレーンは誘拐された家族を必死で探すのだが、家族はヴィーレーンに冷淡であり、こんなことになったのも全てヴィーレーンがマフィアなどというあこぎな稼業をしているからだと考える。妻は流れ弾に当たって死んでしまうし、挙句の果てに、自首しようとしたヴィーレーンに刺客を差し向けたのは実の息子であった。実はヴィーレーンが最初に悪の道に足を踏み入れたきっかけは息子だった。息子に対する侮辱に耐えられずに人を刺してしまったことがあり、そこから彼はマフィアへの道を歩み始めたのだった。人生を狂わすきっかけとなったその息子に、マフィアから足を洗うことが「気の触れた行動」と言われ、ヴィーレーンは絶望し、直接殺しにやって来た息子を殺してしまう。アーリヤンはヴィーレーンを殺すことを人生の唯一の目標として来たのだったが、その様子を見て、家族に見放され、自らの手で息子を殺さざるをえなかったヴィーレーンの罰は死ぬことではなく、生きることだと告げる。殺伐としたエンディングだったが、非常にうまいまとめ方だった。

 やはりこの映画の主役は何と言ってもアミターブ・バッチャンだ。冒頭のシーンは特にバッチャンにしかできないような威圧感が出ていてよかった。しかしバッチャンが演じたヴィーレーンは、「道端から国会まで」権力が及ぶマフィアの割には、一般人にだいぶなめられたものだ。家族を誘拐されてからのヴィーレーンはどんどん威厳を失って行き、最後には米軍に捕まったサッダーム・フサイン大統領のようになってしまっていた。ちょっと気になったのだが、この映画のアミターブ・バッチャンは、やたらカツラっぽかった。髭と髪の質が明らかに違うのだ・・・。

 バッチャン演じるマフィアに立ち向かう若者アーリヤンを演じたのはアーリヤマン。この映画のプロデューサー、ケーシュー・ラームセーの息子らしく、子供の頃に「Saugandh」(1991年)でアクシャイ・クマールと共演した経験を持っている。だが、本格デビューはこの「Family」となる。はっきり言ってそこら辺にいる目つきの悪いインド人、という感じで、とても映画スターには見えない。身長だけは高く、アミターブ・バッチャンと並んでも負けていないが。また変なのが映画デビューしてしまった・・・。アービールを演じたスシャーント・スィンと顔が似ているので、最初は混乱してしまった。

 ブーミカー・チャーウラーの出演シーンは限られていたが、その中で最大限の演技をしていた。彼女はインテリな役柄が似合う。今回は女医の役だったが、白衣がとても似合っている(確か以前にも何度か女医役を演じている)。ブーミカーがアヒルみたいな口をしてアクシャイ・クマールの頬にキスをするシーンは・・・気持ち悪かった!なんだあれは!

 音楽はラーム・サンパト。音楽は中の下くらい。無理にサントラCDを買う必要はないだろう。ミュージカルシーンは前半に集中しており、ストーリー上特に重要なものはなかった。「Jeene Do」はゴアらしきビーチが舞台のミュージカルだが、10人くらいの若い男女が泥沼に寝転がってクネクネしている踊りはなんだかいやらしかった。

 昨年12月にアミターブ・バッチャンが突然入院したことがあった。そのときまでに「Family」の撮影は全て終了していたようだが、アフレコの一部がまだだったようだ。バッチャンのいくつかのセリフが、撮影時に同時録音したもののままになっており、ちょっと聴きとりづらかった。

 ヴィーレーンの本拠地はバンコクという設定なので、少しだけバンコクロケのシーンもあった。「Family」と同日に公開された「Zinda」(2006)も偶然バンコクロケの映画であった。最近ヒンディー語映画界ではバンコクがブームのようだ。やはり近くて物価が安くて歴史上インドとも少なからず関係があって、外交レベルでもここ数年でかなり接近して来ていることが原因なのだろうか?

 一時はアミターブ・バッチャンの入院効果により「Family」が大ヒットするとの予測もあったのだが、おそらくそこまで話題を呼ぶ映画にはなりえないだろう。暴力描写は「Zinda」よりは抑え目だが、それでも血が異常に流れすぎだ。とは言え、いくつかのシーンでホロリとするものがあり、観て損はない映画と言えるのではないかと思う。