Zinda

3.5
Zinda
「Zinda」

 今日はPVRプリヤーで、2006年1月13日公開の新作ヒンディー語映画「Zinda」を観た。「Zinda」とは「生存」という意味。監督は「Musafir」(2004年)でサンジャイ・ダットを個性的なマフィアのドンに仕立て上げたサンジャイ・グプター、音楽はヴィシャール・シェーカル。キャストは、サンジャイ・ダット、ジョン・アブラハム、ラーラー・ダッター、セリナ・ジェートリー、マヘーシュ・マーンジュレーカルなど。

 バーラージート・ロイ(サンジャイ・ダット)はバンコクに住むソフトエンジニアで、妻のニシャー(セリナ・ジェートリー)と結婚1周年を祝っていた。学生時代の友人、ジョイ・フェルナンデス(マヘーシュ・マーンジュレーカル)も同席し、熱々の2人をやっかみながらも祝福した。ニシャーはその日、医者から妊娠の知らせを受けるが、それを桟橋で作業をするバーラージートに伝えようとしたところ、彼の姿が忽然と消えてしまった。そのままバーラージートは消息不明となる。

 一方、バーラージート・ロイは未知の密室に監禁されていた。毎日2食、フライド・モモ(焼き餃子)を与えられ、自殺しようとすれば睡眠ガスにより無意識にされて治療され、とにかく無意味に生きさせられ続けた。部屋にあるTVにより、妻のニシャーが殺害され、その罪が自分に着せられたことも知った。全く訳が分からないバーラージートは、自分のこんな目に遭わせた人物に復讐することを決めながら、TVで流れる映画で格闘技を習いつつ生きていた。

 そして14年間が過ぎ去った・・・。バーラージートは突然外界に放り出される。偶然出会ったタクシードライバーのジェニー・スィン(ラーラー・ダッター)と共に、彼はバンコク中のフライド・モモを食べ回る。そして遂に毎日自分が食べさせられていたモモの味の店を見つけ、自分を誘拐したエージェントの手掛かりを得る。こうして、自分を14年間監禁した男が待つ場所まで辿り着く。その男は大富豪ローヒト・チョープラー(ジョン・アブラハム)だった。バーラージートはローヒトのところへ駆けつける。

 ローヒトは、バーラージートやジョイと同じ学校に通っていた男だった。彼の姉も同じ学校に通っていたのだが、バーラージートが出来心でした悪戯のせいで、焼死してしまったのだった。それに恨みを抱いたローヒトは、バーラージートを14年間閉じ込めたのだった。しかもローヒトがしたことはそれだけではなかった。ローヒトは、バーラージート失踪後のニシャーを支えていた。時期を見て彼はニシャーを殺し、その娘を今までずっと育てて来ていた。その娘が姉と同じ年齢になった今、同じように焼き殺そうとしていた。バーラージートは、復讐が成就したことに満足感を抱く無防備なローヒトを殺し、娘が閉じ込められている場所まで駆けつける。だが、娘はそこにはいなかった。そのとき娘から電話がかかってきて、今家にいることを伝える。きっと、ローヒトが最後に慈悲を投げかけたのであろう。

 「Zinda」は、日本と少しだけ関係のある映画である。映画中、日本の時代劇映画がチラリと登場したり、日本刀による剣戟があったりすることもあるのだが、実はこの映画、日本の同人漫画「オールドボーイ」(土屋ガロン作、峰岸信明画)をもとにした映画なのだ。ただし、その漫画がヒンディー語映画界に辿り着くまで、第三国を経ている。韓国である。韓国の朴賛郁(パク・チャンウック)監督が映画化権を買い取って「Oldboy」(2003)という映画にしている。この映画は2004年のカンヌ国際映画祭でグランプリを受賞した。それを観たサンジャイ・グプター監督がヒンディー語映画化を思いついたのだろう。

 ヒンディー語映画化、とは言っても、「Zinda」は一切ミュージカルシーンがないダークでハードボイルドな映画に仕上がっている。特に主人公バーラージートの監禁生活を描いた前半は緊張感がよく保たれていた。外界との唯一の接点であるTVには、911事件、サッダーム・フサイン失脚、津波などのニュースが流れていた。だが、突然外界に放り出されてからは、映画はややグリップを失う。スクリュードライバーで人を刺して拷問したり、歯をハンマーで引っこ抜いたりと、残酷なシーンが多い他、ローヒト・チョープラーを探し出すまでの過程が予定調和過ぎたところもあった。ただ、バーラージートがタイ人チンピラの群れを一人で次々になぎ倒していくシーンは面白かった。そのシーンは最初から最後まで長回しで撮影されていたのでリアルだった。終盤にはもはや前半の緊張感は微塵も残っていなかった。ローヒトの復讐の理由もしょうもなかった。

 サンジャイ・ダットを映画中で魅力的なキャラクターにすることに命をかける監督はヒンディー語映画界に多い。異常なほど多い。何が彼らをそうさせるのかは分からないが、サンジャイ・ダットは業界の並みいる男優の中でも圧倒的な存在感を持っている。サンジャイ・グプター監督もその一人だ。同監督の「Musafir」でサンジャイ・ダットが演じたビッラーは最高だった。「Zinda」でもサンジャイの魅力を存分に引き出すことに最大限の努力が払われていた。

 ローヒト・チョープラーを演じたジョン・アブラハムは、だいぶ演技のできる男優になって来たように思える。特にインターミッション前に一瞬だけ見せるかすかな笑みには、練習の後が伺われた。やっぱり今回のジョンも血と汗と涙にまみれる役であった。バンコクでタクシードライバーを営むジェニー・スィンを演じたラーラー・ダッターは全くのミスキャスト。こんなゴージャスな美人がタクシードライバーをやってるわけないだろ!だが、サンジャイ・ダットとのベッドシーンや、半裸にされての拷問未遂シーンもあり、そのために彼女が選ばれたのだな、と納得した。セリナ・ジェートリーは特別出演程度である。やはりサンジャイ・ダットの映画に関しては一家言持っているマヘーシュ・マーンジュレーカル監督が、バーラージートの友人ジョイの役で出演していた。彼の「エッヘッヘ・・・」という気味悪い笑いがいいんだなぁ。

 全編バンコクが舞台であり、タイ語もチラホラ出てきた。果たしてラーラー・ダッターがしゃべるタイ語は本当に正しいのか?タイ語に詳しい人に是非吟味してもらいたいものだ。

 「Musafir」は音楽も非常に良かったのだが、「Zinda」は耳に残るものが少なかった。「Musafir」も「Zinda」も、サントラCDは2枚組になっており、1枚は「クラブ」、もう1枚は「ラウンジ」のリミックスが施してある。映画中、携帯の着信音が印象的な使われ方をしていたが、もしかしたらあれは一瞬だけ流行るかもしれない。

 「Zinda」は、日本の同人漫画に源流を発する映画だと思って観るとけっこう面白いだろう。だが、とにかくモモが食べたくなった映画であった。映画を見終わった後、ついマーケットでモモを探してしまった(残念ながら手に入らず・・・)。