短時間で大金を手に入れなくてはならなくった恋人を救うために主人公の女性ローラがベルリンの街を走り回り、失敗したらまたやり直しをするという実験的なドイツ映画「ラン・ローラ・ラン」(1999年)は、なぜかヒンディー語映画界で人気で、「Ek Din 24 Ghante」(2003年)、「Baar Baar Dekho」(2016年)、「Monsoon Shootout」(2017年)などにその影響が見受けられる。
2022年2月4日からNetflixで配信開始された「Looop Lapeta」は、今一度「ラン・ローラ・ラン」を翻案したヒンディー語映画である。監督は新人のアーカーシュ・バーティヤー。主演は「Rashmi Rocket」(2021年)のタープスィー・パンヌーと「Manto」(2018年)のターヒル・ラージ・バスィーン。他に、シュレーヤー・ダンワンタリー、ラージェーンドラ・チャーウラー、ディヴィエーンドゥ・バッチャーチャーリヤ、KCシャンカル、マニク・パプネージャー、ラーガヴ・ラージ・カッカル、サミール・ケヴィン・ロイ、ブーペーシュ・バンデーカルなどが出演している。
題名は「Looop Lapeta」となっているが、「Looop」とは英語の「Loop」、つまり「ループ」だ。「Lapeta」も同じような意味のヒンディー語の単語であり、それらを合わせて、グルグル回るようなイメージの題名になっている。
舞台はゴア。サヴィ(タープスィー・パンヌー)は元々陸上競技選手だったが、足を怪我して選手生命を絶たれ、薬漬けの毎日を過ごしていた。サヴィは妊娠していることに気付くが、そのとき恋人サティヤ(ターヒル・ラージ・バスィーン)からの電話を受ける。サティヤはボスのヴィクター(ディビエーンドゥ・バッターチャーリヤ)に届けなければならなかった現金500万ルピーを紛失してしまった。50分の内に金を用意できなかったらサティヤの命はなかった。サヴィは何とか500万ルピーを揃えようとゴアの街を疾走する。 最初のトライでは、サヴィは父親のアトゥル・ボールカル(KCシャンカル)と対立し、タクシー運転手ジェーコブ(サミール・ケヴィン・ロイ)のタクシーを破壊し、デーヴィッド・コラコ警部補(ブーペーシュ・バンデーカル)に追われ、宝石店に強盗に入ったサティヤと共に逃げるが、サティヤは店主マムレーシュ・チャラン・チャッダー(ラージェーンドラ・チャーウラー)に殺されてしまう。 すると、サヴィはまたサティヤから電話を受けるところから人生をやり直す機会を与えられる。前回の失敗を活かしてうまく立ち回ろうとするが、やはりデーヴィッド警部補に追われることになる。ジェーコブの恋人ジュリア(シュレーヤー・ダンワンタリー)は裕福なロバートとの結婚を迷っていたが、サヴィはロバートと結婚すべきだと助言する。それを聞いていたジェーコブはサヴィに恨みを持つ。サティヤとサヴィは、宝石店に強盗に入ったアップー(マニク・パプネージャー)とガップー(ラーガヴ・ラージ・カッカル)を襲って現金を奪うが、サティヤはジェーコブに殺されてしまう。 果たして、3度目のトライではどうなるか・・・?
原作「ラン・ローラ・ラン」譲りのスタイリッシュな映像効果とノリノリの音楽を原動力に、スピード感ある展開が楽しめる爽快な娯楽作だった。
人生の転機となるべき1日をなぜサヴィは2回もやり直すことができたのか、その科学的な説明はなかった。だが、インド神話に登場するサーヴィトリーの物語が下敷きになっていた。サーヴィトリーは死んだ夫を死神から取り返した貞淑な妻として知られている。サヴィは貞淑な妻とは正反対のキャラではあったが、しがない賭博師の恋人サティヤを真摯に愛していた。また、サヴィは選手生命を失って自殺しようとしていたところをサティヤに助けられた経緯があり、彼には借りがあったことも、彼を何としてでも助けようとした動機になっていた。
サヴィはゴアの街をとにかく走り回る。タープスィー・パンヌーは「Rashmi Rocket」で陸上競技選手を演じたばかりだが、この映画では引き続き走る姿を見せている。元々運動神経のいい女優であるし、男優を押しのけて映画の顔となるのにも既に慣れている。いわばキャリアの絶頂期にあるタープスィーが、貪欲に様々な役柄に挑戦する中で、「ラン・ローラ・ラン」のローラに当たるサヴィ役に興味を持ち、起用に至ったのであろうことが容易に推測される。
サヴィとサティヤが出会う個性的な脇役たちも魅力的だ。アルコール依存症を治そうとしているヴィクター、サヴィの父親で、ボクシングジムを経営するアトゥルとその同性パートナーのヤシュ、父親から金品を強奪しようと画策するアップーとガップー、恋人のジュリアが別の男性と結婚してしまうことを悲しむタクシー運転手のジェーコブなどである。そしてサヴィが行動を変えるたびに彼らの言動も微妙に変化し、サヴィとサティヤの結末にも影響を与える。
サヴィの3回のトライには教訓も込められていた。彼女が怒りに身を任せて問題を解決しようとしていたときには決して問題は解決しなかった。だが、思いやりを持ち、他人の気持ちに寄り添って行動することで、物事は自然と良い方向に進んでいく。サーヴィトリーが清く正しい人生を送ってきたことを武器に死神を説得したように、サヴィも父親との関係改善やジェーコブの恋愛の手助けなどを通して、運気を引き寄せることができた。
元々ポルトガル領だったゴア州が舞台であり、実際にゴアでロケが行われている。インドというよりもヨーロッパの片田舎といった雰囲気の街並みや自然を背景に物語が進むのは、ドイツ映画が原作であることを意識した場所の選定と考えられる。
「Looop Lapeta」は、ドイツ映画「ラン・ローラ・ラン」を原作とし、ゴア州を舞台にしたスタイリッシュな映画である。日本語字幕付きなので日本人観客も気軽に楽しむことができる。一般的な作りのインド映画ではないが、たまにヒンディー語映画界で作られるスリラー映画の流れから逸脱していない。OTTプラットフォーム向けの映画だといえる。