Best of the Best (USA)

2.5
Best of the Best
「Best of the Best」

 2000年代、海外在住のインド系移民を主人公にした映画が、インド本国および英米などで盛んに作られたことがあった。インドに住む映画監督が在外インド人(NRI)を主人公にした海外ロケの映画を作ることもあったし、インド系移民の多い米国や英国などに住んでいるインド系映画監督が南アジア人移民社会の物語を映画にすることもあった。これらは厳密にいえば方向性が異なっていたのだが、まとめて「NRI映画」と呼ぶこともできるものだった。ただ、いつの間にかそのようなNRI映画はしばらく目立たなくなっていた。時々、現代のインド系移民若者は自身のルーツやインド映画についてどう思っているのか、ふと考えることがあった。

 2026年9月18日からNetflixで配信開始された「Best of the Best」は、米国映画であるが、米国西海岸のインド系移民社会の今を描いた、久々のNRI映画である。カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)のボリウッドダンス部に入部した2人のインド系移民女子が主人公のダンス映画だ。

 監督はレーナー・カーン。カナダにてインド人両親の間に生まれ、UCLAの映画学校卒とのことである。おそらくこの作品にはカーン監督自身の大学時代の思い出が詰め込まれていると思われる。

 キャストは、マイトレーイー・ラーマクリシュナン、プリヤンカー・ケーディヤー、アンクル・ラーティー、シャネル・クラール、ハサン・ミンハージ、ジャニーナー・ガヴァーンカルなど。ほとんどが米国、英国、カナダなどで活躍するインド系俳優たちで、キャスティングはインド本国の映画界とは完全に切り離されている。

 「Best of the Best」は日本語字幕付きで配信されており、邦題は「ダンス・トゥ・ザ・トップ」になっている。

 インド系移民のマーヤー(マイトレーイー・ラーマクリシュナン)とアンジャリ(プリヤンカー・ケーディヤー)は幼少時から姉妹のように仲良しで、一緒に高校に通い、大学も一緒にカリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)に入学して、コンピューターサイエンスを専攻することになった。二人は南アジア学生協会(SASA)の新入生歓迎パーティーへ行き、そこでUCLAのボリウッドダンス部「アグニ」に入ることになる。二人ともダンスは大の得意だった。彼女たちは厳しいオーディションを勝ち抜き、見事入部を許可される。アンジャリは早速、アグニの部長ローナク(アンクル・ラーティー)にほれ込んでしまう。また、マーヤーはアルジュン(シャネル・クラール)と仲良くなる。

 ローナクは、南カリフォルニア大学(USC)のボリウッドダンス部「タマーシャー」をライバル視していた。その部長セレナはローナクの元恋人だったのだ。だが、昨年のダンス競技大会「Best of the Best」ではアグニはタマーシャーに敗れていた。次の大会の演目は「ボリウッド結婚式」に決まり、リードを務める男女のダンサーが投票で選ばれることになった。男子はローナクが圧勝した。女子には、本来ならばマーヤーが最多得票で選ばれるはずだったが、あれこれ口出しするマーヤーはローナクから疎まれており、票が操作されて、次点だったアンジャリが選ばれた。

 マーヤーはアイデアウーマンであり、昔から奇抜なアイデアを勝手に実行に移しては失敗していた。アグニでもその悪い癖が出てしまい、彼女は本番でスタンドプレイに走ってパフォーマンスを台無しにしてしまう。怒ったローナクはマーヤーを部から追放するが、アンジャリの取りなしによって退部が免れた。アンジャリは、ダンスの練習に時間を取られて勉強が疎かになり、仮及第となって、厳格な母親レーカー(ジャニーナー・ガヴァーンカル)から学費の支払いを止められそうになる。アンジャリは勉強に集中するために退部し、代わりにマーヤーがリードを務めることになった。次の大会でマーヤーはローナクと踊り、まずまずのパフォーマンスを見せる。だが、ギリギリ決勝戦進出はならなかった。ローナクたちは落ち込むが、上位のチームに不正が発覚し、繰り上げて決勝戦進出となる。

 だが、マーヤーがローナクと接近し、インタビューでアンジャリの成績不振のことを口に出したため、それを知ったアンジャリはマーヤーを避けるようになる。マーヤーはアンジャリの誤解を解こうとするが逆効果で、二人は絶交状態になってしまう。マーヤーもアグニを退部する。

 アンジャリとマーヤーが抜けたことでアグニは危機に陥る。だが、まずはマーヤーが復帰し、次にアンジャリが再度加わった。ローナクは、マーヤーとアンジャリをリードに抜擢し、決勝戦には新演目で挑むことにする。マーヤーとアンジャリは絆を取り戻し、「コーヒヌール」をテーマにしたダンスを踊る。途中、照明トラブルによってパフォーマンスが中断してしまうが、マーヤーの機転により場を繋ぎ、照明が戻るとスムーズにパフォーマンスに移行した。アグニはついに優勝する。喜んだマーヤーは応援に駆けつけていたアルジュンと堂々とキスをする。

 2000年代、特に米英で作られたNRI映画では、インド系移民2世の若者たちが、現地の文化と自身のルーツの間で板挟みになる様子がよく描かれていた。「American Desi」(2002年)というNRI映画では、そういう人々のことが「米国生まれの混乱したインド人(American Born Confused Desi)」と呼ばれていた。結末は2つに大別できた。インド系移民の若者たちが紆余曲折を経て最終的にインド人としてのルーツに立ち返るという筋書きの「回帰」系のものと、インド移民社会の束縛を克服し自由を勝ち取る「解放」系のものだ。ただ、しばらくまともなNRI系映画を目にしなくなってしまったので、いわゆるZ世代のインド系移民若者たちがどのようにルーツを向き合っているのか、情報が入らなくなってしまっていた。

 そんなときにちょうど現れたのがこの「Best of the Best」であった。そして、2000年代のNRI映画とは隔世の感があった。

 まず、主人公のインド系移民女子マーヤーとアンジャリは、どうも完全に現地社会に溶け込んでいるように見えた。ただ、親世代にはまだインドの保守的な価値観が支配的で、特にアンジャリは「女性の武器は学位」と信じる母親の押しつけに辟易していた。それでも、だからといってインド人としてのルーツを否定しているわけではない。二人はダンスが趣味だったが、彼女たちが踊るのはいわゆる「ボリウッドダンス」であり、ちゃんと映画を通してインド文化とつながっていた。そして、UCLAに入学すると自発的に南アジア学生協会(SASA)の新入生歓迎パーティーに足を運び、インド人学生たちと積極的に交流するのである。

 白人とアジア人の立場が逆転しているようにも見えた。「American Desi」の頃は、白人や黒人を中心とした、いわゆる「米国人」が圧倒的多数の社会に、少数派のインド系移民が入り込み、文化的な衝突を経験するという筋書きが支配的だったように記憶している。だが、「Best of the Best」では、少なくとも大学では、白人の方がむしろ少数派に転落してしまっており、インド人をはじめとしたアジア人が幅を利かせていた。しかも、黒人やアジア人に対する差別は許されないが、白人に対する差別は許されているかのような描写もあった。20年前とはNRI映画における米国社会の表象がガラリと変わってしまっていることに驚かされた。

 ストーリーにそれほど目新しい点はない。基本は「ABCD: Any Body Can Dance」(2013年)などと共通の、ダンス競技大会を主軸にしたダンス映画だ。「Best of the Best」と呼ばれるボリウッドダンスの競技大会で優勝を目指してマーヤーとアンジャリがダンスに打ち込む。二人は「姉妹」と呼べるほど大の親友だったが、さまざまな出来事を経て一度離散し、最終的には和解して、最後には力を合わせて最高のパフォーマンスを披露し優勝を果たす。教科書通りのサクセスストーリーである。

 ただ、マーヤーとアンジャリの人物設定にもう少し説明が必要だったように感じた。マーヤーとアンジャリはお互いに劣等感を抱いていた。マーヤーとアンジャリを比べると、どうもアンジャリの方が「美人」という設定になっているようで、幼少時から二人並ぶと見栄えではアンジャリの方ばかりが褒められていたようであった。それゆえにマーヤーはルックスの面でアンジャリに劣等感を抱いていた。その一方で、マーヤーの方が学業優秀であったし、新しいことに挑戦する冒険心もマーヤーの方が旺盛で、マーヤーがリード役になることが多かった。ただ、失敗も多かった。アンジャリは、そんなマーヤーをうらやましく思っていた。

 だが、日本人の視点から見ると、マーヤーとアンジャリのルックスに大きな差があるようには見えなかった。インド人が見るとアンジャリの方が美人で花があるように見えるのだろうか。

 クライマックスは「コーヒヌール」をテーマにしたダンスであった。途中で照明トラブルがあったが、それをうまく乗り切ってパフォーマンスを続けられたことで高得点を得て優勝できたことになっていた。もちろん、こういうトラブルを盛り込むのは王道であるが、あまり本筋と脈絡のない克服の仕方であったし、何だかしっくり来ていなかった。ダンスシーンで物語を盛り上げて締める手法のインド映画は、「Rab Ne Bana Di Jodi」(2008年)などたくさんあるのだが、それを見慣れていると、「Best of the Best」で採用された結末までの持って行き方は力不足といわざるを得なかった。

 それでも、ヒンディー語映画ファンならば、馴染みのある曲が多く使われているため、楽しい鑑賞になるはずだ。「Jyoti」(1981年)の「Thoda Resham Lagta Hai」、「Baazigar」(1993年)の「Baazigar O Baazigar」、「Dilwale Dulhania Le Jayenge」(1995年/邦題:シャー・ルク・カーンのDDLJラブゲット大作戦)の「Tujhe Dekha To」、「Kabhi Khushi Kabhie Gham」(2001年/邦題:家族の四季 愛すれど遠く離れて)の「Bole Chudiyan」、「Bang Bang!」(2014年/邦題:バンバン!)の「Tu Meri」、「War」(2019年/邦題:WAR ウォー!!)の「Ghungroo」などが使われていた。

 「Best of the Best」は、久々に登場した、米国のインド系移民社会の実態を垣間見ることのできるNRI映画だ。2000年代に盛り上がったNRI映画群と比較してみるととても面白いだろう。ただ、ストーリーとしては平凡だ。ダンス競技大会を軸にしたダンス映画であり、人間模様も女子のゴタゴタを中心にしている。ヒンディー語映画の曲がたくさん使われるので、ヒンディー語映画ファンならば内容度外視でお勧めできる作品である。