インド映画を観ると、本編開始前に定型様式の証明書が数秒間表示されるのを目にするだろう。そこには映画の題名、製作者の名前、言語、上映時間の長さ、そして年齢認証などが表示されている。この証明書を発行しているのが、中央映画認証局(Central Board of Film Certification)、通称CBFCである。歴史的な経緯から「Censor Board(検閲局)」と呼ばれることもある。

CBFCは、インド映画の形成や発展に多大な影響を与えてきた公的機関であり、インド映画を語る上で絶対に避けて通れない。
CBFCの歴史
CBFCのルーツは英領植民地時代までさかのぼる。インドにおいて初めて映画が上映されたのは1896年、初の国産映画「Raja Harishchandra」が公開されたのは1913年だが、その人気の高まりと影響力の拡大により、1918年には早くも英国植民地政府によってインド映画法(Indian Cinematograph Act)が制定され、映画産業が国家の統制下に置かれた。この法律の表向きの名目は劇場の防火安全管理だったが、本質は反英独立運動のプロパガンダや民族意識の高まりを抑え込むための政治的検閲だった。この時代、映画の検閲は各都市の警察の業務だった。
インドは1947年に英国から独立し、映画産業の検閲制度はそのまま引き継がれたが、その理念には変化があった。1952年、映画法(Cinematograph Act)が制定され、全土の検閲業務を統括する「中央映画検閲局(Central Board of Film Censors)」が発足した。これは情報放送省の管轄下にあった。独立し、映画に込められた反英プロパガンダなどを検閲する必要がなくなった代わりに、公序良俗の維持が至上命題となり、キスを含む猥褻シーンの取り締まりが強化された。
1983年に映画法が改正され、中央映画検閲局は「中央映画認証局(Central Board of Film Certification)」に改名された。国家が表現を削る検閲機関から、内容に応じてレーティング(年齢認証)を与える認証機関への脱皮をアピールした形だが、現場の実態としてはカット要請や修正指示が依然として行われ続けている。
レーティング区分
インド国内の劇場で上映される全ての商業映画は、その生産国を問わず、CBFCの認証を受けることが法律で義務付けられている。つまり、CBFCの認証なしに映画を上映した場合は罰せられることになる。
2023年に若干の改正があり、現行のレーティング区分は以下の通りになっている。
| 区分 | 正式名称 | 意味・対象 |
|---|---|---|
| U | Unrestricted Public Exhibition | 年齢制限なし(全年齢対象・ファミリー向け) |
| UA 7+ | Parental Guidance for Children under 7 | 7歳未満は保護者の指導・同伴を推奨 |
| UA 13+ | Parental Guidance for Children under 13 | 13歳未満は保護者の指導・同伴を推奨 |
| UA 16+ | Parental Guidance for Children under 16 | 16歳未満は保護者の指導・同伴を推奨 |
| A | Restricted to Adults | 18歳未満入場不可(成人指定) |
| S | Specialized Audiences | 医師、科学者など特定の専門職・限定対象向け |
認証の可否およびレーティングは、「表現の自由」を定めたインド憲法第19条と、その例外規定を定めた同条第2項のせめぎ合いである。インド憲法は主に以下の項目に抵触する場合に「表現の自由」を制約する権限を政府に与えており、CBFCの判断も基本的にはこの条項に従っている。
- インドの主権と統一性、国家の安全の侵害
- 外国との友好関係の阻害
- 公の秩序、良俗と道徳の侵害
- 法廷侮辱
- 名誉毀損や宗教的調和の阻害
- 犯罪の扇動
ここで注目されるのは、「A認証」の「18歳未満入場不可」という書き方だ。「A認証」の作品については便宜的に「18歳未満閲覧不可」と説明することも多いのだが、正確には「18歳未満入場不可」である。なぜ「18歳未満閲覧不可」ではないのか。これは、次に説明するOTT作品の問題とも関連してくる。
OTT作品の扱い
CBFCの根拠法である映画法が制定された1952年のインドでは、まだテレビ放送すら始まっていなかった。よって、現代のように映像作品の閲覧が極めて個人的な娯楽になる状態を全く想定しておらず、映画法が対象とするのも映画館のような「公共の場での興行(Public Exhibition)」に限られている。よって、CBFCが認証するのも、作品そのものではなく、その作品の「公共の場での興行」ということになる。
このため、18歳未満を対象としない作品と判断された「A認証」の作品は、「閲覧」ではなく、その作品が上映されている映画館などへの「場」への入場が禁止されていることになる。
それと同時に問題になるのがOTT作品である。NetflixやAmazon Prime VideoといったOTTプラットフォームは、劇場公開済み作品に加えてオリジナル作品の製作と配信にも力を入れている。劇場公開済み作品は既にCBFCを通っているが、オリジナル作品は最初からOTTでの配信を想定している。すると、それらは原則として個人的デバイスで視聴される映像作品として扱われ、「公共の場での興行」とは見なされない。よって、CBFCの認証を受けなくても発表できることになる。各OTTプラットフォームで配信されるオリジナルの映画やドラマを視聴する際、本編開始前にお馴染みのあのCBFC証明書は表示されないはずである。
このため、OTT作品では映画ではできないような露骨な政治風刺、過激な暴力描写や性描写、卑語や差別語などの使用が可能である。たとえばAmazon Primeのウェブドラマ「Mirzapur」(2018年~)では、インド映画の標準レベルを遥かに超えた過激な映像表現やセリフが話題になった。
しかしながらOTT作品は野放しではない。2021年に情報技術規則(Information Technology Rules)が制定され、3層の自己規制枠組みが整備された。
まずはOTTプラットフォームが自己レーティングを行うなどして対象となる視聴者の範囲を決め、次に放送内容苦情審議会(BCCC)などの業界団体が自主規制を行って、それでも苦情が寄せられた場合は情報放送省が対応を行う。つまり、映画のように公的機関が事前に認証を行うのではなく、問題が発生した場合に事後対応する体制になっている。
Zee5が配信した「Satluj」(2026年)がわずか2日後に配信停止されたのも、この事後チェック機構が働いたものと思われる。
