Mirzapur

4.0
Mirzapur
「Mirzapur」

 「Mirzapur」は、Amazon Primeオリジナルのウェブドラマである。シーズン1は2018年11月16日から配信開始され、その後もシーズンが続いている。日本のAmazon Primeでも日本語字幕付きで配信されており、邦題は「ミルザープル ~抗争の街~」になっている。Netflixの「Sacred Games」(2018-19年)と共に、インドに定額制動画配信(SVOD)ウェブドラマ文化を定着させるきっかけになったヒット作品である。インド社会に本格的にOTTプラットフォームが普及したのは新型コロナウイルス感染拡大によるロックダウン時期だったが、それ以前から「Mirzapur」のような既存の人気ウェブドラマがその下地を着実に作っていたのである。

 プロデューサーはファルハーン・アクタルなど。監督は、グルミート・スィン、カラン・アンシュマン、ミヒル・デーサーイー、アーナンド・アイヤルがエピソードごとに分担して担当している。

 全シーズン通してのキャストは、パンカジ・トリパーティー、アリー・ファザル、ディヴィエーンドゥ・シャルマー、ヴィクラーント・マシー、ラスィカー・ドゥッガル、シュエーター・トリパーティー、クルブーシャン・カルバンダー、シュリヤー・ピルガーオンカル、ハルシター・ガウル、ラージェーシュ・タイラング、シーバー・チャッダー、シャージー・チャウダリー、アースィフ・カーン、アビシェーク・バナルジー、シャーナワーズ・プラダーン、プラモード・パータク、シュブラジョーティ・バラート、アニル・ジョージ、マヌ・リシ、リリプット、ヴィジャイ・ヴァルマー、イーシャー・タルワール、アンジュム・シャルマー、アミト・スィヤール、シュールナヴァーズ・ジジナー、プリヤーンシュ・パインユリ、メーグナー・マリク、アニル・ジョージ、ディビエーンドゥ・バッターチャーリヤなどである。

 シーズン1は2018年11月16日、シーズン2は2020年10月23日、シーズン3は2024年7月5日から配信開始された。シーズン1は9話構成だったが、シーズン2と3は10話構成である。

 「Mirzapur」は、ウッタル・プラデーシュ州東部からビハール州西部の、いわゆる「プールヴァーンチャル」を主な舞台にしたギャングドラマである。題名になっているミルザープルは、ヴァーラーナスィーの南西部にある実在する街である。ドラマ中には、州都ラクナウーに加えて、ジャウンプル、アーザムガル、ゴーラクプル、バリヤー、ガーズィープル、スィワーンなど、プールヴァーンチャル地方の他の都市名も登場する。人々がしゃべっている言葉にもヒンディー語のプールヴァーンチャル方言のテイストが入っている。

 ドラマの中では、この地域は都市ごとに「バーフバリ」と呼ばれる封建領主的なマフィアのドンによって支配されていることになっている。「Mirzapur」は架空の物語だが、バーフバリによる支配構造自体は全くの空想ではない。この地域には実際に超法規的な権力を持ったドンが存在し、政治、行政、司法およびアンダーワールドで影響力を行使している。物語の中心になるのは、ミルザープルのバーフバリであるトリパーティー家だ。サティヤーナンド・トリパーティー(クルブーシャン・カルバンダー)は老齢かつ車椅子生活を送っており、既に一線から退いている。家長であり、また「ミルザープルの王」を名乗っているのは、その息子アカンダーナンド(パンカジ・トリパーティー)だ。人々からは「カーリーン・バイヤー(絨毯屋の兄貴)」と呼ばれている。トリパーティー家は、表向きは絨毯製造業を家業としている。だが、裏では「カッター」と呼ばれる簡易銃の生産と密売を行い、巨万の富を築き上げていた。

 アカンダーナンドの一人息子がプールチャンド(ディヴィエーンドゥ・シャルマー)、通称「ムンナー」である。ムンナーは地元のガッジューマル大学に通う大学生で、学生自治会で会長を務めていた。だが、父親の威光を借りて威張り散らすだけの中身のないトラブルメーカーで、アカンダーナンドも手を焼いていた。ムンナーは、自分の時代が来るのを今か今かと待ち望んでいた。ムンナーはシーズン1から2にかけて中心人物の一人である。

 ただし、「Mirzapur」はバーフバリ側だけを主人公にした映画ではない。特にシーズン1では、ガッジューマル大学に通うゴーヴィンド(アリー・ファザル)とヴィナイ(ヴィクラーント・マシー)の兄弟がアカンダーナンドのギャングに加入するまでが物語の開始点になっている。この兄弟はそれぞれ「グッドゥー」と「バブルー」という愛称で呼ばれていた。グッドゥーは単細胞だが腕っ節が強く、バブルーは臆病だが頭の回転が速かった。ムンナーが誤って全く無関係の花婿を殺してしまい、グッドゥーとバブルーの父親で弁護士のラマーカーント・パンディト(ラージェーシュ・タイラング)が遺族の弁護人を引き受けたことでトリパーティー家と接点ができた。アカンダーナンドがラマーカーントを脅すためにムンナーをパンディト家に送り込んだが、返り討ちにされ、アカンダーナンドはこのコンビに潜在性を見出し、仲間に引き入れたのである。

 グッドゥーとバブルーはギャングの中で頭角を現し、銃の密売ルートを整理して、アヘンの密売も任される。一方で、ムンナーとの確執は激化する。特に、ムンナーが言い寄っていたスワラーンギニー、通称スウィーティー(シュリヤー・ピルガーオンカル)とグッドゥーが結婚したことで対立は決定的になる。また、スウィーティーの妹ガジガーミニー、通称ゴールー(シュエーター・トリパーティー)は学生自治会長選挙にムンナーの対抗馬として立候補し、それをバブルーが支えたことも火に油を注いだ。

 そんな中、ミルザープルの警察署に署長として新たに就任したラームシャラン・マウリヤー警視正(アミト・スィヤール)が特捜班を立ち上げ、ミルザープルの治安回復のために、まずはグッドゥーとバブルーのエンカウンターを命じる。二人は襲撃を生き延びるが、ちょうど同じ頃、アカンダーナンドも暗殺未遂を受けていた。刺客はムンナーの親友で「コンパウンダー(薬剤師)」の異名を持つスボード(アビシェーク・バナルジー)であった。サティヤーナンドの介入によりアカンダーナンドは助かり、スボードを捕まえる。スボードに暗殺命令を出したのはムンナーであったが、アカンダーナンドはそれを信じず、グッドゥーとバブルーを疑う。アカンダーナンドはムンナーを正式に後継者に指名し、二人の暗殺を命じる。

 グッドゥー、バブルー、二人の妹ディンピー(ハルシター・ガウル)、スウィーティー、ゴールーの五人は、ディンピーの友人の結婚式に出席するため、ゴーラクプルに行っていた。ムンナーは手下を連れてゴーラクプルへ向かい、式場に突入する。ここまでがシーズン1の内容である。

 シーズン2になると、結婚式の銃撃事件を生き残ったグッドゥーとゴールーが力を合わせて復讐するフェーズに入る。それに伴って、トリパーティー家の内情にも多くのスポットライトが当てられるようになり、アカンダーナンドの2番目の妻ビーナー(ラスィカー・ドゥッガル)の立ち回りが重要になってくる。ビーナーは、使用人ラージャーの子を身籠もり、その子をミルザープルの王にしようと画策し始めるのである。

 「Mirzapur」で全シーズンを通してストーリーの推進力になっていたのは、自分で決断することを許されない者たちのフラストレーションと劣等感だ。ムンナーは父アカンダーナンドに抑圧され、好色な政治家JPヤーダヴは兄で州首相のSPヤーダヴに抑圧され、シャトゥルガン・ティヤーギー(ヴィジャイ・ヴァルマー)は双子の兄バラト(ヴィジャイ・ヴァルマー)や父親ダッダー・ティヤーギーに抑圧されていた。同じ構造はスウィーティーとゴールーにも当てはめられるかもしれないし、グッドゥーも弟のバブルーに引け目を感じていたところがあった。「Mirzapur」の登場人物の多くは、その劣等感を克服するため、権力闘争でしのぎを削る。ある者は「ミルザープルの王」を目指し、またある者はウッタル・プラデーシュ州の州首相を目指していた。

 ヒンディー語映画界においてギャング映画の金字塔として名高いアヌラーグ・カシヤプ監督の「Gangs of Wasseypur」シリーズ(Part 1Part 2/2012年)は、現ジャールカンド州(元ビハール州)のダンバード近辺を舞台にしていた。この「Mirzapur」では、ウッタル・プラデーシュ州東部を舞台にしている。暴力が支配する無法地帯の雰囲気は非常によく似ている。大胆なエロとグロの描写があるが、これはウェブドラマが映画とは異なり検閲機関中央映画認証局(CBFC)の管轄下にないから実現したものだといわれている。

 バイオレンスドラマではあるが、暴力を手放しで称賛するような単純な作品ではない。まず、グッドゥーとバブルーは好んでギャングの仲間になったわけではない。暴力が支配する街では、家族の安全を守るためには、ギャングに抵抗するよりも恭順した方がいいという選択肢もある。グッドゥーとバブルーは、ムンナーの関わった殺人事件を父親が担当したことで暴力沙汰に巻き込まれ、なし崩し的にアカンダーナンドの仲間になったのだった。だが、暴力は麻薬である。アカンダーナンドのギャングに入った途端、急に羽振りが良くなり、人々からも敬意を払われるようになる。特にグッドゥーは力に酔いしれ、暴力にのめり込んでいく。

 一方でバブルーは次第にグッドゥーの暴走に恐怖を感じるようになる。また、ゴールーと仲良くなるにつれて、彼女が学生自治会長になって成し遂げようとしている暴力撲滅に意義を感じるようにもなっていた。だが、やはり暴力は全ての人々を飲み込んでしまう。あれだけ暴力に反対していたゴールーも、シーズン2になると、自ら銃を取って復讐のために手段を選ばなくなるのである。

 ミルザープルを恐怖で支配していたアカンダーナンド自身も、常に暴力に頼ることを良しとはしていなかった。特に、自ら手を汚して物事を進めることは欲していなかった。彼はムンナーに一生懸命帝王学を教えようとするが、まだ若くて血気盛んなムンナーにはなかなか響かない。そんな老練なアカンダーナンドであっても、やはり息子に対しては判断力が鈍っており、彼を暗殺しようとした黒幕がムンナーであることを見抜けていなかった。

 「Mirzapur」の成功は、「Permanent Roommates」(2014-23年)などによって都市在住者に人気になったウェブドラマを、地方在住のマス層にまで広げた。また、インドにおけるOTTプラットフォームの主導権争いにおいてAmazon Primeに追い風をもたらしたことも無視できない。その後、Amazon Primeは「The Family Man」(2019-25年)や「Panchayat」(2020-25年)といったウェブドラマを次々にヒットさせた。

 「Mirzapur」のキャストは、一応映画俳優ではあるが、撮影時点では決してメジャーな俳優たちではなかった。だが、このウェブドラマが大衆に受け入れられたことで、彼らには映画のオファーが殺到するようになった。よって、「Mirzapur」が映画界にもたらした影響も計り知れない。「Mirzapur」で地位を築き上げた俳優としては、パンカジ・トリパーティー、ディヴィエーンドゥ・シャルマー、ヴィクラーント・マシー、ラスィカー・ドゥッガル、シュエーター・トリパーティーが挙げられる。また、Amazon Primeのウェブドラマでの成功はそのまま国際的な知名度の獲得にもつながり、彼らの中には国際的なプロジェクトに参加するチャンスを手にした者もいる。

 概して適材適所のキャスティングがされていたと思うが、ゴールー役を演じたシュエーター・トリパーティーだけは賛否が分かれそうだ。シーズン1の彼女は、ガリ勉で妹属性の地味な女の子だったが、シーズン2になると覚醒し、グッドゥーと組んでいっぱしのギャングになる。だが、シュエーターの見た目がギャングらしくないので彼女の存在はこの殺伐としたウェブドラマの中でどうしても場違いに感じてしまう。ただ、実力はある女優なので、演技力でカバーしていた。

 これだけウェブドラマが市民権を得て、多くの作品が送り出されるようになった現在、映画とウェブドラマの違いについて議論できるようにもなってきている。「Mirzapur」はウェブドラマとして素晴らしい作品なのだが、普段映画を観ている者からすると、ウェブドラマならではの弱さみたいなものも感じる。たとえば上で述べた、ゴールーの性格がシーズンをまたぐと一変しているように見えるという問題は、ウェブドラマの製作過程の特性と関連性があるかもしれない。「Mirzapur」では様々な主体が敵の暗殺計画を実行に移すのだが、失敗率が高い。だから、メインキャラクターがなかなか死なない。これも物語をなるべく長引かせようとする力の働くウェブドラマならではの特徴なのかもしれない。それらは時々じれったさを感じるものだった。

 「Mirzapur」は、インドにおけるウェブドラマの普及に多大な貢献をした傑作である。地方都市でのギャング抗争を程よいパッケージで映像化することに成功している。ただし、暴力描写や性描写では、CBFCの検閲から外れているのをいいことに、かなり限界に挑戦している。日本語字幕付きで気軽に鑑賞できるし、映画界への影響も無視できないので、インド映画ファンは是非押さえておくべき作品だ。