Bharat Bhhagya Viddhaata

4.0
Bharat Bhhagya Viddhaata
「Bharat Bhhagya Viddhaata」

 2026年6月12日公開の「Bharat Bhhagya Viddhaata」は、2008年11月26日にムンバイーで発生した同時多発テロにおいて活躍した看護婦たちの物語である。テロ発生時、チャトラパティ・シヴァージー・ターミナス駅(CST)で乱射をした2人のテロリストは、近くにあったカーマー&アルブレス病院に侵入した。そのとき、病院内には400人前後の患者や一般人がいたが、看護師たちが中心になって殺戮を防止し、彼らの命を救った。26/11事件が語られる際にはとかくタージマハル・ホテルやレオポルドカフェでの虐殺が取り上げられがちだが、無名の人々による勇敢な行動もあったのである。「Bharat Bhhagya Viddhaata」は、そんな知られざる英雄譚の映画化だ。ちなみに、題名の意味は「インドの運命を決定する者」であり、インドの国歌「Jana Gana Mana」の一節である。

 監督はマノージ・ターパリヤー。元々作詞家および作家として知られていた人物であり、「Cheeni Kum」(2007年)や「NH10」(2015年)などに関わっている。ビデオ映画の監督経験はあるが、映画館上映向けの映画の監督をするのは初である。今回、彼は作詞も担当している。音楽監督はGVプラカーシュ・クマールである。

 主演はカンガナー・ラナウト。彼女はプロデューサーも務めている。彼女は現在、インド人民党(BJP)の下院議員という点には注意が必要である。「Bharat Bhhagya Viddhaata」は愛国主義的な映画であるが、無理やりモーディー政権称賛にエンディングを持って行っている。26/11事件発生時にはまだモーディー政権は樹立していなかったにもかかわらず、だ。

 他に、ギリジャー・オーク、スミター・ターンベー、イーシャー・デー、プラサード・オーク、サーヤージー・シンデー、アムルター・ナームデーヴ、プリヤー・ベールデー、ザヒード・カーン、アーディティヤ・ミシュラー、スシャマー・デーシュパーンデー、スニール・クマール・パールワール、ヨーゲーシュ・ケールカル、ヴィッタル・カーレー、ヴィジャイ・ゴーカレー、ヤショーダン・マヴラーンカル、ジャイシュリー・メヘター、アーシャー・シェーラル、スヒーター・タッテー、ラスィカー・アーガーシェーなどが出演している。

 ギーター・マーダヴ・ガンダーレー(カンガナー・ラナウト)はムンバイーのカーマー&アルブレス病院に勤務するベテラン看護師だった。規則にうるさいマーヤー・カダム院長に反発しながらも、医師、同僚の看護師、そして患者たちからとても頼りにされていた。ただ、看護師の社会的な地位の低さに時々気が滅入ることもあった。

 2008年11月26日、ギーターは夜勤をしていたとき、ムンバイーの街中に銃声が響き渡る。テレビによると、すぐ近くのチャトラパティ・シヴァージー・ターミナス駅(CST)でも銃撃があったようだ。カダム院長は恐れおののいてリーダーシップを放棄したため、ギーターは率先して病院内にいる人々に指示を出し、テロリストの侵入に備える。だが、CSTで乱射した2人のテロリストは病院にもやって来てしまった。

 看護師たちは患者たちを各部屋に隠したが、中には臨月を迎えた妊婦もたくさんいた。テロリストが病院内をうろついている間に産気づいた妊婦もおり、看護師たちは出産のためにテロリストの目を盗みながら奔走する。ムンバイー警察が到着し、テロリストと対峙したが、テロリストの所持しているAK47の前に警察の装備は無力で、手榴弾を投下されて多くの警察官が負傷してしまう。だが、ギーターは屋上に上がったテロリストの退路を断って閉じこめようとする。テロリストは屋上からパイプをつたって地上に降り、病院を去って行った。その後、その内の一人、アジマル・カサーブ(ザヒード・カーン)は生け捕りにされた。

 朝になり、危機は去った。だが、今度は警察やメディアが大挙してやって来た。警察はアジマルの犯行を立証するために目撃者を求めており、病院にいた看護師たちにその依頼が寄せられた。看護師たちは家族は余計なトラブルに巻き込まれるのを嫌ったが、ギーターは国のためにリスクを負うことを決意する。ギーターは刑務所に行き、アジマルを特定する。そのおかげでアジマルの有罪が確定し、2012年に死刑が執行された。

 カンガナー・ラナウトは、スターキッドではないにも関わらず、17歳の頃にデビュー作「Gangster」(2006年)を撮っており、「Tanu Weds Manu」(2011年)や「Queen」(2014年/邦題:クイーン 旅立つわたしのハネムーン)などのヒットを経てスターとしての地位を確立した、非常に息の長い女優である。さらに、彼女は主演を張れる女優の一人であり、「Manikarnika: The Queen of Jhansi」(2019年/邦題:マニカルニカ ジャーンシーの女王)などの主演作をヒットさせてきた。ただ、次第にヒンディー語映画界の重鎮たちを相手に回して歯に衣着せない発言をするようになり、村八分状態になると同時に、フェミニスト的な立場を先鋭化させ、いまいち扱いにくい女優になっていった。イデオロギーに傾倒するにつれて彼女の主演作のヒット率も落ちた。2024年の下院総選挙においてBJPの候補者として当選し下院議員になったので、このまま女優業はいったん休憩かと思っていたが、まだ彼女の主演作は作られ続けて射る。彼女がプロデュースしているので、資金が続く限り作り続けるのだろう。だが、既に40代に差し掛かっており、以前のように彼女の力だけで主演作をヒットさせるのはますます難しくなるのではないかと予想していた。

 だが、「Bharat Bhhagya Viddhaata」を観てまず感じたのは、彼女の女優としての気迫である。20年間も映画界で消えず消されずに生き残っているだけあって、彼女の実力はもはや疑う余地もない。テロリストに勇敢に立ち向かった看護師を堂々と演じ切っていた。

 また、映画の主題選びも巧みである。「Manikarnika」のように誰もが知る歴史上の女傑ではなく、あえて今まで全く語られてこなかった一般人の勇敢な行動を掘り起こして映画化しており、政治家としての成熟した戦略まで感じる。カンガナー演じるギーターが最後に若い看護師たちの前で語る「私たちは重要ではない。だが、私たちがしていることは重要だ」という言葉は、社会を底辺から支えている人々を勇気づける。インド人一人一人が自分の職務に誇りを持って仕事をすれば、インドはもっといい国になる。そんな未来を想像させてくれる映画であった。ギーターからは、女優としてのカンガナーより、政治家としてのカンガナーの姿がより感じ取られた。

 さらに感心したのは、実際にはそれほど大した英雄譚でない出来事を英雄譚に仕立て上げられていたことだ。ギーターたち看護師たちは、確かに26/11事件発生時に病院内にいた人々の命を助けたかもしれないが、テロリストを捕まえたわけでも倒したわけでもない。映画の題材としては派手さがないのである。それでも、テロリストが迫る中、産気づいた妊婦などの対応に追われるという、緊迫感ある時間帯が長く続き、しかも尻すぼみで終わらせていなかった。ギーターが生け捕りにされたテロリスト、アジマル・カサーブの特定に協力する姿を見せ、彼女の勇気と国への貢献を印象づけることで、高揚感ある結末に持っていくことに成功していた。

 セリフ作家もしていた監督による作品なだけあって、登場人物同士の会話にも味があった。ムンバイーを舞台にしており、看護師や患者は主にマラーティー語混じりのヒンディー語で話をする。その表現がとても生き生きしたもので、まるで本当にムンバイーの病院の日常を切り取ったように感じられた。その一方でテロリストたちは粗野なパンジャービー語を話していたが、それもまた良かった。

 「Bharat Bhhagya Viddhaata」は、カンガナー・ラナウトの健在ぶりを証明する力作だ。26/11事件のときに迫り来るテロリストに対処し多くの人々の命を救った勇敢な看護師たちの物語であり、カンガナーの名演が光っている。無理やりモーディー崇拝が入れ込まれている点は気になるところだが、それを差し引いても十分に26/11事件を題材にした優れた映画の一本だと評価できる。ただし、興行的には失敗に終わった。