
2010年代には、センセーショナルなデリー集団強姦事件の影響もあって、強く自立した女性がもてはやされ、ヒンディー語映画界でも女性中心映画が盛り上がった。そのトレンドの中で生まれ、シリーズ化されてもっとも成功したのが「Mardaani」シリーズであった。第1作の「Mardaani」(2014年)、続編の「Mardaani 2」(2019年)と好評を博し、第3作となる「Mardaani 3」が2026年1月30日に公開された。
「Mardaani」シリーズに共通するのは、剛腕女性警察官僚シヴァーニー・シヴァージー・ロイが、女性を対象とした凶悪犯罪に立ち向かうという骨子である。いわば、女性が女性の救世主になる物語だ。プロデューサーのアーディティヤ・チョープラーが、妻のラーニー・ムカルジーを起用し続け、彼女に活躍の場を与えているという構造も無視できない。
プロデューサーと主演に変化がない一方で、監督は交代し続けている。第1作の監督はプラディープ・サルカール、第2作はゴーピー・プタランであったが、第3作は「Loveyatri」(2018年)のアビラージ・ミナーワーラーが監督をしている。
キャストは、マッリカー・プラサード、ジーシュー・セーングプター、ジャーンキー・ボーディーワーラー、プラジェーシュ・カシヤプ、インドラニール・バッターチャーリヤ、ミカイル・ヤワルカル、ディグヴィジャイ・ローヒーダース、ジンパ・サンポ・ブーティヤー、ジャイプリート・スィン、ナーヴェード・アスラム、シャシャーンク・シェーンデーなどである。
ウッタル・プラデーシュ州ブランドシェヘルで、在トルコ・インド大使サーフー(インドラニール・バッターチャーリヤ)の娘ルーハーニーと、使用人の娘ジムリーが何者かに誘拐された。西ベンガル州スンダルバンで人身売買事件を解決したばかりのシヴァーニー・シヴァージー・ロイ警視正(ラーニー・ムカルジー)はデリーに呼ばれ、国家調査局(NIA)の一員として事件を担当することになる。
ロイ警視正はすぐにサーフー大使の娘を標的にした犯罪ではないと確信し、メディアを使って情報提供者に2,000万ルピーの報奨金を提供すると宣伝する。これが功を奏し、犯人グループの間に亀裂を生じさせる。誘拐実行犯グループは、いったんルーハーニーとジムリーを、乞食マフィアのアンマー(マッリカー・プラサード)に引き渡すが、報奨金の存在を知って引き返し、ルーハーニーを奪い去る。そしてサーフーに身代金を要求する電話を掛けてくる。シヴァーニー警視正はこの交換時にルーハーニーを救い出すことに失敗するが、実行犯の一人を逮捕する。彼からの情報により、アンマーが黒幕にいることが分かる。シヴァーニー警視正は、過去3ヶ月間に93人もの初潮前の少女がインド全国で行方不明になっていることを調べ上げる。これらにアンマーが関与している可能性があった。
シヴァーニー警視正は、アンマーの部下を尾行することで、乞食マフィアから子供を救う活動をしているNGOトレーター基金にたどり着く。トレーター基金を設立したラーマーヌジャン(プラジェーシュ・カシヤプ)は、自身も乞食マフィアの被害に遭った子供であったが、米国に渡って証券トレーダーとして成功した後、インドに帰国し私財を投げ打って基金を設立し、乞食マフィアと戦っていた。身代金として渡した現金に記したマークから誘拐グループの隠れ場所が特定され、シヴァーニー警視正は新米部下ファーティマー・アンワル巡査(ジャーンキー・ボーディーワーラー)とラーマーヌジャンと共に急襲する。実行犯の射殺には成功するが、なんとラーマーヌジャンがルーハーニーを密かに殺害してしまい、実行犯に殺されたと嘘を付いた。実はラーマーヌジャンはアンマーのお気に入りで、アンマーと結託して初潮前の少女の誘拐を主導していたのだった。また、アンマーはシヴァーニー警視正の家に押し入り、彼女の夫ビクラム・ロイ(ジーシュー・セーングプター)を薬物で意識不明にさせ、彼女に挑戦する。
シヴァーニー警視正は事件の担当から外されたが、個人的にアンマーの捜査を続行していた。スィーカルでは、子宮頸がんを患った少女が発見され、やがて死亡するが、彼女の遺した絵から、シヴァーニー警視正はトレーター基金が事件に関与している可能性に気付く。シヴァーニー警視正はラーマーヌジャンのプロフィールを調べ上げ、彼の幼年時代に保護者をしていたムハンマド・アスラム(シャシャーンク・シェーンデー)の捕獲に成功する。アンマーとラーマーヌジャンが強い絆で結ばれていることは確実だった。シヴァーニー警視正はラーマーヌジャンの後を付け、たどり着いた先にアンマーを発見する。シヴァーニー警視正はアンマーとラーマーヌジャンを逮捕する。
だが、拘留中にアスラムが自殺して死んでしまう。自殺は、ファーティマー巡査が目を離した隙に起こった。アスラムが死んだことでアンマーとラーマーヌジャンの関係を証言する証人はいなくなった。ラーマーヌジャンは釈放され、シヴァーニー警視正は停職処分となる。また、ファーティマー巡査が寝返り、アンマーを逃がしてしまう。
釈放されたラーマーヌジャンはファーティマー巡査と共にスリランカに飛んだ。アンマーも少女たちを船に乗せ、スリランカへ向かう。だが、シヴァーニー警視正も昔の部下たちを集めてスリランカへ向かう。ラーマーヌジャンはスリランカでラボを経営しており、子宮頸がんワクチンの研究をしていた。その実験台として初潮前の少女を必要としていたのである。シヴァーニー警視正はアンマーを捕らえ、ラーマーヌジャンと交渉する。アンマーと少女たちを交換することになったが、その前にシヴァーニー警視正はアンマーを殺してしまう。シヴァーニー警視正は、アンマーの遺体に爆弾を設置して引き渡し、ラーマーヌジャンに大怪我を負わせる。そして最後に彼女はラーマーヌジャンに子宮頸がんウイルスを投与する。
ジムリーは救出され、親元に帰された。ラーマーヌジャンは衰弱し、シヴァーニー警視正の前で息を引き取る。
アーディティヤ・チョープラーがプロデュースするヤシュラージ・フィルムス印の映画はファミリーエンターテイメントを基本とし、家族が安心して観ることのできるフィールグッドな映画が特徴である。だが、南インド映画の影響から昨今のヒンディー語映画にも浸透しているバイオレンス映画のトレンドがこの「Mardaani 3」にも見られ、中央映画認証局(CBFC)からは「U/A16+」、つまり「16歳以上推奨)の年齢認証を受けている。
まず映画が取り上げるのが乞食マフィアの暗躍である。インドを旅行すると、手や足のない子供が路上で物乞いをしているのを見掛ける。彼らの多くは、乞食として稼げるようにマフィアによって手足を切り落とされたとされている。つまり、身体障害者が自ら進んで乞食をしているわけではない。一見カオスに見えるインドの路上も、実はマフィアによってシステマティックに管理された空間なのである。「Mardaani 3」の悪役アンマーは、自身も少女時代から売春強要や臓器売買などの被害に遭い、やがて頭角を現して乞食マフィアのボスにのし上がった人物であったし、もう一人の悪役ラーマーヌジャンも、乞食マフィアによって右腕を切り落とされた被害者であった。
確かに、物語の発端となったルーハーニー誘拐事件は、乞食マフィアによる犯行だった。だが、ルーハーニーは乞食をさせられるために誘拐されたわけではなかった。乞食マフィア業界には、さらに巨額の稼ぎを得るための新しいフェーズが到来していた。それは子宮頸がんワクチンの開発である。アンマーとラーマーヌジャンは結託して初潮前の少女を誘拐し、スリランカに送って、そこのラボで子宮頸がんワクチン開発のための実験台にしていた。子宮頸がんはヒトパピローマウイルス(HPV)の感染によって引き起こされるが、ラボでは少女たちにHPVを注入し、発症がなかった少女からワクチンを取り出そうとしていた。そういうわけで、乞食マフィアの標的になるのは少女たちばかりだった。
「Mardaani」シリーズのテーマは「女性が女性を救う」であり、これまでは特に男性による支配や搾取に対する戦いが描かれてきた。今回も悪役に男性がいたのだが、アンマーは女性であり、必ずしも男性だけが悪役ではなくなっていた。その点はバランスを取る努力が払われていたのだと思われる。
ただ、物語の進行がスムーズすぎるきらいがあった。たとえば誘拐実行犯の一人が逮捕され、少し拷問を受けただけですぐに自白する場面があった。主人公シヴァーニー警視正の敏腕ぶりを強調しようとしたあまり、非現実的なほど犯人が事件解決に協力的になってしまっているように見え、スリラー映画にある程度求められる紆余曲折な過程がすっ飛ばされてしまっていた。
シヴァーニー警視正には、インド神話において、無敵の力を得た悪魔マヒシャを退治したドゥルガー女神の姿が重ね合わされている。最後、ラーマーヌジャンを足で踏みつけて懲らしめる様子は、マヒシャースラマルディニー(悪魔マヒシャを殺す女神)そのものだ。「Mardaani」シリーズは、ラーニー・ムカルジーを「現代のドゥルガー女神」として祭り上げようとしている。ラーニーは決して武闘派女優ではなかったのだが、このシリーズによってすっかり女性ヒーローが板に付いた。ただ、意地悪な見方をすれば、40代後半に差し掛かった彼女がロマンス映画でヒロインを務めるのは難しく、この転身は残されたオプションのひとつだったともいえる。
ジーシュー・セーングプター演じる夫ビクラムは相変わらず、警察官の妻が首を突っ込んだ事件でもらい事故を受ける情けない役回りだ。もはやお約束化している。
「Mardaani 3」は、アーディティヤ・チョープラーとラーニー・ムカルジーの夫妻が大事に育ててきた「Mardaani」シリーズの最新作であり、「女性が女性を救う」という定番の筋書きを今回も踏襲している。2010年代の女性中心映画トレンドを今でも守り続けているシリーズで、このまま長寿シリーズ化する可能性もある。ただ、この第3作についてはどうも一本調子でスリルに欠け、映画としての楽しみが不足していた。興行面にもその不足が如実に現れており、製作コストなどを回収できずに終わった。
