ヒンディー語映画において、家族や友人などが集まったときに、定番ともいえるくらいよく遊ばれる遊びがダム・シャレード(Dumb Charades)である。
「Charades」とはフランス語であり、原義は「茶番劇」みたいな意味である。元々は18世紀のフランスで生まれ、貴族の間で流行した言葉当てゲームの一種だった。これが英国に伝わり、無言(Dumb)のまま演じられるジェスチャーの示す言葉を当てるゲームに進化した。それがインドに伝わり、独自ルールが加わって大衆に普及した。よって、インド原産の遊びではない。単に「シャレード」ともいう。ここではインドでのダム・シャレードについてのみ解説する。
インドで遊ばれているダム・シャレードの最大の特徴は、映画の題名を当てるゲームに変化したことである。つまり、映画の豊富な知識がないと勝てない。ヒンディー語圏では当然のことながらヒンディー語映画の題名を当てることになるが、その他の言語圏では地元映画の題名がお題になる。いかに映画がインド人の生活に密着しているかを示す好例といえるだろう。
ルールはこうである。まず、参加者を2つのグループに分ける。仮に一方をグループA、もう一方をグループBとする。ゲームが始まると、グループAの代表者はグループBの代表者にお題を出す。このお題がヒンディー語映画の題名になる。このお題を知っているのは、グループBの中では代表者のみになる。
グループBの代表者はお題を聞いた後、同じグループの仲間に対して、ジェスチャーを使ってその題名を知らせようとする。このとき、言葉に頼るのは厳禁である。グループBの仲間は代表者のジェスチャーを必死に読み取り、お題を当てようとする。制限時間内に当てることができればポイント獲得、当てることができなければ無得点となる。
こうしてグループAとグループBの間で攻守を交代しながら最終的な勝敗を決めることになる。
インドのダム・シャレードでは独自に重要なヒントになる共通ジェスチャーが発展していることも見逃せない。
一般的には、まず題名の単語数を伝える。数を伝える方法はいくつかあるが、指の本数や手を叩く回数などで何単語から成る題名なのかを伝える。
次に、その単語が英語なのかヒンディー語(地元言語)なのかを伝える。親指を立てて上に向ければ英語、下に向ければヒンディー語になる。
また、親指を立てて後ろに倒すと、「昔の映画」ということを伝える特別なジェスチャーになる。他にもいくつかヒントを伝える共通ジェスチャーが用意されている。
このように、代表者は共通ジェスチャーを使ってヒントを出しながら、お題となっている映画の題名を単語ひとつひとつに区切って身振り手振りで表現したり、その映画の印象的なシーン、ポーズ、ダンスなどを演じて見せたりして、同じグループの仲間に正確に当ててもらえるようにする。
前述の通り言葉を口にするのは厳禁だが、他にも違反項目がある。たとえば、口の動きで単語を伝えようとしたり、空中に文字を書いて示したりするのは禁止である。その場にある具体的な事物を指さして単語を伝えるのも通常は避けられる。
ダム・シャレードに強くなるためには、ヒンディー語映画の知識も必要だが、ジェスチャーをする代表者と、それを当てるグループの仲間の間で息がぴったり合っていることも重要だ。そして、ヒンディー語映画でダム・シャレードが登場する場合は常に、登場人物の関係性や結びつきを示すギミックとして使われていることに注目すべきである。
ダム・シャレードが出て来る映画としてもっとも有名なのは、インド人に愛されて止まない名作ロマンス映画「Kuch Kuch Hota Hai」(1998年)であろう。もしかしたらダム・シャレードがインド人に普及したのは、この映画があったからかもしれない。以下はそのシーンの抜粋である。
このシーンでは、グループAにラーフル(シャールク・カーン)とアンジャリ・シャルマー(カージョル)、グループBにラーフルの母親(ファリーダー・ジャラール)とラーフルの娘アンジャリ・カンナー(サナー・サイード)が振り分けられる。そして、アンジャリ・カンナーは父親ラーフルと彼の幼馴染みアンジャリ・シャルマーをくっ付けようとしており、そのきっかけを作るために、ダム・シャレードを企画したという前提が重要である。
まずアンジャリ・カンナーがアンジャリ・シャルマーにお題を出す。お題は「Rangeela」(1995年)であった。「Rangeela」は主演ウルミラー・マートーンドカルが踊るセクシーなダンスで話題になった映画だ。アンジャリ・カンナーはラーフルを悩殺するためにこの映画をあえて選んだと読み取れる。アンジャリ・シャルマーは「Rangeela」を伝えるため、最初は恥じらっていたものの、思い切ってセクシーな踊りを踊り出す。BGMとして「Rangeela」のテーマソング「Rangeela Re」も流れるため観客にはすぐに答えが分かる。その内、グループAに所属する少女が「Rangeela」を当てる。
次にラーフルの母親がお題を出される。お題は大ヒットしたファミリー映画「Hum Aapke Hain Koun..!」(1994年)。ラーフルの母親は、サルマーン・カーンがマードゥリー・ディークシトのお尻をパチンコで撃つ有名なシーンを再現する。BGMには「Didi Tera Devar Deewana」が流れる。本内ならばグループBの仲間が答えを言わなければならなかったが、グループAのラーフルが誤って「Hum Aapke Hain Koun..!」と答えを口走ってしまい、自殺点となってしまう。
最後にアンジャリ・カンナーがラーフルに「I Love You」というお題を出す。ラーフルは「そんな映画はない」と抗議するがアンジャリ・カンナーは聞かない。仕方なくラーフルは、まず3本指を見せ、3単語だと伝える。だが、なかなかうまく表現できない。すると、グループA所属の少年がしびれを切らし、助け船を出す。そのおかげでアンジャリ・シャルマーは「I Love You」と当てる。もちろん、彼女は答えを答えただけだったが、その言葉は感情を伴ってラーフルの心に届く。狙い通り、これがラーフルとアンジャリ・シャルマーを接近させるのであった。
ダム・シャレードは、「Jaane Tu… Ya Jaane Na」(2008年)や「Kapoor & Sons」(2016年)など、他にも多くの映画で遊ばれている。いつかインド人とダム・シャレードを遊ぶためにインド映画を観まくるのも一興ではなかろうか。
