Happy Patel: Khatarnak Jasoos

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Happy Patel: Khatarnak Jasoos
「Happy Patel: Khatarnak Jasoos」

 2026年1月16日公開の「Happy Patel: Khatarnak Jasoos」は、ブラックコメディー風味のスパイ映画である。著名なインド人コメディアン、ヴィール・ダースと、インド系英国人俳優カヴィ・シャーストリーが共同監督し、ヴィール自身が主演を務めている。

 アーミル・カーンがプロデューサーであり、カメオ出演もしている。ヒロインは「Tribhanga」(2021年/邦題:トリバンガ ~踊れ艶やかに~)などに出演のミティラー・パールカル。他に、モーナー・スィン、シャリーブ・ハーシュミー、スルシュティ・タワデーなどが出演している。

 アーミル・カーンのカメオ出演も豪華であるが、他にも多くの俳優・セレブが出演している。インド映画ファンとしてつい過敏に反応してしまうのはアーミルの甥イムラーン・カーンのカメオ出演だ。「Jaane Tu… Ya Jaane Na」(2008年)で鳴り物入りのデビューを果たしたイムラーンはしばらく次世代スターとしてキャリアを重ねていたが、「Katti Batti」(2015年)を最後に俳優業を引退しスクリーンから消え去った。その彼がカメオ出演とはいえ10年振りに銀幕に復帰したのである。終盤に登場するサンジーヴ・クマールはインドでもっとも有名なシェフだ。多数のTV番組に出演し、著作も多数である。他に、中国系インド人俳優メイヤン・チャン、インド系英国人歌手アッシュ・キング、インド人女性コメディアン、スムキー・スレーシュなどが出演している。

 副題の「Khatarnak Jasoos」とは「危険なスパイ」という意味である。

 1991年、ゴアのパンジョール。英国諜報機関MI7のエージェント、セバスチャン・ペイズリーとロジャー・スミスは、地元ギャングのドン、ジミー・マリオ(アーミル・カーン)と撃ち合いになる。マリオは銃弾を受け息を引き取り、後には2人の息子と1人の娘が残された。一方、ペイズリーとスミスは、銃撃戦に巻き込まれて命を落とした清掃人サクバーイー・パテール(スムキー・スレーシュ)の息子を育てることになった。

 2025年、ロンドン。ペイズリーとスミスの息子として育てられたハッピー(ヴィール・ダース)は、自身のルーツがインドにあることを初めて知る。MI7のケネス・モール局長は、パンジョールのマフィアを束ねるドン、ママ(モーナー・スィン)に誘拐された英国人技術者ベアトリス・フェファーバウムの救出作戦をハッピーに託した。ママはベアトリスに美白クリームの開発を急がせていた。ハッピーは訓練を受け、インドに送り込まれる。

 ハッピーはパンジョールで現地協力者のギート(シャリーブ・ハーシュミー)やロキシー(スルシュティ・タワデー)と出会い、徐々にインド生活に慣れていく。また、踊り子のルーパー(ミティラー・パールカル)とも出会い、恋に落ちる。ベアトリスがママに囚われていると気付いたハッピーはママの経営するレストランに潜入するが追い出されてしまう。実はルーパーはママに操られており、ハッピーとギートはママに捕まってしまう。ハッピーは左手の小指を切断されてしまうが、ロキシーの活躍により、何とか脱出に成功する。

 ハッピーは、ママを捜査する地元警察と手を結び、ママのアジトを急襲する。国際モデル、ミリンド・モレア(イムラーン・カーン)の乱入もあってベアトリスの救出には成功するものの、そこにママはいなかった。ハッピーはママの支配に怯えていたパンジョールの人々を扇動しママに立ち向かわせる。ハッピーとママは、著名なシェフであるサンジーヴ・クマールを審査員として招待し料理対決をすることになる。この対決でハッピーは勝利するが、怒り狂ったママの攻撃を受ける。ハッピーはインド映画を観て体得した身のこなしを活用しママを撃退する。ママは警察に逮捕される。また、英国ではママと共謀していたモール局長も逮捕される。

 コメディアンとして人気のヴィール・ダースが脚本を書き、監督・主演もこなしているだけあって、スパイ映画とはいえど、全体的には物語は下ネタを混ぜたブラックコメディーのノリで進行する。ヴィール・ダースが主演の一人を務めた「Delhi Belly」(2011年)のノリに近い。このノリに付いて来られれば楽しめるし、付いて来られなければ振り落とされるという、観客を選ぶコメディー映画だ。

 英国で英国人スパイによって育てられ、インドにルーツがあることも自覚せずに成長してMI7の落ちこぼれスパイになった主人公ハッピーが任務を受けてインドに乗り込むというのが物語の導入部である。インド人がインド文化を外国人視点で笑いのネタにしている点は目新しい。たとえばハッピーはMI7での訓練時に、インド人は食事のときにスプーンを使わず手で食べるということを教わるが、実際にインドに来てみるとインド人もスプーンを普通に使っているのを見て驚くといった逆カルチャーショックがネタになっていることが多かった。

 また、ハッピーは一夜漬けでヒンディー語を習得したため、片言のヒンディー語を話す。その片言のヒンディー語を笑うコメディーにもなっていた。彼は時々間違った発音をするのだが、それが下ネタになっていることもあった。たとえば、「鳥」という意味の普通名詞「चि‌ड़ियाチリヤー」と、直訳すれば「マンコ野郎」という意味になる酷い卑語「चूतियाチューティヤー」が本来ならば感動を催す大事な場面で混同して使われており、何と反応していいのか分からないような、渇いた笑いを提供していた。

 過去のヒンディー語映画のパロディーも積極的に盛り込まれていた。シャールク・カーンの象徴的な腕を広げるポーズが何度も笑いに使われていた他、「Jaane Tu… Ya Jaane Na」、「Delhi Belly」、「Yeh Jawaani Hai Deewani」(2013年)といった映画の音楽が引用されていた。また、ハッピーが悪役ママと戦うシーンでは、ハッピーはさまざまな映画のダンスシーンを観て覚えたムーブを使ってママの攻撃をかわしながら反撃もする。ヒンディー語映画ファンにとっては抱腹絶倒のシーンである。

 ハッピーもママも料理に一家言を持っており、二人が対峙した際に選ばれる対決方法が料理バトルになるというのももちろんブラックコメディーの一環だ。そこにセレブシェフのサンジーヴ・クマールが審査員として登場するというのは、アーミル・カーンの人脈の成せる業であろうか。

 ママは美白クリームを開発して、色白の肌に憧れるインド人から金を巻き上げようとしていた。そのために技術者のベアトリスが誘拐され、開発を急がされていた。これは、インド人の精神に巣食う、美白に対する執念の風刺だといえよう。その広告塔として雇われたのが、イムラーン・カーン演じる「ミリンド・モレア」を名乗る国際モデルであった。これは、ミリンド・ソーマンとディノ・モレアというモデル兼俳優を合体させた名前だ。確かにミリンドもディノもイムラーンもインド人の中では色白な俳優である。

 ママ役を演じたモーナー・スィンは、ヒロイン女優としては大成しなかった女優だが、悪役女優として開花しつつある。「Happy Patel: Khatarnak Jasoos」での女性親分の役柄も良かったし、「Subedaar」(2026年)でも迫力のある女性マフィアを演じて注目を集めた。

 「Happy Patel: Khatarnak Jasoos」は、監督デビューを果たしたコメディアン、ヴィール・ダースが自身のセンスを総動員して作り上げたブラックコメディー風味のスパイ映画だ。いや、スパイ映画風味のブラックコメディー映画と表現した方が適切だろう。下ネタから映画パロディーまでバラエティーに富んだ笑いが詰め込まれ、暇なひとときを楽しく過ごしたい目的ならばアリの映画だが、コント劇の詰め合わせでもあり、映画としてのまとまりには欠ける。コメディー映画が好きな人ならば観て損はないだろう。