
2025年9月5日公開の「Ufff Yeh Siyapaa(ああ、とんだ災難)」は、ほとんどセリフなしに進行する無声映画だ。ジャンルはコメディーまたはホラーコメディーに分類される。チャールズ・チャップリンやバスター・キートンの無声コメディー映画や、あるいは「Mr. ビーン」などを想起させる。
プロデューサーはラヴ・ランジャン。監督は「Kuch Khattaa Ho Jaay」(2024年)のGアショーク。音楽はARレヘマーン。キャストは、ソーハム・シャー、ヌスラト・バルチャー、ノラ・ファテーヒー、オームカール・カプール、シャーリブ・ハーシュミーなど。
ウッタル・プラデーシュ州マトゥラーのアームラパーリー・タワーに住む凡庸な中年男性ケーサリー・ラール・スィン(ソーハム・シャー)は、隣に住むグラマラスなカーミニー(ノラ・ファテーヒー)が気になって仕方がなかった。彼の態度に妻のプシュパー(ヌスラト・バルチャー)は腹を立て、息子を連れて実家に帰ってしまう。ケーサリーは気を取り直し、一人の時間を満喫しようとする。
ところが、ケーサリーは厄介な小包を受け取っていた。その小包は本来ならばコールカーターから台湾に送られるはずだったが、手違いで彼の手元に届いてしまっていた。中には覚醒剤が入っており、警察がケーサリーを監視しながらその受取人が現れるのを待ち構えていた。そんなことは露知らず、ケーサリーは夜に自宅で一人の時間を楽しんでいたが、なぜか床にプシュパーが血を流して倒れているのを発見する。ケーサリーは動揺するが、証拠を隠滅するため、彼女をずた袋に入れて外に持って行って橋から落として捨てる。
翌日、ケーサリーの家を警察官ハスムク(オームカール・カプール)が訪ねてくる。彼は唖者グングラー(シャーリブ・ハーシュミー)を連れており、彼の証言に従って遺体を探しにきたのだった。だが、遺体はケーサリーが捨てていたので見つからなかった。グングラーはハスムクに叱られながら連れて行かれる。ケーサリーは心配になって遺体を捨てた場所を再訪するが、そこに遺体はなかった。
実はケーサリーが捨てた遺体は、ラヴァンニャー(ヌスラト・バルチャー)という女性だった。数時間前、ラヴァンニャとグングラーはマトゥラーのバス停にて、小包の本来の受取人であるケサインと共にいた。小包がアームラパーリー・タワーに住むケーサリーの家に届いてしまったことを知った二人は、彼の留守中にケーサリーの家に忍び込む。だが、そこでグングラーが裏切り、ラヴァンニャーを不意打ちして気絶させる。そのまま彼女はケーサリーの家に倒れており、ケーサリーに発見されたのだった。よって、彼が橋の下に落としたときにはまだ生きていた。
ケーサリーが家に戻ると、今度は別の遺体が横たわっていた。それは、ハスムクが尋問中に誤って殺してしまったダフ屋チャングーであった。グングラーからケーサリーの家について聞いたハスムクは、ケーサリーの留守中にグングラーと共に家に忍び込み、チャングーの遺体を置いてきたのだった。驚いたケーサリーはチャングーの遺体のバッグに詰め、運び出そうとする。だが、そこへハスムクがパトカーに乗って駆けつけた。
隣の部屋ではカーミニーがパトカーのサイレンを聞いていた。実は彼女の部屋では偽札の印刷が行われており、彼女は偽札をバッグに詰めて逃げ出そうとした。さらに、そこへちょうどプシュパーが帰って来る。プシュパーはバッグを持っていた。これらのバッグが全て偶然同じバッグであり、混乱を呼ぶ。また、ラヴァンニャーもアームラパーリー・タワーに再びやって来るが、彼女はプシュパーを見て、すぐに双子の姉妹であることを確信する。3つのバッグが大混乱を巻き起こす中、偽札が入ったバッグが開き、アパートに偽札がばらまかれる。カーミニーやラヴァンニャーなどは逮捕され、ケーサリーとプシュパーは仲直りし、ハスムクはチャングーの遺体を受け取ってしまった。
主人公ケーサリーの立場から見たら、怪奇現象の連続である。隣人カーミニーへの浮気を疑い嫉妬した妻プシュパーが息子を連れて実家に帰ってしまったが、その後、自宅にプシュパーの血まみれの遺体が倒れていた。ケーサリーは自分が誤って殺してしまったものだと勘違いし、警察に通報せず、遺体を遺棄する。だが、翌日確認しに行ってみると遺体は忽然と消えていた。しかも、家には新たな遺体が転がっていた。彼にとっては何が何だか分からない。そんなホラー現象がコミカルに描かれており、最近ヒンディー語映画界で流行しているホラー・コメディーの要素が強い。ケーサリーの怖がる様子が滑稽でおかしく、それを見て笑うのだ。
だが、観客はその怪奇現象の種明かしをされる。まずポイントになるのは、プシュパーに双子の姉妹がいることである。なぜ生き別れたのかの説明はなかったが、プシュパーとラヴァンニャーをヌスラト・バルチャーがダブルロールで演じている。プシュパーが実家に帰った後、自宅に倒れていた遺体はラヴァンニャーのものだった。しかも、このとき実はラヴァンニャーは生きていて、死んだふりをしていただけだった。ラヴァンニャーはケーサリーのことを猟奇殺人鬼だと勘違いしており、彼から何とか逃げようとする。これもまた抱腹絶倒のシーンとなる。ちなみに、ラヴァンニャーがケーサリーの家に忍び込んだのは、彼の家に誤って届いた小包を奪い返すためだった。
さらに、ケーサリーの家に再度現れた遺体は、実は警察官ハスムクが誤って殺してしまったダフ屋チャングーのものだった。ラヴァンニャーを裏切ったグングラーに案内されてハスムクはチャングーの遺体をケーサリーの家に置いたのだった。また、ケーサリーのスケベ心を刺激して止まなかった隣人カーミニーは実は偽札を印刷する犯罪者だった。
最後にはこれまでの登場人物がアームラパーリー・タワーに集結し、3つのバッグを巡って大騒動を繰り広げる。それらのバッグは全く同じデザインであり、中にはそれぞれ、カーミニーが印刷した偽札、チャングーの遺体、そしてプシュパーの衣類が入っていた。これらがさまざまな人々の手を行ったり来たりするのである。
普通に撮っても成立した映画だったと思うが、「Ufff Yeh Siyapaa」がユニークなのは、登場人物にほとんどセリフをしゃべらせなかったことだ。文字情報はあるが、セリフはあるとしても「ウ~」とか「ア~」ばかりで、あまり意味がない。俳優たちは多少大袈裟な身振り手振りでコミュニケーションを取る。さらに、ARレヘマーン作曲のBGMがほぼ全ての時間で流れており、登場人物の感情表現を補助する。
ソーハム・シャーは哀愁漂う中年男性を演じ、ヌスラト・バルチャーは対照的な双子の姉妹をダブルロールで演じ分けた。超絶ダンサーとして知られるアイテムガール女優ノラ・ファテーヒーは今回、ほぼ俳優起用である。モロッコ系カナダ人のノラはヒンディー語が苦手なはずので、無声映画では逆に活躍できたかもしれない。曲者俳優シャーリブ・ハーシュミーは唖者役を演じていたが、誰もセリフをしゃべらない映画の中で、かえって一番雄弁に音を発していた。これらの俳優たちの取り合わせはなかなか珍しい。
「Ufff Yeh Siyapaa」は、現代において突然変異的に作られた、無声映画的なコメディー映画である。セリフがなくても十分に筋を追うことは可能で、サスペンスやサプライズもきちんと用意されており、しかも全体的にはコメディーに仕上げられている。変わった体験をしたい人におすすめの映画である。
