Kantara: A Legend – Chapter 1 (Kannada)

3.5
Kantara: A Legend - Chapter 1
「Kantara: A Legend – Chapter 1」

 「Kantara」(2022年)は、カンナダ語映画としては異例の全国ヒットとなった作品である。リシャブ・シェッティーが監督・主演をし、トゥルナードゥ地方に伝わるブータ・コーラーを題材にした土着感たっぷりのアクション映画であった。早くから続編の製作が発表されていたが、2025年10月2日に公開された「Kantara: A Legend – Chapter 1」は、正確にいえば「Kantara」の前日譚にあたる作品であった。リシャブ・シェッティーが監督・主演を務めている。

 プロデューサーはホーンバーレー・フィルムスの創始者ヴィジャイ・キラガンドゥール。近年、カンナダ語映画は急速に台頭しているが、インド全国で話題になっているカンナダ語映画のほとんどは彼が製作したものである。「Kantara」を含め、「K.G.F: Chapter 1」(2018年/邦題:K.G.F: Chapter 1)と「K.G.F: Chapter 2」(2022年/邦題:K.G.F: Chapter 2)のプロデューサーも彼であるし、また、テルグ語映画「Salaar: Part 1 – Ceasefire」(2023年/邦題:SALAAR サラール)や、ヒンディー語版を含む多言語展開された3Dアニメーション映画「Mahavatar Narsimha」(2024年)もホーンバーレー・フィルムスの製作である。現在、もっとも注目されているプロデューサーの一人といえる。

 監督・主演リシャブ・シェッティーの他には、ジャヤラーム、ルクミニー・ヴァサント、グルシャン・デーヴァイヤー、ラミター・シャイレーンドラ、プラモード・シェッティー、ナヴィーン・D・パディル、プラカーシュ・トゥミナード、ハリプラシャーントMG、アチユト・クマールなどが出演している。

 オリジナルのカンナダ語版の他に、ヒンディー語、タミル語、テルグ語、マラヤーラム語の吹替版も同時公開された。鑑賞したのはカンナダ語版で、英語字幕を頼りに内容理解に努めた。

 1970年、父親の後を受け継いでブータ・コーラーの祭礼を行ったアンナッパーは森林の中で姿を消す。アンナッパーの息子シヴァーは長老から、父親が姿を消した理由として伝説を聞く。

 カダンバ朝時代、バーングラ王国のヴィジャエーンドラ王(ハリプラシャーントMG)は、釣り人マーヤーカーラーから貴重なスパイスが採れる場所を聞き出し、カーンターラーの森に足を踏み入れる。そこでヴィジャエーンドラ王はイーシュワラ神の群神パンジュルリとグリガによって殺される。その場にいたラージャシェーカラ王子はカダパ族の助けを借りて脱出し、王国に戻る。ラージャシェーカラ王はカーンターラーの森を立入禁止とし、国を治めた。

 ラージャシェーカラ王には娘が生まれたが、四肢が麻痺していたため、カダパ族に預けた。次に息子クラシェーカラ(グルシャン・デーヴァイヤー)が生まれて成長し、ラージャシェーカラ王は息子に王位を譲った。クラシェーカラは王位に就いてからも放蕩三昧で、あるとき悪友と共にカーンターラーの森に入った。そこで狩りをしたクラシェーカラ王の一団は何者かに襲われる。クラシェーカラ王は逃げ帰るが、一団の中にいた兵士チェンナ(プラカーシュ・トゥミナード)は取り残され、捕らえられてしまう。

 カーンターラーの森ではベルメ(リシャブ・シェッティー)に率いられた部族たちが原始的な生活を送っていた。ベルメは聖なる井戸の中で虎に守られて見つかった孤児で、部族の女性によって育てられた。ベルメはチェンナを道案内役にしてバーングラ王国に潜入する。彼らはそこで騒動を起こして捕らえられ、投獄されるが、怪力を持った彼らにとって、脱獄は容易だった。カーンターラーの森に戻ったベルメたちは、バーングラ王国で見たことを仲間に話し、灌漑をするなど、村を発展させる。また、カーンターラーの森で採れるスパイスが港の市場で高値で売れることを知り、彼らは港で直売を始め、利益を上げる。最終的には港を占領してしまった。さらに、ベルメはクラシェーカラの姉カナカヴァティー姫(ルクミニー・ヴァサント)と恋仲になる。

 一連の出来事に怒りを募らせたクラシェーカラ王は、ベルメの留守中に村を襲撃し、ベルメの育ての母親など多くの部族民を殺害する。駆けつけたベルメにグリガが憑依し、圧倒的な力でクラシェーカラ王の兵士たちを次々になぎ倒す。そして最後にクラシェーカラ王を惨殺する。遺体はバーングラ王国に運ばれた。

 ラージャシェーカラは王位に復帰し、カナカヴァティー姫が補佐となる。ラージャシェーカラ王はシヴァ寺院を建立中だったが、本尊のシヴァリンガにヒビが入り、凶兆を示す。カナカヴァティーはカーンターラーの森へ行き、ベルメの前でひざまずいて、寺院の落成式に協力するように懇願する。寺院は完成するが、その後、部族の子供たちが次々に病に倒れる。実はこれは、カナカヴァティー姫がカダパ族の呪術師と結託して行っていたことだった。

 ベルメはバーングラ王国に戦争を仕掛ける。部族民の軍隊が優勢に戦争を進めるが、カナカヴァティーは呪術によってラージャシェーカラ王に魔物的な力を加える。力を得たラージャシェーカラ王にはベルメもかなわなかった。そこへマーヤーカーラーが現れ、ベルメに助言する。その助言の通り、ベルメはカーンターラーの森にある聖なる井戸に入る。そこで彼はブラフマラークシャスと出会い、三叉戟を手にしてシヴァ神の化身となる。さらに、カナカヴァティー姫を倒すため、チャーヴンディー女神の憑依も受ける。無敵の力を得たベルメはカナカヴァティー姫とラージャシェーカラ王を次々に殺す。こうしてカーンターラーの森に平和が訪れる。だが、ベルメは聖なる井戸に飛び込み、姿を消した。

 前作の「Kantara」は、聖なる森林を巡る政府、地主、部族民の間の三つ巴の争いを描いていた。カンバラーと呼ばれる牛レースやブータ・コーラーというシャーマニズム的な舞踊劇が盛り込まれ、カルナータカ州の辺縁地域に伝わる土着文化が前面に押し出された濃厚な映画であった。

 「Kantara: A Legend – Chapter 1」は、その前日譚の位置づけである。「Kantara」の主人公シヴァーは、父親アンナッパーがブータ・コーラーを演じた後に姿を消したことをトラウマに感じていた。そのシヴァーが長老から、村に伝わる伝説を聞くという導入部で物語が始まる。時代はカダンバ朝の頃ということだったが、カダンバ朝は4-6世紀に南インドに存在した王朝である。だが、ポルトガル人が交易に訪れていたので、それを重視するならば、ヴァスコ・ダ・ガマがインド航路を発見した1498年以降の話ということになる。つまり、「Kantara」シリーズはこの時点で時代劇に移行する。

 それだけならまだしも、次第にジャンルが「Baahubali」シリーズ(2015年2017年)のようなエピック・ファンタジー・アクション映画になっていく。中世的な戦争シーンもあれば呪術もあるし、ブラフマラークシャスという魔物も登場する。確かに「Kantara」にも憑依シーンはあったが、ブータ・コーラー自体が神下ろし的な祭礼儀式であるため、まだ地に足が着いていた。だが、「Kantara: A Legend」に移行したら、その展開はもはや人知を超えていた。狐につままれたような気持ちでその超絶展開を見守ることになった。

 また、ホーンバーレー・フィルムス特有の現象なのかもしれないが、映画に緩急がない。ずっと急展開なのだ。「K.G.F」シリーズで培われた、まるでダイジェスト版のようなスピーディーなストーリー展開はこの「Kantara: A Legend」にも引き継がれ、目まぐるしく話が動いていく。上映時間の大部分は、目の前で何がなぜ起こっているのかよく分からない。よくよく考えてみればつじつまが合わないところが多いのだが、迫力ある映像に圧倒され、押し切られてしまう。この点でも狐につままれたような気持ちになる。

 「Kantara: A Legend – Chapter 1」は、大ヒットしたカンナダ語映画「Kantara」の前日譚である。前作と同じくリシャブ・シェッティーが監督・主演を務めている。前作を上回る迫力ある映像の数々が見どころだが、前作と違う方向に行ってしまっているのが気になって仕方がない。2025年を代表する大ヒット作になっているが、そこまで完成度の高い作品とは思えなかった。当然、今後「Chapter 2」も公開される予定であるので、前日譚が完結したら改めてこの映画を評価してみたい。