
2025年9月12日公開の「Ek Chatur Naar(一人の賢い女性)」は、スラム街に住む、貧しいが頭の切れる女性が、裕福で傲慢な実業家に一杯食わせるというコン映画の一種である。ただし、どんでん返しも用意されている。
監督は「OMG: Oh My God!」(2012年)などのウメーシュ・シュクラー。音楽はアマル・モーヒレー。主演はディヴィヤー・コースラー・クマール。他に、ニール・ニティン・ムケーシュ、チャーヤー・カダム、スシャーント・スィン、ラジニーシュ・ドゥッガル、ザーキル・フサイン、ラーフル・ミトラー、ヤシュパール・シャルマー、ヘーリー・ダールーワーラー、ローズ・サルダーナー、ギーター・アガルワール・シャルマーなどが出演している。
マムター・ミシュラー(ディヴィヤー・コースラー・クマール)は、ウッタル・プラデーシュ州の州都ラクナウーにあるスラム街に住んでいた。5年前、夫(ラジニーシュ・ドゥッガル)を亡くし、母親ラーダー(チャーヤー・カダム)、息子ソーヌーと共に借金取りのタークル(ヤシュパール・シャルマー)におびえながら毎日を過ごしていた。マムターはラクナウー・メトロの受付に就職したばかりだった。
裕福な実業家アビシェーク・ヴァルマー(ニール・ニティン・ムケーシュ)は、悪徳政治家クライシー(ザーキル・フサイン)と結託して貧しい人々から金を騙し取ってもうけていた。アビシェークにはアンジャリ(ローズ・サルダーナー)という妻がいたが、二人の間には子供がいなかった。同居する母親ウルミラー(ギーター・アガルワール・シャルマー)は嫁のアンジャリと不仲でケンカばかりしていた。アビシェークは、会社の部下ティナ(ヘーリー・ダールーワーラー)と不倫関係にあった。
アビシェークはラクナウー・メトロで携帯電話を落としてしまった。その携帯電話の中には、クライシーから送られてきた重要なリストや、ティナとの不倫ビデオが保存されていた。携帯電話はアブドゥルというこそ泥が盗んで逃げる。マムターは泥棒を追いかけるが、捕まえられなかった。アビシェークは何としてでも携帯電話を見つけ出そうとし、子飼いの警察官トリローキーに連絡する。
実は、マムターがアブドゥルと結託してアビシェークの携帯電話を盗み出していた。マムターはアビシェークに電話し、2千万ルピーを要求する。一方、トリローキーはアブドゥルを見つけ出し尋問する。アブドゥルはマムターの名前を出す。アビシェークはトリローキーと共にマムターの家を訪れラーダーを脅すが、マムターは隠れていて見つからなかった。トリローキーはマムターを警察署に連れて行く。だが、マムターはアンジャリとウルミラーに取り入り、メイドとしてアビシェークの家で働き出す。秘密を握られているアビシェークはマムターに手出しができなかった。
アビシェークは部下にソーヌーを誘拐させ、マムターをおびき出す。だが、マムターの方が何枚も上手だった。実はマムターの夫は銀行員で、彼が5年前に自殺したのは、アビシェークがティナやクライシーと共に農民をだまし、彼らから金を巻き上げたからだった。マムターの夫は責任を感じ、タークルから借金をした上で自殺してしまう。マムターはタークルから身を隠しながら、アビシェークに対して復讐の機会をうかがっていたのだった。トリローキーもマムターの味方だった。しかも、アビシェークの部下が誘拐したのはソーヌーではなくタークルの息子ヤシュだった。また、このときのやり取りはトリローキーの携帯電話を通して警察本部に送られていた。アビシェークの家は捜索を受けていた。
土壇場でアビシェークはソーヌーを連れて逃げ出し、彼を殺そうとするが、逆に列車にひかれて死んでしまう。汚職に関与したクライシーやティナは逮捕され、アビシェークのせいで大金を失った農民たちには、彼が貯め込んだ裏金から補填が行われた。
主演のディヴィヤー・コースラー・クマールは「Ab Tumhare Hawale Watan Sathiyo」(2004年)などに出演していた女優だが、2005年にTシリーズ社のブーシャン・クマール社長と結婚し、すぐに銀幕から離れてしまった。だが、子育ても一段落したと見え、2020年代に女優として復帰し、いくつかの作品に出演している。Tシリーズ社はヒンディー語映画界を中心に絶大な権勢を誇るコングロマリットであり、その社長夫人ということで、30代後半になってもこのように主演作を与えられるという恵まれた環境にいる。それだけなら道楽の一種と割り切ることもできるだろうが、「Ek Chatur Naar」で披露した彼女の演技力は素晴らしく、複雑な気持ちになるほどだった。もしクマール社長と結婚せず、デビュー後もそのまま女優としてキャリアを積んでいたら、人気女優になっていたかもしれない。それほど「Ek Chatur Naar」での彼女は輝いていた。
特にこの映画が優れていたのは前半であった。ディヴィヤー演じるマムターは、貧しいながらも悪知恵の働く女性で、しかも度胸が据わっており、借金取りの取り立てにもめげず、小悪党を組織して目的を遂行する統率力も持ち合わせている。アビシェークから大金を引き出そうとする中で反撃にも遭うが、へこたれずに体制を立て直し、再び有利なポジションを確保して、盗んだ携帯電話を使ってゆすりを続行する。これほど人間味のある生き生きとした女性主人公がこれまでいただろうか。チャーヤー・カダム演じる母親ラーダーも負けず劣らず個性派だ。アル中の上に平気でオナラまでする。女性を神格化して崇めようという意図は全く感じられない。
だが、残念ながら、前半の勢いは後半まで続かなかった。たまたまマムターが携帯電話を盗んだ相手がアビシェークかと思っていたが、実は夫の仇であることが発覚するのだが、ちょっと強引だった。しかも、最後には列車の車両基地で登場人物が勢揃いするが、これも無理やりだった。アビシェークの最期もあっけないもので拍子抜けした。
「Ek Chatur Naar」は、Tシリーズ社の社長夫人ディヴィヤー・コースラー・クマールのために作られた映画だといっていい。だが、ディヴィヤーが女優としての才能を遺憾なく発揮しているのも事実であり、特に前半は彼女の素晴らしい演技力が炸裂する。興行的には不発に終わったが、ディヴィヤーの再評価がこの作品によって進むことは確実である。
