Kesari Chapter 2: The Untold Story of Jallianwala Bagh

3.5
Kesari Chapter 2: The Untold Story of Jallianwala Bagh
「Kesari Chapter 2: The Untold Story of Jallianwala Bagh」

 2025年4月18日公開の「Kesari Chapter 2: The Untold Story of Jallianwala Bagh」は、1919年4月13日にアムリトサルのジャリヤーンワーラー公園で発生した英国軍人レジナルド・ダイヤー准将によるインド人市民虐殺事件、俗にいう「アムリトサルの虐殺」事件を題材にした法廷ドラマである。「~Chapter 2」ということは「Chapter 1」があるということだが、それは「Kesari」(2019年/邦題:KESARI/ケサリ 21人の勇者たち)になる。この映画は日本でも公開されたが、「Kesari Chapter 2」は前作とは全く関係ない名ばかりの続編である。共通点があるとしたら、英領時代の時代劇であり、アクシャイ・クマールが主演という2点のみだ。前作のようにアクション映画でもない。

 監督は新人のカラン・スィン・ティヤーギー。彼が脚本も書いている。原作はラグ・パラートとプシュパー・パラート著「The Case that Shook the Empire: One Man’s Fight for the Truth about the Jallianwala Bagh Massacre」(2019年)である。プロデューサーはカラン・ジョーハルなど。

 主演は前述の通りアクシャイ・クマールだが、Rマーダヴァンも重要な役で出演する。ヒロインはアナンニャー・パーンデーイだが、レジナ・カサンドラも準ヒロイン的な起用をされている。他に、「Swatantrya Veer Savarkar」(2024年)出演のアミト・スィヤール、「スター・ウォーズ:スカイウォーカーの夜明け」(2019年)出演の英国人俳優サイモン・ペイズリー・デイ、「RRR」(2022年/邦題:RRR)出演の米国人俳優アレックス・オニールなどが出演している。また、ファッションデザイナーのマサーバー・グプターがアイテムソング「Khumaari」にアイテムガール出演していた他、「Chhaava」(2025年)を当てたヴィッキー・カウシャルがナレーションを務めている。

 映画の冒頭ではストーリーの時代背景が丁寧に解説されていた。1914年から18年まで欧州を中心に第一次世界大戦が起こり、当時英国領だったインドからも多数の兵士が戦場に派遣された。英国当局は、戦争への協力と引き換えにインドの自治を約束したが、戦争終了後、その約束は果たされず、逆にテロ組織を取り締まるためのローラット法を制定してインドの民族運動を弾圧した。当然、インドの民衆はその裏切りに憤った。特に多くの兵士を第一次世界大戦に送ったパンジャーブ州では反英運動が活発化し、英国当局による虐殺の導火線になっていく。

 シャンカラン・ナーイル(アクシャイ・クマール)は英国当局から「サー」の称号を受けるほど英国に忠実なインド人弁護士だった。最近も革命家クリパール・スィンを刑務所送りにし英国人から歓心を買っていた。

 1919年4月13日、パンジャーブ州アムリトサルのジャリヤーンワーラー公園でローラット法に対する平和的な抗議活動を行っていた群衆に軍が発砲し多数の死者が出る。このときのパンジャーブ州知事はマケル・オドワイヤーであり、発砲を命じたのはレジナルド・ダイヤー准将(サイモン・ペイズリー・デイ)であった。英国当局は報道を規制しこのニュースが広がらないように腐心する。英国当局は形ばかりの総督委員会を開き事件の捜査をするが、その唯一のインド人委員に選ばれたのがナーイルであった。ナーイルは事件に違和感を感じ、ダイヤー准将を「有罪」とするが、その判断はもみ消され、「全会一致」でダイヤー准将の無罪が決定した。

 ジャリヤーンワーラー公園の虐殺で母親や妹を殺されながらも生き延びた少年パルガト・スィンはクリパールの息子であり、刑務所にいる父親に代わって一人で正義を求め続けていた。パルガトはナーイルの支持を求めていたが、総督委員会でダイヤー准将の無罪が決まると手首を切って自殺する。シャンカランは妻パールヴァティー(レジナ・カサンドラ)と共に故郷ケーララ州に帰ろうとするが、若い女性弁護士ディルリート・ギル(アナンニャー・パーンデーイ)に止められる。シャンカランはディルリートと共に英国王とダイヤー准将に対して訴訟を行うことを決意する。

 英国当局の協力者ティーラト・スィン(アミト・スィヤール)は英国王とダイヤー准将の弁護をするため、ナーイルのライバル弁護士ネヴィル・マッキンリー(Rマーダヴァン)を起用する。ナーイルとマッキンリーは法廷で激突するが、不利を感じ取ったマッキンリーは狡猾な手段に出て、判決日の前日にナーイルとディルリートをスパイ容疑で逮捕させる。ナーイルとディルリート不在のまま判決が下され、英国王とダイヤー准将は無罪となる。

 いったんはケーララ州に帰ったナーイルだったが、クリパールから手紙が届き、再び法廷で戦うことを決意する。再審の訴えは棄却されたが、法廷侮辱罪でナーイルは審議されることになり、そこで彼は多くのマスコミの前で判決の違法性を証明する。ダイヤー准将は有罪となり、任務を解かれて英国に送られる。そして彼は失意の内に脳内出血で死去する。

 アクション映画だった前作「Kesari」とは打って変わって硬派な法廷ドラマである。「Kesari」は英国軍の軍人としてアフガーニスターンのフロンティア地域にて好戦的な部族たちから砦を守り抜いたスィク教徒軍人の武勇伝だった。英国人上官とインド人下士官の間での確執は描かれていたものの、ストレートに反英感情が織り込まれていたわけではなかった。だが、アムリトサルの虐殺事件を取り上げた「Kesari Chapter 2」では明らかに反英姿勢を打ち出している。実在の人物を主人公にし、実際の出来事を描いた作品であるため、「RRR」ほどフィクションに振った反英映画ではないが、英領時代の英国当局の恥部を鮮明に映像化し、現在の英国から謝罪を引き出そうとする意図が感じられる。

 アムリトサルの虐殺事件は、インド人学生が歴史の時間に必ず習う歴史的事件である。インド近代史や独立運動史の重要な転機のひとつであり、現代インド人から敬愛されて止まないフリーダムファイター、バガト・スィンの決起とも関連している。だが、この事件の直接の責任者であるレジナルド・ダイヤー准将を有罪に追いやったインド人弁護士シャンカラン・ナーイルの物語はほとんど知られていなかったと思われる。そのため、副題には「The Untold Story(知られざる物語)」と刻まれている。

 「Kesari Chapter 2」が取り扱っていたのは、当然のことながらジャリヤーンワーラー公園での虐殺事件なのだが、その中心的な議題になっていたのは、英国人の精神に巣食っていた人種差別意識である。特にダイヤー准将は、生い立ちの関係から、インド人を極度に嫌悪しており、その個人的な嫌悪感情が虐殺の動機になったことが指摘されていた。

 法廷ドラマとしては見事な出来である。法廷ドラマの成否は、弁護士などを演じる役者の演技力に大いに依存するものだが、アクシャイ・クマールとRマーダヴァンが素晴らしい弁護士演技をしていたため、それは達成できていた。残念だったのは若手女性弁護士役を演じたアナンニャー・パーンデーイが活躍する場面が限られていたことだ。確かにフェイクレイプ事件で彼女が手柄を挙げていたが、もう少し彼女が前面に出て演技をするシーンが欲しかった。アナンニャーにとっては勉強になった映画だっただろうが、彼女の存在がこの映画の質を高めていたとは思えなかった。

 「Kesari Chapter 2: The Untold Story of Jallianwala Bagh」は、前作「Kesari」とは打って変わって法廷ドラマ中心のシリアスな映画になっている。アクシャイ・クマールとRマーダヴァンが法廷で激突するシーンはスリルがある。英領時代の英国人がインド人に対して抱いていた人種差別意識を糾弾する内容で、それがジャリヤーンワーラー公園虐殺事件の直接の動機になったことも主張されていた。興行成績は並程度とされている。インドの近現代史や独立運動史に興味のある人には参考になる映画であろう。