Chhorii 2

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Chhorii 2
「Chhorii 2」

 2025年4月11日からAmazon Primeで配信開始されたホラー映画「Chhorii 2」は、同じくAmazon Primeオリジナル作品「Chhorii」(2021年)の続編である。前作から7年後という設定であり、前作を観ていることが前提の作品だ。ただし、「Chhorii」にはいくつか問題点があって、待望の続編というわけでもなかった。前作は女児堕胎が主題であったが、今回は無理やり幼児婚にこじつけられていた。

 監督は前作と同じヴィシャール・フリヤーであり、主演も引き続きヌスラト・バルチャーになっている。久々にソーハー・アリー・カーンが出演しているのが目を引く。他に、ガシュミール・マハージャニー、サウラブ・ゴーヤル、パッラヴィー・アジャイ、クルディープ・サリーン、ムクル・シュリーヴァースタヴァ、イムティヤーズル・ハサン、ハールディカー・シャルマーなどが出演している。

 前作から7年後。サークシー(ヌスラト・バルチャー)は都会でサマル警部補(ガシュミール・マハージャニー)の家に住まわせてもらっていた。サークシーはイシャーニー(ハールディカー・シャルマー)という娘を産んで、既に7歳になっていたが、彼女は日光アレルギーを持っており、日中の外出を控えていた。サークシーは学校教師をしており、ラーニー(パッラヴィー・アジャイ)がイシャーニーの面倒を見ていた。

 ある日、イシャーニーとラーニーが姿を消す。サマル警部補は監視カメラの映像から、サークシーの夫ラージビール(サウラブ・ゴーヤル)の村長ターウー(クルディープ・サリーン)が誘拐したことを突き止める。サマル警部補とサークシーは村へ行き、イシャーニーを捜索する。だが、サトウキビ畑の中で地元の少年たちに襲われ、サークシーも死んだと思われていたラージビールにさらわれてしまう。夜になり、サマル警部補にはなす術がなかった。

 サトウキビ畑の地下には迷宮があり、そこではプラダーンジー(ムクル・シュリーヴァースタヴァ)と呼ばれる魔物が信仰されていた。プラダーンジーに仕えるダースィー・マー(ソーハー・アリー・カーン)がプラダーンジーと村人たちの間の連絡を取り持っていた。この迷宮にイシャーニーも囚われていた。ダースィー・マーは3日後に儀式を行うと宣言し、村人たちは大喜びする。儀式においてイシャーニーはプラダーンジーに花嫁として捧げられ、サークシーは首をはねられることになった。

 サークシーは迷宮の一室に閉じこめられるが逃げ出し、迷宮をさまよう。その中で多くの女性が子供と引き離され殺されてきた幻影を見る。また、ラージビールにラーニーが殺されたことも知る。サークシーは突然現れたラージビールに鞭打ちされ気を失う。目を覚ましたサークシーは井戸の中に落ち、そこでラーニーを含む殺された女性たちから力を授かる。サークシーは、やって来たラージビールに反撃し彼を殺す。

 一方、イシャーニーも一室に閉じこめられており、世話役として付けられたシャーリーン(イムティヤーズル・ハサン)という少年にしきりに母親のことを聞いていた。ダースィー・マーはイシャーニーに会いに来て、彼女にスープを飲ませる。イシャーニーも逃げ出すが、日中に外に出てしまい、アレルギーを発症する。それを感知したダースィー・マーは彼女を助け出す。ダースィー・マーも日光アレルギーを抱えていた。ダースィー・マーは薬草によってイシャーニーを治療する。

 イシャーニーが初潮を迎えた。プラダーンジーはイシャーニーを花嫁として迎えることを承諾し、結婚式が行われることになった。イシャーニーは着飾られてダースィー・マーによってプラダーンジーの元に連れて行かれる。一方、サークシーはサマル警部補と合流し、シャーリーンの案内によって、プラダーンジーの部屋まで行く。ダースィー・マーが妨害しようとするが、亡霊たちから力を得ていたサークシーは彼女を撃退する。そしてプラダーンジーの部屋に突入する。

 プラダーンジーはサークシーを圧倒し、イシャーニーからエネルギーを吸い取ろうとするが、ダースィー・マーの攻撃を受けて倒れる。サークシーはイシャーニーを連れて地上に脱出する。だが、まだしぶとく生き残っていたプラダーンジーによって迷宮の中に引きずり込まれようとする。サークシーは、決着を付けなければ同じことが繰り返されると言って自ら迷宮の中に再突入する。

 ホラー映画は、亡霊や魔物、それに超常現象などを軸に作り上げられるジャンルであり、そこにロジックを求めてはならないが、その軸を取り囲む部分には他のジャンルの映画よりも論理的な展開が求められる。何でもありになってしまっては効果的に恐怖を醸し出せないため、なぜそうなっているのかを丁寧に説明する必要があるのである。

 「Chhorri 2」に欠けていたのはまさにそれであった。なぜこうなっているのか、ほとんど説明がないし、後から説明されることもない。よって、視聴者はわけが分からないままホラー映像を見させられることになる。そういう時間帯があまりに長く、典型的な失敗ホラー映画になってしまっていた。

 たとえば、この映画において恐怖の軸になっているプラダーンジーが一体何なのか、少なくとも「Chhorii 2」内の説明では理解ができなかった。プラダーンジーは前作に登場していない。「Chhorii 2」の終わり方はさらなる続編を匂わせるものでもあったが、第3作で詳しく説明されるにしてもヒントはほしい。一応、ダースィー・マーがイシャーニーにプラダーンジーの身の上話と思われるものを語るシーンがあったが、それでも全貌はよく分からない。一体プラダーンジーは呪術を身に付けた生身の人間なのか、それともこの世のものではない魔物なのか。彼はダースィー・マーに魔力を与えていたが、そのような力の源泉は何なのか。ロジカルな説明がないため、何でもありのダメなホラー映画になってしまっていた。

 また、終盤に主人公サークシーも不思議な力を手に入れることになる。それは、この村で殺された女性たちによってもたらされたものだった。もちろん、この力についても詳しく説明はされない。すっきりしない映画であった。

 誘拐され地下迷宮に幽閉されたイシャーニーは7歳ながら初潮を迎える。8歳以前に女性が初潮を迎えるのは一般に思春期早発症とされる。インドでは思春期早発症の子供が増えているという報告もあり、もしかしたらこの映画の裏テーマはそれなのかとも考えた。だが、特にそれも主題にはなっていなかった。イシャーニーは変なスープを飲ませられていたため、それによって初潮が早まったという説明も成り立つかもしれない。成り立つかもしれないが、そのような説明は一切されていなかった。初潮を迎えたイシャーニーはプラダーンジーの花嫁になることになる。プラダーンジーはイシャーニーの経血を飲んで彼女を受け入れることを決めたのだった。何となく「ミッドサマー」(2019年)を思い出した。

 7歳の少女が結婚するというこの場面に至り、ようやく映画は児童婚というテーマに行き着く。前作のテーマは女児堕胎であり、本作にも引き継がれていたが、もし児童婚をテーマにしようとしたら「Chhorii 2」のプロットは非常に弱い。そもそも人間なのか魔物なのかよく分からない存在との結婚であり、邪教の儀式という味付けもあって、児童婚を特殊なものとして扱っていると受け止められても仕方がない。映画の最後に児童婚が今でもインドで行われていることへの警鐘が鳴らされていたが、この映画を観てそういう現状に問題意識が向くとは到底思えない。

 ダースィー・マー役を演じたソーハー・アリー・カーンも場違いに感じた。彼女にはシリアスな演技が似合わず、ましてやホラー映画の中で恐怖を演出する担い手にはなれない。完全にミスキャスティングであった。

 そんな泥船のような企画の映画であったが、唯一気炎を上げていたのは主演ヌスラト・バルチャーだ。ヒンディー語映画界でもっとも過小評価されている女優であるが、どんな映画でもしっかり仕事をする素晴らしい女優である。前作の主演でもあったため、元から彼女を外すことはできなかっただろうが、彼女がいてくれたおかげで「Chhorii 2」で褒められるポイントができた。ただ、この映画があまりに駄作であるため、彼女のキャリアに大きくプラスに働くことはないだろうことがかわいそうだ。

 近年のヒンディー語映画に見られる大きな特徴だが、女性が女性だけで問題を解決してしまうトレンドがこの映画にも見られた。サークシーにはサマル警部補という頼れる男性がいたが、彼にほとんど頼ることなく誘拐された娘を取り戻すことに成功する。おかげでサマル警部補を演じたガシュミール・マハージャニーはヒーローでありながらほとんど活躍できず、道化役の一歩手前であった。

 「Chhorii」シリーズに登場する村がどの地域なのか、映画の中では明示されておらず、自動車のナンバープレートなどからも判別ができないのだが、人々の話す方言からハリヤーナー州ではないかと感じるようになった。ハリヤーナー州はインドでもっとも男女比率が異常値を示している地域であり、女児堕胎が一般化していると報告されている。

 「Chhorii 2」は、お世辞にも出来がよくなかったホラー映画「Chhorii」の続編であるが、前作よりもさらにこんがらがった内容になっている。主演ヌスラト・バルチャーの演技だけが見どころだが、それ以外に期待してはいけない。観ないという決断が一番賢い。