The Promise

3.5
The Promise
「The Promise」

 2025年3月18日からYouTubeで配信開始された「The Promise」は、「Saheb Biwi aur Gangster」(2011年)などで知られるティグマーンシュ・ドゥーリヤー監督の短編映画である。上映時間は10分少々である。

 主演はジム・サルブとプリヤー・マニ。ジムはインド人離れした外見をしているが、拝火教徒の家系に属するインド人だ。「Padmaavat」(2018年/邦題:パドマーワト 女神の誕生)や「Sanju」(2018年/邦題:SANJU サンジュ)などに出演していたので見覚えのある日本人もいることだろう。ただ、脇役俳優というイメージが強い。今回は主演である。対するプリヤーは南インド映画を中心に活躍する女優で、「Chennai Express」(2013年/邦題:チェンナイ・エクスプレス 愛と勇気のヒーロー参上)に出演していた。

 他に、ローシャン・ジョイ・クーティヤーニー、チラーグ・ナーヤク、アナンニャー・ゴーシュなどが出演している。

 題名にある通り、とある約束を巡る小品である。舞台はムンバイーのとあるシャレたバーであり、20年前と現在という2つの時間軸を往き来する。過去のシーンをカラーで、現在のシーンを白黒で映し出しているのはユニークである。普通は過去のシーンを白黒に、現在のシーンをカラーにするものだ。おそらく美化された思い出を強調するために過去のシーンをカラーにしたのだと思われる。

 20年前、ジョージ・バトラー(ジム・サルブ)はそのバーでバーテンダーとして働いていた。チトラー(プリヤー・マニ)はそのバーに来る客だった。ジョージとチトラーは恋仲になる。だが、ジョージは留学が決まり、チトラーと離れ離れになることが決まる。チトラーは紙を燃やして見せ、それが二人の関係だと言う。ただ、20年後にこのバーで会う約束をした。

 20年後にバーにやって来たジョージはチトラーを待ち続けるが来ない。帰ろうとしたところ、バーテンダーからメモを渡される。それはチトラーからの手紙だった。チトラーはジョージとの思い出を胸に生きていたが、ガンに冒され、約束を守れそうになかった。そこで娘のラーラーを送ったのだった。ラーラーはバーでピアノを弾いていた。ジョージはラーラーと再会する。

 短編映画なので、多くは説明されない。映像を観て想像するしかない。まず気になるのがラーラーの父親である。彼女は20歳であった。20年前に生まれたことになる。ということは、ジョージとチトラーが付き合っていたときだ。おそらくラーラーはジョージとチトラーの間に生まれた子供だ。20年前に二人が別れを決めたとき、チトラーのお腹の中には既にラーラーが宿っていた。しかも、チトラーはそれを知っていたと予想される。もし妊娠を告げたら、これから夢に向かって飛び立とうとしているジョージを引き留めてしまうかもしれない。だからチトラーは妊娠をジョージに隠し、彼を黙って送り出したのだった。だが、娘が20歳になるであろう20年後に再会の約束もする。

 ちなみに、「ラーラー」という名前は、彼女のお気に入りだった映画「ドクトル・ジバゴ」(1965年)のヒロインの名前と同じだ。「ドクトル・ジバゴ」は二人がデートをするきっかけになった映画でもあった。このことからもラーラーがジョージの子供であるという読みは正しいといえそうだ。

 現在のジョージが何をしているのかも説明されることはない。だが、現在シーンが白黒で映し出されていることから察するに、それほど幸せではなさそうだ。おそらくこの20年間、チトラーのことを想い続けて過ごしたのであろう。独身である可能性も高い。

 ジョージと実の母親の関係も、非常に重要でありながら、若干ほのめかされていただけだった。彼の母親はイタリア人で、旅行しにインドを訪れ、インド人と出会い、恋に落ちて、ジョージを生んだ。だが、何らかの理由からジョージを残してイタリアに帰ってしまい、彼は別の両親に養子として育てられた。ジョージは母親の写真を持っていた。ジョージの留学先がどこかは明示されていなかったが、予想するに、おそらくイタリアである。彼はイタリアに実の母親を探しに行くため、イタリアの大学に留学しようとしていたのだ。そしてそれが実現する。だが、それによってチトラーとは別れなければならなくなってしまった。

 ストーリーの発案者として名前が挙がっているのは、CPスレーンドラン、マーダヴァン・クッティー・ピッライ、そしてティグマーンシュ・ドゥーリヤー監督の3人である。全員男性だ。この「The Promise」は、かなり男性目線で作られた映画だと感じる。妊娠した女性が、いかにこれから夢に向かって飛び立とうとしているとしても、恋人に妊娠を告げず、逆に別れを切り出し、自己を犠牲にしてシングルマザーになる選択肢を採るこの映画に、女性観客は共感できるだろうか。しかも、20年という歳月を賭けている。女性がストーリー構築に参加していたら、別の描き方になっていたのではないかと予想される。

 ただ、これだけ短い映画ながら、これだけ多くの考察をさせてくれるのは、よくできた映画である証拠である。ジム・サルブのような、普段は脇役に追いやられている俳優をあえて主演に据えているところにも意気込みを感じる。ティグマーンシュ・ドゥーリヤー監督はギャング映画などで知られる映画監督であるが、心温まる小品を作ることにも長けていることがこの「The Promise」によって証明されたといっていい。


Tigmanshu Dhulia's The Promise – A Must-Watch | Royal Stag Barrel Select Shorts