![RRR: Behind & Beyond](https://filmsaagar.com/wp-content/uploads/2025/01/rrr-behind-and-beyond.jpg)
2024年12月27日からNetflixで配信開始された「RRR: Behind & Beyond」は、インドおよび世界中で大ヒットし、日本でもインド映画として歴代断トツ1位の興行収入を上げたテルグ語映画「RRR」(2022年/邦題:RRR)のBTS(舞台裏)ドキュメンタリーである。上映時間は1時間38分である。日本のNetflixではまだ配信されていない。
「RRR」を撮ったSSラージャマウリ監督自身がこのドキュメンタリーの監督を務めており、撮影時の舞台裏動画と、2023-24年頃に撮影されたと思われるラージャマウリ監督、NTRジュニア、ラームチャラン、MMキーラヴァーニなどのインタビュー動画で構成されている。
基本的には、俗に「イントロ」と呼ばれるビームとラーマの登場シーンから、「インターバル・シークエンス」と呼ばれる猛獣突撃シーンを経て、最後の大団円ダンスシーン「Etthara Jenda」まで、主要なシーンについて前から順を追って、当時の舞台裏動画を交えながら関係者が語る流れになっている。また、アカデミー賞歌曲賞受賞のエピソードも語られている。
「RRR」については、日本でいくつか出版物も出ており、YouTube上にもいくつかメイキング動画がアップロードされていて、散々語り尽くされた感がある。また、Netflixは以前、「Modern Masters: S.S. Rajamouli」(2024年/モダン・マスターズ:S・S・ラージャマウリ)というドキュメンタリーも配信しており、SSラージャマウリ監督について掘り下げている。よって、この「RRR: Behind & Beyond」から得られる新たな情報はそれほど多くはない。今更感が否めない。
ただ、それぞれのシーンについてラージャマウリ監督がどんなことを考えて作り上げたのかが丁寧に語られており、「RRR」の各シーンに込められた真意を隅々までくみ取りたい人、もしくは映像関係の仕事をしている人には、有用な情報源になるのではなかろうか。彼が非常に細かいところまで考えて映像作りを行っていることが分かる。
それに加えて音楽監督のMMキーラヴァーニが各シーンのBGMなどについて詳しく解説しており、こちらは目新しい情報だった。たとえばラーマのイントロシーン、1対1,000人の戦いの場面で流れるBGM「The Fire」には、実は「Come What May(何があろうとも)」という歌詞が付いているという。それと同様にビームの登場シーンで流れるBGM「The Water」冒頭のコーラスは、ビームの属する部族ゴンド族にちなんで「ゴンデー」と歌われているらしい。
個人的には、「Believable」という言葉が印象に残った。「RRR」に関わった人々は、映像を「Believable」にするために、前もって「Emotion」を準備しているようなことを語っていた。たとえば終盤のクライマックスでビームがラーマを背負って一体となり戦うシーンがある。何の前触れもなくこの合体を持って来たら観客がそれをすんなりと信じるのは難しい。だが、二人の友情、裏切り、そして誤解の解消というドラマを用意し、長い時間を掛けて二人の一体化を観客が強く望むように仕向けたことで、この合体シーンは「Believable」になった。インド娯楽映画の真髄ともいえる発言であった。
やはり神話が「RRR」の下敷きになっていたことも再確認できた。ラーマが一人で1,000人と戦うイントロシーンは、やはり「マハーバーラタ」の英雄アビマンニュのチャクラヴューハ突入をイメージしているようだ。「ラーマーヤナ」ではラーマ王子がスィーター姫を救出に向かうが、「RRR」では囚われたラーマ王子が救出される。それを知らず知らずの内に準備したのがスィーターであった。また、ラージャマウリ監督の最終目標が「マハーバーラタ」であることも分かった。
よく知られた話であるが、元々ラーマとビームは実在の人物である。アッルリ・スィーターラーマ・ラージューはラーマ王子の衣装を着て反英活動を行っていたとされる。「RRR」では、彼にラーマ王子の衣装を与えたのはビームということになっていた。また、コムラム・ビームは「Jal Jangal Zameen(水、森、土地)」というスローガンを掲げてニザーム藩王国に反旗を翻した。「RRR」では彼にこのスローガンを与えたのはラームということになっている。
「RRR」の成功を、単にテルグ語映画の成功ではなく、インド映画の成功としてラージャマウリ監督たちが語っていたのは個人的にはうれしかった。ただ、この辺りは非常にセンシティブな話題になっている。テルグ語圏の人々にとってはやはりテルグ語映画の方を強調したいところだが、オスカー受賞時にそれを強調しすぎて批判を浴びたこともあった。このドキュメンタリーの中では愛郷精神をひとまず収め、愛国主義を前面に押し出して「RRR」の業績が祝われていた。
多少冗談めいた形ではあったが、「RRR 2」についても触れられていた。詳しくは語られていなかったが、現在ラージャマウリ監督以下チームが「RRR 2」に取り組んでいることは既にニュースになっている。
「RRR: Behind & Beyond」は、世界中でセンセーションを巻き起こした「RRR」のメイキング・ドキュメンタリーである。あまりに語り尽くされ、しかも公開から2年半以上の歳月が流れた今、配信される意義がどれくらいあったのかは疑問であるし、ラージャマウリ監督自身が作ったメイキング映像ということで、第三者の視点は入って来ない欠点もあるが、「RRR」をさらに楽しめる作品であることには変わりがない。