Ghamasaan

3.5
Ghamasaan
「Ghamasaan」

 インドでもっとも有名な盗賊といえばヴィーラッパンであろう。タミル・ナードゥ州、カルナータカ州、ケーララ州の州境に広がるジャングルを根城にし、ビャクダンや象牙などの密輸を資金源とし、誘拐や殺人などの犯罪に手を染め、カンナダ語映画界のスーパースター、ラージクマールやカルナータカ州の政治家ナーガッパなどを誘拐したことでインド全土にその悪名を轟かせた。2004年に特捜部(STF)によって射殺されたときは、大々的に報じられた。もちろん、映画の格好の題材となり、「Veerappan」(2016年)などが作られた。

 ヴィーラッパンの他にもインドには多くの盗賊が名を馳せてきた。そして、インド人にとっても盗賊というのはエキゾチックな感興を催すようで、著名な盗賊たちは映画やドラマになってきた。「Bandit Queen」(1994年)の主人公、女盗賊プーラン・デーヴィーや、陸上競技選手から盗賊に転向した「Paan Singh Tomar」(2012年)の主人公パーン・スィン・トーマルが有名である。

 2024年10月20日、MAMIムンバイー映画祭でプレミア上映され、2026年9月11日からZee5で配信開始された「Ghamasaan(激闘)」は、ブンデールカンド地方で暗躍した盗賊ダドゥワーと警察特捜部の間の戦いを描いたアクション映画である。ダドゥワーは1980年代から盗賊の首領として頭角を現し、周辺地域を恐怖のどん底に陥れた。特に1986年6月20日に彼がラームー・カ・プルワー村で犯した9人の公開処刑は有名である。「ブンデールカンドのヴィーラッパン」の異名を持っていた。政治家や警察に強力なコネを持っており、なかなか捕まらなかったが、2007年7月22日に特捜部によって射殺された。ダドゥワーはこれまで、ウェブドラマ「Beehad Ka Baghi」(2020年)で取り上げられたことがある。

 「Ghamasaan」の監督は、「Saheb Biwi aur Gangster」(2011年)などのティグマーンシュ・ドゥーリヤー。音楽はアヌジ・ガルグ。

 キャストは、アルシャド・ワールスィー、プラティーク・ガーンディー、イシター・ダッター、ローシャン・ジョイ・クーティヤーニ、ヒマーンシュ・ドゥーリヤー、スィーマー・アーズミー、ラージパール・ヤーダヴ、ムラリー・クマール、アナンニャ・パータク、ヘーマント・シャルマー、ディープラージ・ラーナー、クマール・カンチャン・ゴーシュ、プニート・スィン、ジャティン・ゴースワーミー、カラン・パーンデーイ、アヌラーグ・タークル、アーカーンクシャー・ヴァルマー、パンカジ・サーラスワト、ムリティユンジャイ・パーンデーイ、パーリトーシュ・サンドなど。

 2006年。ウッタル・プラデーシュ州では選挙が近づいていた。ブンデールカンド地方のジャングルを根城にし、誰も顔を知らない盗賊の首領マハーラージ(アルシャド・ワールスィー)は、警察に情報を流した裏切り者ラクワー・ヤーダヴ(ヘーマント・シャルマー)とそのシンパを公開処刑する。マハーラージと密通していたマトゥラー・プラサード警視総監(パーリトーシュ・サンド)は作戦に関わった警察官を左遷するが、野党政治家クマーリー・サロージニー(スィーマー・アーズミー)がクリパール・スィン・ヤーダヴ(ヒマーンシュ・ドゥーリヤー)州首相を激しく糾弾したため、ガス抜きのため、マハーラージの動きを抑える必要も出てきた。そこでブンデールカンド地方の各都市に特捜部(STF)が組織され、15人の警察官僚がそのチーフに任命された。ラクナウーに勤務していたアーディティヤ・スィン(プラティーク・ガーンディー)はその一人だった。アーディティヤは、心配する妻アパルナー(イシター・ダッター)をラクナウーに残し、ブンデールカンド地方に向かう。彼は、マハーラージ逮捕に失敗し左遷された警察官リズワーン(ムリティユンジャイ・パーンデーイ)、ハルシュ・ヴァルマー(ディープラージ・ラーナー)、サハデーヴ・スィン(プニート・スィン)をチームに組み入れる。

 ブンデールカンド地方に着いたアーディティヤは早速マハーラージの洗礼を受けるがひるまなかった。マハーラージに殺されたラクワーの息子バルラーム(アヌラーグ・タークル)を仲間に引き入れ、マハーラージとその部下たちの携帯電話を盗聴し、彼らの家族を逮捕する。マハーラージも腹心アンガド(ジャティン・ゴースワーミー)を送り、特捜部を罠にはめてリズワーンを惨殺する。

 選挙が終わり、クマーリーの政党が勝利して、政権交代が起きた。アーディティヤの直接の上司SKドゥベー(パンカジ・サーラスワト)は彼の任を解こうとするが、アーディティヤはもう少し猶予期間をもらう。アーディティヤは、かつてマハーラージの「サプライヤー」を務め、裏切りによって片目をつぶされたカーリカー(ラージパール・ヤーダヴ)を仲間にする。マハーラージから連絡を受けたカーリカーは彼に会いに行き偵察をする。2度目に彼がマハーラージに会いに行くとき、アーディティヤは彼に爆弾を持たせ、急襲する。盗賊はマハーラージを含め皆殺しになった。

 時代は2006年ということで、携帯電話はあるが、スマートフォンはない。ブンデールカンド地方の人々から神様より恐れられていた盗賊の首領マハーラージは、携帯電話を活用してスパイから情報を得たり政治家や警察と連絡を取り合ったり遠隔操作で部下に命令を下したりして、犯罪を実行し、自らの安全を確保していた。多くの人々にとって彼は声だけの存在であり、その姿を見た者はほとんどいなかった。ただ恐怖だけが村々に広がっていた。ジャングルを根城にする盗賊にしてはハイテクである。

 マハーラージは州首相や警視総監とも密通しており、それが彼の権力の源になっていた。州首相は選挙において彼から多大な支援を受けており、持ちつ持たれつの間柄だったのである。警視総監は、部下が計画したマハーラージ逮捕作戦を妨害し、関与した警察官を左遷するなど、マハーラージの言いなりだった。

 ところで、州首相のカーストは牧畜を生業とするヤーダヴである。選挙前にマハーラージはヤーダヴの村で虐殺を行った。州首相とマハーラージの蜜月は公然の秘密であり、彼の治世下でヤーダヴの村がマハーラージの襲撃を受けたことは政治的に致命傷になり得た。折しも野党政治家クマーリーが州首相批判を強化し、有権者から支持を集め始めていた。州首相は選挙までマハーラージの動きを封じるため、特捜部を組織した。そのチーフに任命されたのが主人公アーディティヤだった。

 アーディティヤ役を演じたのは「Dedh Bigha Zameen」(2024年)や「Agni」(2024年)のプラティーク・ガーンディーである。彼は生真面目そうな外見をしており、それが役柄に染みこんでいる。それほど長くアーディティヤの人となりは紹介されなかったのだが、プラティークが演じることで、きっと実直な警察官僚なのだろうということが分かる。

 アーディティヤの任務は、選挙が終わるまでマハーラージを大人しくさせることだったが、彼はマハーラージの排除に乗り出す。当初は、マハーラージが張り巡らした情報網による情報漏洩に苦労する。どこからでもどこにでも瞬時に情報を送受信できる携帯電話は犯罪者にとって強力な武器になっており、警察の一挙手一投足は筒抜けになっていた。だが、警察も文明の利器を逆手に取る。マハーラージや部下たちの携帯電話番号は既知だったため、それを盗聴し、行動を読もうとしたのである。舞台はジャングルや僻地であるが、当時としては双方にハイテク戦を繰り広げていたことになる。

 ただ、マハーラージの居場所特定の決定打になったのは、昔ながらの囮作戦であった。マハーラージとつながりのあるカーリカーを仲間に引き入れ、彼を使ってマハーラージの拠点までたどり着くことができたのである。

 マハーラージとアーディティヤの間で繰り広げられる戦いにおいて、序盤はマハーラージが優勢だった。だが、アーディティヤも徐々にマハーラージを追いつめていく。映画として面白味があったのは間違いなくマハーラージ優勢の序盤である。アルシャド・ワールスィー演じるマハーラージのまがまがしいカリスマ性が観客を引き付けてやまなかった。だが、中盤以降になると形勢逆転し、マハーラージの魅力が急減する。最期もあっけなかった。実話をもとにした映画なのであまり脚色を入れられなかったのかもしれないが、通常の盗賊映画に比べると薄味な終わり方だった。

 男臭い物語の中で紅一点の光を放っていたのは、アーディティヤの妻アパルナーだ。「Drishyam」(2015年)の長女アンジュ役を演じ一世を風靡した女優である。普段は夫を尻に敷いている強めの女性だが、夫の仕事をよく理解し、彼を危険地帯にも果敢に送り出した。アーディティヤに手を焼いたマハーラージは、腹心アンガドをラクナウーに送ってアパルナーを一時的に誘拐し脅迫する。アパルナーは無事だったが、彼女はその脅迫のことを夫にあえて伝えず、ただ「手を引くか、皆殺しにして」とだけ言う。ラージプートの妻らしい覚悟である。怖い目に遭って夫にすがるだけのか弱い女性とは根本的に異なる。アーディティヤもマハーラージと戦っていたが、アパルナーも同じくらいその戦いの中にいた。

 言語はブンデールカンド地方で話されているブンデーリー方言だと特定したいところだが、ボージプリー方言の影響も感じられた。とにかく田舎っぽさを出すために各地の方言を交ぜているだけかもしれない。

 「Ghamasaan」は、硬派な映画を得意とするティグマーンシュ・ドゥーリヤー監督が撮った盗賊映画だ。悪役マハーラージが権勢を誇る序盤の展開からは名作の予感がしたが、彼が追いつめられていくとグリップ力を失っていった。彼の最期もあっけない。実話を意識しすぎたのだろうか。もう少し映画としての面白味を出すために脚色してもよかったのではないかと感じる。