Phir Aayi Hasseen Dillruba

3.5
Phir Aayi Hasseen Dillruba
「Phir Aayi Hasseen Dillruba」

 狂気的な恋愛感情から発した殺人事件とその隠蔽劇を描いたNetflix製作のクライム・サスペンス映画「Haseen Dillruba」(2021年/邦題:美に魅せられて)は、コロナ禍で注目を集めたOTT映画のひとつであり、ヴィクラーント・マシーのような地味だが才能ある俳優の出世作にもなった。好評だったようで続編も企画され、「Phir Aayi Hasseen Dillruba(魅惑的な美人が再びやって来た)」が2024年8月9日にNetflixで配信された。

 前作からプロデューサー陣にほとんど変化はなく、アーナンド・L・ラーイやブーシャン・クマールなどが名を連ねている。監督はヴィニル・マシューから「Kaun Pravin Tambe?」(2022年)のジャイプラド・デーサーイーに交替した。

 前作からストーリー上のつながりがあり、キャストも共通している。主演はタープスィー・パンヌーとヴィクラーント・マシー。前作ではハルシュヴァルダン・ラーネーが「第三の男」役を務めていたが、本作ではサニー・カウシャルがその役割を果たす。また、前作でタープスィー演じるラーニーを追いつめたキショール・ラーワト警部補も再登場し、アーディティヤ・シュリーヴァースタヴァが続投して演じている。さらに新規のキャストとして、ジミー・シェールギルやブーミカー・ドゥベーなどが出演している。

 このシリーズでキーとなるのは、ディネーシュ・パンディトという架空の小説家が書いた推理小説だ。前作では、パンディトのファンであるラーニー(タープスィー・パンヌー)が、彼の作品「カソーリーの災厄」からヒントを得て、偽装殺人を行った。ラーニーの夫リシュ(ヴィクラーント・マシー)は、従弟で彼女と愛人関係にあったニール(ハルシュヴァルダン・ラーネー)を殺してしまった妻を救うため、自ら左手を切り落とし、彼の焼死体の傍に残した。その遺体はリシュのものということになり、ラーニーは罪を問われずに済んだ。その代わり、死人扱いとなったリシュは正体を隠して過ごすことになる。

 「Phir Aayi Hasseen Dillruba」は、前作の結末からしばらく経った後から始まる。また、前作では舞台はウッタラーカンド州ジュワーラープルであったが、本作ではウッタル・プラデーシュ州アーグラーに移っている。タージマハルのある有名な観光地だ。

 この作品には日本語字幕が付いており、邦題は「美に魅せられて2」になっている。

 アーグラーに移り住んだラーニー(タープスィー・パンヌー)は、寡婦として下宿し美容院に勤めながら、潜伏する夫のリシュ(ヴィクラーント・マシー)と密会していた。薬剤師のアビマンニュ(サニー・カウシャル)はラーニーを見初め、彼女にアプローチをする。また、リシュの下宿先の大家プーナム(ブーミカー・ドゥベー)は彼を誘惑する。リシュはラーニーと共にタイへ高飛びする準備を進めていた。

 ニール(ハルシュヴァルダン・ラーネー)殺人事件の真相を追うキショール・ラーワト警部(アーディティヤ・チョープラー)はアーグラーまで辿り着き、ラーニーを見つけていた。警察署に連行されたラーニーは、リシュの叔父ムリティユンジャイ・パースワーン、通称モンティー(ジミー・シェールギル)と対面する。モンティーは凄腕の警察官で、ニールを殺したリシュが生きていると信じ、見つけ出そうとしていた。

 モンティーが現れたことでタイへの逃亡計画は頓挫する。旅行業者が捕まってしまったのだ。ラーニーは一計を案じ、アビマンニュと結婚することを決める。今まで冷たかったラーニーが急に変心したことをいぶかしみながらもアビマンニュは彼女と結婚する。

 ラーニーはアビマンニュと仮面結婚生活を送りながらモンティーの注意を逸らし、機会をうかがう。ところがアビマンニュにリシュがまだ生きていることを察知されてしまう。アビマンニュはラーニーの前でリシュと対面し、彼らに協力を申し出る。

 純朴そうに見えたアビマンニュであったが、実は彼は叔父の家族を皆殺しにした猟奇的殺人鬼だった。彼は自分を裏切った者を許さなかった。アビマンニュに殺されそうになったラーニーは警察署に駆け込み、モンティーに助けを求める。そのときリシュが生きていることを打ち明けてしまう。一方、河原でアビマンニュとプーナムの焼死体が発見された。ラーニーは容疑者として逮捕されてしまう。拘束されたラーニーは拷問を受け、それを知ったリシュは自首を申し出る。だが、彼の自首現場に死んだはずのアビマンニュが現れる。ラーニー、リシュ、アビマンニュはワニが生息するヤムナー河に落ちてしまう。警察は捜索をしたが見つからなかった。

 半年後、ラーニーはアビマンニュと共に山間の町デーヴサルにいた。ヤムナー河に落ちたとき、リシュは助からず、アビマンニュと共にここまで逃げて来たのだった。ところがラーニーはリシュが生きていることを知る。ラーニーはモンティーを呼び寄せ、アビマンニュを逮捕させると同時に、自身は崖から身を投げる。そのまま行方不明となるが、ラーニーは生きており、リシュと合流していた。アビマンニュは逮捕される。モンティーに対しアビマンニュは、ディネーシュ・パンディトは自分の父親だと明かす。

 映画はラーニーが警察署に駆け込むところから始まる。このとき彼女は「夫に殺される!」と助けを求め、そして回想シーンに移行し、それまでの経緯が語られる。前作ではラーニーの夫はリシュであったが、彼は死んだことになっており、本作で彼女はアビマンニュと再婚している。つまり、彼女にとって「夫」は2人いた。一体どちらの夫に殺されそうになっているのか。それがサスペンスとなる。

 当初、アビマンニュはラーニーに一途な片思いをする純朴な青年として描かれる。だが、彼は過去に叔父の一家を蛇の毒を使って惨殺したことのあるサイコキラーだった。彼のスイッチが入るのは、裏切られたと感じたときである。ラーニーが自分と結婚したのは、リシュとどうにか生き延びるためだったと知り、裏切られたと感じる。これらの事実が明らかになった後、アビマンニュの行動は予想不可能となる。今まで悪意がないように見えていた彼の笑みは一転して恐ろしいものに見え始める。

 アビマンニュの正体も驚きであったが、それに加えて大どんでん返しがいくつも用意されていた。ひとつめのどんでん返しは、実はラーニー、リシュ、アビマンニュが結託して自らの死を偽装しようとしていたことだ。彼らは乱闘の末にワニの巣くうヤムナー河に落ちたように警察には見えていたが、実は全て自作自演だった。だが、その先にもさらに二転三転が用意されている。

 タープスィー・パンヌー、ヴィクラーント・マシー、ジミー・シェールギルといった俳優たちの演技が素晴らしいし、脚本もよく練られている。当初は弱さを感じたサニー・カウシャルであったが、その弱ささえもギミックであった。スリラー映画として十分に楽しめる。しかしながら、主要人物があまりに無敵なのには少し興醒めした。特に崖から仰向けに身を投げたラーニーがちゃっかり生きているというのは、ハッピーエンディングにつなげるために必要な展開とはいえ、受け入れるのにハードルが高かった。

 前作よりも推理小説家ディネーシュ・パンディトの存在感が増していた。今回も、ラーニー、リシュ、アビマンニュが自分たちの死を偽装するためのヒントを得たのが、パンディト作の「ワニの罠」という作品だった。ワニが生息する河の中に身を投げて死を偽装するという筋であり、彼らはその通りの行動を採った。しかも、最後の最後でアビマンニュがディネーシュの息子であることも発覚する。もし、今後もシリーズ化されるながら、アビマンニュがラーニーとリシュのライバルで居続けるに違いない。なにしろアビマンニュもパンディト作品を熟読しており、それを参考にして叔父一家を毒殺した経験も持っているのだ。

 アーグラーが舞台ということで、アーグラーの象徴であるタージマハルが背景として効果的に使われていた。タージマハルはしばしば「愛の象徴」ともされる。ラーニーとリシュは強い愛の絆で結ばれており、その愛を実現させるためには手段を選ばない。彼らの狂おしい恋愛がタージマハルを背景に描写されていた。

 また、映画中では、アーグラーを流れるヤムナー河にワニがいることになっていた。かつては多くのワニがいたと聞くが、現在ではアーグラーにワニが現れたらニュースになる。今でも時々ワニが見つかるため、あながち嘘ではないが、この映画での描写ほど大量のワニが普段からいるわけではない。

 「Phir Aayi Hasseen Dillruba」は、偽装殺人を扱った「Haseen Dillruba」の続編である。自らの死を偽装するために手を切り落とすという前作ほどショッキングな描写はないが、クライム・サスペンス映画としてよくまとまっている。俳優たちの演技も素晴らしい。ストーリーは前作の続きになっているので、順番に観ることをお勧めする。