Modern Masters: S.S. Rajamouli

3.0
Modern Masters: SS Rajamouli
「Modern Masters: SS Rajamouli」

 SSラージャマウリ監督は、今や日本でもっとも有名なインド人映画監督になった。彼がこれまで監督した長編映画12作品の内、「Yamadonga」(2007年/邦題:ヤマドンガ)、「Magadheera」(2009年/邦題:マガディーラ 勇者転生)、「Maryada Ramanna」(2010年/邦題:あなたがいてこそ)、「Eega」(2012年/ヒンディー語版:Makkhi/邦題:マッキー)、「Baahubali: The Beginning」(2015年/邦題:バーフバリ 伝説誕生)、「Baahubali 2: The Conclusion」(2017年/邦題:バーフバリ 王の凱旋)、「RRR」(2022年/邦題:RRR)の7作品は日本で公開されているが、これは、サティヤジト・ラーイ監督を除けば、どのインド人映画監督よりも多い。それだけでも彼の日本での人気振りが分かるだろう。もちろん、インド本国においてもSSラージャマウリは最大限の尊敬を受けている。

 2024年8月2日からNetflixで配信開始された「Modern Masters: S.S. Rajamouli」は、SSラージャマウリ監督の人柄や作風に迫ったドキュメンタリー映画である。監督はTV映画を撮ってきたラーガヴ・カンナーで、「Padmaavat」(2018年/邦題:パドマーワト 女神の誕生)やアカデミー賞を受賞した短編ドキュメンタリー映画「The Elephant Whisperers」(2022年/邦題:エレファント・ウィスパラー:聖なる象との絆)のエグゼクティブ・プロデューサーも務めたことがある。映画評論家アヌパマー・チョープラーによる本人のインタビューを軸に、南北インドやハリウッドの著名人もSSラージャマウリ監督について語っている。

 日本語字幕付きであり、邦題は「モダン・マスターズ:S・S・ラージャマウリ」になっている。

 ドキュメンタリー映画としてはオーソドックスな作りで、1時間14分のこの作品を観れば、SSラージャマウリ監督の生い立ちやフィルモグラフィー、そして彼のインドおよび世界での評価をざっと知ることができるようになっている。

 インタビューに答えているのは、これまで彼の作品に出演したプラバース、NTRジュニア、ラーム・チャラン、ラーナー・ダッグバーティ、彼の家族であり仕事のパートナーでもあるVヴィジャエーンドラ・プラサード、MMキーラヴァーニ、ラマー・ラージャマウリ、SSカーンチ、SSカールティケーヤ、テルグ語映画界の重鎮Kラーガヴェーンドラ・ラーオやヒンディー語映画界の重鎮カラン・ジョーハル、そしてハリウッドのレジェンドであるジェームズ・キャメロン監督やジョー・ルッソ監督である。

 日本人として嬉しいのは、SSラージャマウリ監督が「RRR」のプロモーションのために日本を訪れた2022年10月のときの映像がかなり使われていることだ。アヌパマー・チョープラーが東京の街を歩きながらSSラージャマウリ監督にインタビューをしている映像もあって驚く。「RRR」が日本で大ヒットし、日本人のファンから大歓迎を受けたことは、ラージャマウリ監督が国際的な映画監督になったことを示すひとつの象徴的な出来事として提示されている。

 一連のインタビューから浮かび上がるのは、SSラージャマウリ監督の二面性である。普段の彼はとても温厚な人柄であることが映像からもヒシヒシと伝わってくる。だが、一度現場に入ると、自分が満足するショットが得られるまで決して妥協しない完璧主義者かつ独裁者に豹変することが、彼と共に仕事をした人々の発言から明らかにされる。

 SSラージャマウリ監督は、父親で脚本家のVヴィジェエーンドラ・プラサードや叔父で作曲家のMMキーラヴァーニと共に映画作りをしていることはよく知られている。だが、このドキュメンタリー映画では、さらに多くの家族メンバーが彼のチームに関わっていることが改めて分かる。例えば妻のラマーは衣装デザイナーであるし、息子のSSカールティケーヤも助手として父親を助けている。彼にとって映画作りはファミリービジネスであり、一族で力を合わせて映画作りをするところに大きな特徴がある。

 基本的に彼の監督としての軌跡はサクセスストーリーで彩られているように見える。しかしながら、インド映画史上最高額の製作費を掛けて作った大作「Baahubali: The Beginning」は、公開当初、評論家や観客から酷評を受け、プロデューサーや監督はかなり焦ったという、今となっては意外な事実も知ることができる。しかも、ヒンディー語圏では拍手喝采と共に受け入れられたものの、SSラージャマウリ監督や主演プラバースの本拠地であるテルグ語圏での評判が悪かったらしい。もっとも、すぐに評価は逆転し、大ヒット作に化けた。

 カラン・ジョーハル監督は、「Baahubali: The Beginning」の成功をヒンディー語映画の伝説的な傑作「Sholay」(1975年/邦題:炎)と比較して語っていた。実は「Sholay」も公開当初は酷評を受け、失敗作の烙印を押されていたのである。映画の成否は分からないものだ。

 それでも、第一部「Baahubali: The Beginning」の興行収入だけでは赤字であり、第二部「Baahubali 2: The Conclusion」の世界的な大成功があったおかげでやっとプロデューサーも枕を高くして寝ることができるようになったようだ。そんな裏話を知ることができるのも楽しい。

 「Modern Masters: S.S. Rajamouli」は、日本で近年インド映画ファンの獲得に大きく貢献した「Baahubali」シリーズや「RRR」の監督SSラージャマウリのインタビューなどを中心に構成されたドキュメンタリー映画であり、日本語字幕も付いていることから、インド映画ファン必修の教科書のような作品になっている。日本での人気についてもかなりの時間を割いて言及しており、二重で嬉しい。ファン必見のドキュメンタリー映画だ。