Do Aur Do Pyaar

4.0
Do Aur Do Pyaar
「Do Aur Do Pyaar」

 2024年4月19日公開の「Do Aur Do Pyaar」は、米映画「ラバーズ・アゲイン」(2017年)をリメイクした大人のロマンス映画である。題名は「Do Aur Do Chaar(2+2=4)」をもじったものだ。「4」を意味する「Chaar」が「愛」を意味する「Pyaar」になっている。1組の夫婦とそれぞれの愛人、計4人の主要人物がおり、結婚生活や不倫を通して愛を探究する。

 監督はシールシャー・グハー・タークルター。ラーム・ゴーパール・ヴァルマー監督の「Contract」(2008年)や「Rann」(2010年)で助監督を務めていた女性で、今回が監督デビュー作となる。主演は「Kahaani」(2012年/邦題:女神は二度微笑む)のヴィディヤー・バーラン、「Bhavai」(2021年)のプラティーク・ガーンディー、「Barfi!」(2012年/邦題:バルフィ!人生に唄えば)のイリアナ・デクルーズ、「Shor in the City」(2011年)のセンディル・ラーマムールティ。

 父親から受け継いだコルク会社を経営するアニルッド・バナルジー(プラティーク・ガーンディー)と歯医者のカーヴィヤー・ガネーシャン(ヴィディヤー・バーラン)は駆け落ち結婚した夫婦で、ムンバイーに住んでいた。二人の間に子供はおらず、セックスレスで、夫婦仲は冷え切っていた。アニルッドは女優志望のノラ(イリアナ・デクルーズ)と不倫をしていた一方、カーヴィヤーはニューヨーク在住の写真家ヴィクラム(センディル・ラーマムールティ)と不倫をしていた。二人の離婚は秒読み段階にあったが、お互いの不倫については知らなかった。

 あるときカーヴィヤーの祖父が亡くなる。カーヴィヤーは故郷ウーティーに帰ることになり、アニルッドも同行する。カーヴィヤーの家族は駆け落ち結婚した二人を温かく迎えなかったが、二人はウーティーで時間を過ごす内に若い頃の思い出を思い出し、再び心が通じ合うようになる。葬儀を終えてムンバイーに戻った後、アニルッドとカーヴィヤーはセックスをするようになる。

 今度はノラとヴィクラムが孤独を感じるようになる。ノラはアニルッドに、早くカーヴィヤーに離婚を切り出すように催促し、ヴィクラムはカーヴィヤーのためにムンバイーに家を買ってしまう。アニルッドもカーヴィヤーも板挟みになる。そんなとき、アニルッドはカーヴィヤーの不倫を知り、カーヴィヤーもアニルッドの不倫を知る。ディーワーリー祭の日に二人はお互いの不倫を責め合い、そのまま離婚してしまう。

 それから1年後。ノラは有名な女優になっていたが、アニルッドは彼女とは破局していた。カーヴィヤーは1年前にヴィクラムに家の鍵を返しており、彼とは一緒になっていなかった。かつてアニルッドとカーヴィヤーが住んでいた家に買い手が付く。空き家となっていたその思い出の家でアニルッドとカーヴィヤーは再会する。

 映画の冒頭では、カーヴィヤーとヴィクラム、アニルッドとノラの仲睦まじい様子が映し出される。てっきりこの2組のカップルの物語かと思わされるが、すぐにこれらが不倫カップルであることが分かる。実際にはアニルッドとカーヴィヤーが夫婦であった。

 アニルッドとカーヴィヤーは離婚の危機にあった。彼らの仲がなぜここまで悪化してしまったのか、この物語の本題ではなかったので、断片的にしか語られていなかった。それらの断片をつなぎ合わせて想像力を膨らませると、次のようになるだろう。

 どうもベンガル人のアニルッドはウーティーの大学で学んでおり、そこでウーティー出身のカーヴィヤーと出会って恋に落ちたようだった。カーヴィヤーの家族は彼女がアニルッドと結婚することに大反対で、結果的に二人は駆け落ち結婚した。カーヴィヤーは父親から勘当され、それ以来故郷に戻っていなかった。

 恋愛結婚をしたアニルッドとカーヴィヤーであったが、その恋愛感情は長く続かなかった。どうもカーヴィヤーは一度妊娠したものの堕胎をしたようで、それが関係悪化のきっかけだと予想される。どんなに仲が良かった夫婦でも、何らかのきっかけで関係が壊れると、その修復はなかなか難しい。アニルッドとカーヴィヤーも、修復する機会が得られずにズルズルと年月だけ過ぎ去ってしまったように見えた。

 アニルッドとノラの出会い、およびカーヴィヤーとヴィクラムの出会いは、さらに情報が不足している。どちらの不倫相手も芸術家志向というのは面白い。ノラは女優の卵、ヴィクラムは写真家であった。おそらく両者とも結婚相手にないものを不倫相手に求めた結果、似た傾向の相手と不倫することになったのだと思われる。

 カーヴィヤーの祖父の葬儀をきっかけにアニルッドとカーヴィヤーの関係は思いがけず修復される。夫婦仲は、ちょっとしたきっかけで壊れもすれば、ちょっとしたきっかけで回復もする。彼らにとっては、出会い、恋に落ち、スリルの中で愛を育んだ地であるウーティーへの再訪が、初心を呼び戻すきっかけになった。この辺りの心情変化の描き方は見事であった。

 ムンバイーに戻ると、今まで積み重ねてきた不倫が二人に重くのしかかる。このまま昔のような関係に戻れると思っていた矢先にお互いの不倫がばれてしまう。まず気付いたのはアニルッドの方だった。カーヴィヤーへの気持ちが戻ってきていただけに、彼女の裏切りが余計に鋭く胸に突き刺さった。次にカーヴィヤーがアニルッドの不倫に気付く。何しろノラが彼女の職場に乗り込んできたのだ。カーヴィヤーは自分の不倫そっちのけでアニルッドを責める。アニルッドもヴィクラムの名前を出してカーヴィヤーに反撃する。修羅場である。

 インド映画の伝統的な価値観(参照)では、一度結婚した夫婦を別れさせることはない。離婚したとしても元の鞘に戻る。「Do Aur Do Pyaar」では、離婚しそうになった夫婦が中盤によりを戻しそうになるが、W不倫がお互いに知れてしまい、関係は崩壊する。そのままあっけなく離婚してしまうのだが、映画の最後にはこの二人がまたくっ付きそうな余韻を残して終幕となる。よって、広い意味では保守的な映画だと捉えることができる。

 アニルッド、カーヴィヤー、ノラ、ヴィクラムの4人が織りなす人間模様がこの映画の軸になっていたが、その他にもいくつかキャラに深みを与える設定があった。たとえばアニルッドは元々ミュージシャンを目指していたが、家業を継ぐために夢を諦めた過去があった。アニルッドにはどこか自信のなさが見え隠れしていたが、そんな過去と無関係ではないだろう。たとえばカーヴィヤーは医者一家に生まれ、兄弟の中では彼女だけが医者ではなく歯医者をしていた。それが彼女にとって劣等感になっており、父親への反発の原因にもなっていた。

 映画そのものも良かったが、アコースティック中心の音楽も非常に効果的だった。ザ・ローカル・トレインが作曲しラッキー・アリーが歌う「Tu Hai Kahaan」やアビシェーク・アナンニャーが作曲しシュバム・シルレーが歌う「Do Kinaare」など、いい曲が多く、要所にBGMとして使われて、大人のラブストーリーを盛り上げていた。

 「Do Aur Do Pyaar」は、結婚、不倫、離婚などをテーマにした、新時代の到来を思わせる成熟した大人のロマンス映画だ。この種の映画にインドらしさを盛り込むのは難しいものだが、ムンバイーとウーティーの2ヶ所を舞台にしてストーリーを進行させることで、現代的なインドと昔ながらのインドの対比構造を成立させることに成功しており、それが登場人物の心情変化やストーリーの転換にもつながっているという工夫がなされていた。必見の映画である。