Dream Girl 2

3.5
Dream Girl 2
「Dream Girl 2」

 「Dream Girl」(2019年)は、アーユシュマーン・クラーナー演じる主人公のカラムが女性の声色を真似できる特技を持っているという設定のコメディー映画だった。カラムは、男性客が女性とHな会話ができる電話デートのコールセンターに男性ながら勤めることになり、高給を得る。「Dream Girl」は2019年のヒット作の一本となった。

 2023年8月25日公開の「Dream Girl 2」は「Dream Girl」の続編である。ストーリー上のつながりはないが、監督、俳優、主要なキャラには連続性がある。

 監督は前作に引き続きラージ・シャーンディリヤー。主演のアーユシュマーン・クラーナーも変わっていないが、ヒロインはヌスラト・バルチャーからアナンヤー・パーンデーイに交替した。主な脇役陣も前作から引き継がれている。アンヌー・カプール、ヴィジャイ・ラーズ、アビシェーク・バナルジー、マンジョート・スィンなどである。本作から加わったのは、パレーシュ・ラーワル、ラージパール・ヤーダヴ、アスラーニー、マノージ・ジョーシー、スィーマー・パーワーなどである。

 前作の舞台はマトゥラーだったが、今作ではアーグラーの旧市街が主な舞台になっていた。

 カラム(アーユシュマーン・クラーナー)はパリー(アナンヤー・パーンデーイ)と恋仲にあり、結婚しようとしたが、パリーの父親ジャイパール(マノージ・ジョーシー)はカラムが無職であり、家も差し押さえられているのを知り、結婚のためには、半年以内に300万ルピーの貯金を作り、持ち家も持つように条件を出す。カラムは幼い頃から劇団で女形をしており、女性の声を真似るのが得意だった。親友のスマイリー(マンジョート・スィン)に紹介され、ソーナー・バーイー(ヴィジャイ・ラーズ)の経営するダンスバーで女性ダンサーとして働き出す。カラムはプージャーを名乗る。

 ところでスマイリーにはサキーナーという恋人がいた。サキーナーの父親アブー・サリーム(パレーシュ・ラーワル)は、スマイリーが娘と結婚するのを認めるが、ひとつ条件を出す。それは、サキーナーの兄シャールク(アビシェーク・バナルジー)の結婚だった。シャールクは最近失恋して鬱状態になっていた。スマイリーはプージャーを精神科医としてアブーに紹介し、彼にシャールクの鬱病を治すように頼む。アブーはシャールクが快方に向かったのを感じ取り、シャールクとプージャーの結婚を決める。

 カラムは挙式直後に逃げ出す予定だったが、結婚式の夜、シャールクの祖父(アスラーニー)が急死してしまい、スマイリーとサキーナーの結婚式が半年後に延期されてしまう。それまで彼はプージャーを装いながらシャールクと同居しなくてはならなくなってしまった。しかもダンスバーでの仕事も続いていた。

 女装したカラムはなぜかモテモテで、ソーナー・バーイーから惚れられてしまう。ソーナー・バーイーは実はシャールクの叔母にあたるジュマーニー(スィーマー・パーワー)と結婚していたが、二人の仲は冷え切っていた。ソーナー・バーイーはジュマーニーと離婚してプージャーと結婚することを決める。一方、ジュマーニーはカラムを見て一目惚れしてしまい、彼との結婚を決める。カラムの父親ジャグジート(アンヌー・カプール)はジュマーニーが持ち込んだ縁談を自分との結婚だと勘違いしてしまう。

 カラムはパリーに何をして稼いでいるのかは内緒にしていた。それが災いし、パリーはカラムが浮気していると勘違いしてしまう。

 やがてシャールクにはプージャーが男性だと知れてしまう。だが、実はシャールクはゲイで、カラムにとても協力的だった。プージャーに子供ができないと知ったジュマーニーは彼女とシャールクをベイビー・バーバーのところへ連れていく。ベイビー・バーバーは二人にヤムナー河で沐浴させるが、その隙にプージャーは姿をくらます。プージャーは溺死したことになり、アブーの家では葬儀が行われる。

 パリーが別の男性と結婚すると知り、カラムは結婚式場に乱入する。だが、パリーはカラムに裏切られたと思っており、彼の話を聞こうとしなかった。そこでカラムはプージャーの姿になって踊りを踊り、自分がしていたことを明かす。パリーは納得し、カラムとの結婚を決める。

 前作「Dream Girl」では女性の声が出せる男性という一点に絞って笑いを繰り広げていたのだが、「Dream Girl 2」では主人公カラムが女装をし踊りを踊るなどしたことで、一般的な女装モノのコメディー映画に劣化してしまっていたように感じた。

 工夫があったのはシャールクとの関係だ。カラムが化けたプージャーはシャールクと結婚することになる。プージャーはシャールクとの夜の営みを避けていたが、シャールクは一向に彼女に手を出してこなかった。とうとうプージャーの正体がばれてしまうが、シャールクは怒らないばかりか笑い出す。実は彼はゲイで、失恋した相手も男性だった。自分の性的指向を父親に言い出せず、渋々プージャーと結婚したのだが、その相手が男性であることが分かり、逆に喜んだのだった。

 シャールクがカラムに恋心を抱くようになると話がこんがらがったことだろう。同時に面白くもなったはずだが、意外にシャールクはカラムに協力的で、彼が失踪するのを手伝ったりもした。本当はここに笑いの核心を持ってくるべきだったと思うが、監督は別の方向性を持っていたようだ。とはいえ、シャールクの存在は、昨今のヒンディー語映画界から強く発信されているLGBTQ啓蒙主義の延長線上にあるのは確かだ。

 LGBTQよりも監督のリベラルな思想を強く感じたのは、異宗教間結婚がごく当たり前に描写されていたことだ。脇役ではあるが、スィク教徒のスマイリーとイスラーム教徒のサキーナーの結婚が大した抵抗もなくあっさり認められていたことには驚いた。さらに、それより前にはサキーナーの叔母にあたるジュマーニーとヒンドゥー教徒のソーナー・バーイーも結婚していたし、サキーナーの兄シャールクとヒンドゥー教徒プージャーの結婚も難なく行われてしまった。異宗教間結婚に関してここまで寛容なイスラーム教徒の一家が映画に登場するのは稀である。コメディー映画なので、細かい部分は深く考えずにストーリーや人間関係を組み立ててしまっただけかもしれないが、正直この映画からもっとも新しさを感じたのはこの部分だ。

 演技力やコミックロールに定評のある俳優たちが揃っていたため、彼らの絶妙なやり取りを見るのはこの上ない楽しみだった。主演アーユシュマーン・クラーナーは半分以上の時間を女装して登場しており、見事な身のこなしを見せていた。彼をパレーシュ・ラーワル、アンヌー・カプール、ラージパール・ヤーダヴ、ヴィジャイ・ラーズ、スィーマー・パーワーなどの名優たちが支え、コメディー映画として高い完成度を実現していた。

 疑問に感じたのはアナンニャー・パーンデーイの起用である。今もっとも勢いのある若手女優の一人であるが、残念ながら「Dream Girl 2」での彼女の出番は限定的だった。しかもその少ない出番の大半で彼女はしかめっ面を見せており、魅力的に感じなかった。もったいない起用法だ。

 「Dream Girl 2」は、ヒット作「Dream Girl」の続編であり、前作から監督や多くの俳優たちが引き継がれている。しかしながら、今回は単なる女装モノのコメディー映画になってしまっており、前作を超える出来とは思えなかった。それでも興行的には成功している。アーユシュマーン・クラーナーの女装演技は確かに見応えがあるが、あまり期待しすぎない方がいいだろう。