Bhola Shankar (Telugu)

2.5
Bhola Shankar
「Bhola Shankar」

 2023年8月11日公開のテルグ語映画「Bhola Shankar」は、テルグ語映画界のメガスター、チランジーヴィ主演のアクション映画である。タミル語映画「Vedalam」(2015年)のリメイクだ。この日、ヒンディー語映画「Gadar 2」と「OMG 2」、そしてタミル語映画「Jailer 」(2023年)が同時に公開され話題になったが、「Bhola Shankar」は興行的にもっとも失敗した作品になった。

 監督はメヘル・ラメーシュ。ヒロインはタマンナーとキールティ・スレーシュ。他に、スシャーント、タルン・アローラー、シャーワル・アリー、ヴェンネラ・キショール、ムラリー・シャルマー、ブラフマーナンダンなどが出演している。

 ボーラー・シャンカル(チランジーヴィ)は妹のマハーラクシュミー(キールティ・スレーシュ)と共にハイダラーバードからコルカタにやって来た。マハーラクシュミーは芸術大学に入学した一方、シャンカルはタクシー運転手をして生計を立てることにした。彼の最初の客は弁護士のラスィヤー(タマンナー)であったが、二人の間には確執が生じた。また、ラスィヤーの兄シュリーカル(スシャーント)はマハーラクシュミーに一目惚れし、二人の縁談がトントン拍子に進む。婚約式の日、ラスィヤーは初めて、シュリーカルの結婚相手がシャンカルであると知り、縁談を止めようとするが、既に婚約式は済んでしまっていた。

 その頃、コルカタでは若い女性の誘拐事件が相次いでいた。警察はタクシー運転手たちに指名手配犯の写真を配り通報を要請する。シャンカルはたまたま指名手配犯を見つけ警察に通報する。それがきっかけで誘拐の実行犯たちが逮捕される。人身売買ビジネスは、3人の兄弟が牛耳っていた。コルカタで現場の指揮をしていたのは三男のブレットリーであった。ブレットリーは警察に通報したシャンカルを見つけ出し見せしめに殺そうとするが、シャンカルは圧倒的な戦闘力を持っており、返り討ちに遭う。ブレットリーはシャンカルに惨殺される。

 ブレットリーの死を聞き、次男のチャールズがコルカタにやって来る。チャールズは長男アレキサンダーには詳細を伝えず、ブレットリーを殺害した者を追い始める。携帯電話の位置情報からシャンカルが特定され、チャールズはシャンカルに刺客を放つが、逆にシャンカルの襲撃を受け、彼も殺される。だが、シャンカルがチャールズの首をはねているところをラスィヤーが目撃してしまう。

 ラスィヤーはシュリーカルを人殺しの妹と結婚させないと言う。それに対しシャンカルは、実はマハーラクシュミーは自分の本当の妹ではないと明かし、ハイダラーバードでの経緯を語り出す。

 1年前。シャンカルはハイダラーバードで名の知れたマフィアであり、困った人々をあらゆる手段を使って有料で助けていた。あるときシャンカルはライバルマフィアに不意打ちを受け瀕死の重傷を負うが、たまたま通りがかったマハーラクシュミーに助けられる。シャンカルは一命を取り止めるものの、誰に助けられたのかは知らなかった。

 マハーラクシュミーの父(ムラリー・シャルマー)は地上げ屋から脅迫を受けていた。父はシャンカルに助けを求める。だが、シャンカルは地上げ屋から買収され、地上げする側に回ってしまう。そのとき、マハーラクシュミーは誘拐される。シャンカルが助けに入ったために大事には至らなかったが、誘拐マフィアたちはマハーラクシュミーを追うようになる。彼女の両親は殺され、マハーラクシュミーも重傷を負う。シャンカルは彼女を病院に連れていく。そこで彼は、かつて自分を助けてくれたのはマハーラクシュミーだったことを知る。

 マハーラクシュミーは九死に一生を得たが記憶喪失になってしまった。シャンカルは彼女に対し、兄だと自己紹介し、マフィアから足を洗ってハイダラーバードを離れ、コルカタに来ていたのだった。それを聞いたラスィヤーはシュリーカルとマハーラクシュミーの結婚を認めると同時に、シャンカルに対して明確に恋心を抱くようになる。

 コルカタにアレキサンダーが上陸した。早速、ブレットリーとチャールズを殺した男を追い始め、マハーラクシュミーが描いたスケッチ画からシャンカルに行き着く。マハーラクシュミーは誘拐され、シャンカルは彼女を助けるためアレキサンダーを追う。シャンカルはアレキサンダーと戦って彼を殺す。

 映画の冒頭で主人公シャンカルは新米タクシー運転手として働き出す。メガスターにしては庶民的な職業であるが、もちろんそれは仮の姿である。正体はハイダラーバードで泣く子も黙るマフィアのドンであり、一騎当千の戦闘力を誇る。映画中には数々のファイトシーンが用意されているが、シャンカルが攻撃を受けて傷を負うような場面はほとんどない。ほぼ無傷で何十人もの悪漢たちを次々になぎ倒す。スターは無敵でなければならない。そんなスターシステムの掟を頑なに守った演出だ。

 シャンカルは単なるマフィアで終わらない。まず、妹思いの性格が強調される。マハーラクシュミーはシャンカルの実の妹ではなかったが、過去の不幸な事件を経て、二人は血縁以上の固い絆で結ばれた。シャンカルは、マフィアに狙われ、両親を失った上に記憶喪失になったマハーラクシュミーを妹として引き受け、マフィア稼業から足を洗ってコルカタに降り立ったのである。

 さらに、シャンカルは国際的な人身売買シンジケートを一網打尽にする。ただし、どちらかといえば受動的にこのシンジケートと関わることになり、最終的にはマハーラクシュミーが誘拐されたことで大ボスのアレキサンダーも彼に殺されることになる。つまり、シャンカルは正義感からシンジケートに喧嘩を売ったわけではない。もしシンジケート側がシャンカルに触れなければ、何の接点もなく過ぎ去ったことだろう。

 全体的に盛りだくさんの映画であった。ジャンルはアクション映画だが、ちょっとしたロマンスもあれば、クスッと笑えるコメディーシーンもあった。ダンスシーンも豪華である。マサーラー映画の真骨頂だ。しかしながら、ファイトシーンが単調で、悪役が没個性だったことなど、欠点も散見される映画であり、あまり物語の中に入っていけなかった。昔ながらの娯楽映画ではあるが、もはや南インドでもこの種の映画は時代遅れになりつつあるように感じる。

 映画の半分の舞台がコルカタだったことには注目したい。なぜか登場人物の多くがテルグ語を話しているのは変に感じるが、ちゃんとヒンディー語やベンガル語も聞こえてきた。コルカタの観光名所であるカーリー寺院やヴィクトリア記念堂、それにコルカタ名物ドゥルガープージャーも出て来て、コルカタづくしであった。これは、テルグ語映画が「地方映画」から脱皮しようとしている証拠だと捉えられなくもない。「Baahubali」シリーズ(2015年2017年)や「RRR」(2022年)などの全国的ヒットにより、テルグ語映画界はインド全土に市場を広げようという野心を持つようになっているように感じる。チランジーヴィはテルグ語映画界では断トツのトップスターであるが、全国的な人気では息子のラーム・チャランに軍配が上がるかもしれない。テルグ語映画界はどうもチランジーヴィを汎インドスター化しようと躍起になっているように見えるが、なかなか成功していない。「Bhola Shankar」もその試みのひとつだったのだろうが、失敗した。

 チランジーヴィ映画ではチランジーヴィにスポットライトが当たりすぎて、ヒロインをはじめとしたその他の俳優たちにはほとんど出番が与えられない。「Baahubali」シリーズでは勇壮な女戦士を演じていたタマンナーも、序盤に少し見せ場があっただけで、後は添え物と化していた。むしろ印象に残ったのはマハーラクシュミー役を演じたキールティ・スレーシュの方だ。シャンカルに守られる妹役を健気に演じきり、チランジーヴィの威光にうまく乗っかることができた。

 「Bhola Shankar」は、チランジーヴィ主演の典型的なマサーラー映画だ。血のつながりのない兄と妹の絆を織り込んだところは良かったが、それ以外に見所となる部分がなく、興行的にも大失敗している。無理して観る必要のない作品だ。