Blind

3.0
Blind
「Blind」

 2023年7月7日からJioCinemaで配信開始された「Blind」は、韓国映画「ブラインド」(2011年)のヒンディー語リメイクである。ジャンルはサイコスリラーになる。主演はソーナム・カプール。「Saawariya」(2007年)でデビューして以来、トップ女優の一人として活躍してきたが、2018年に結婚し、出演作は少なくなった。彼女の最後の出演作は「AK vs AK」(2020年)である。また、2022年には出産をした。この作品は彼女にとって3年振りのカムバック作品となる。

 監督はショーム・マキージャー。「Kahaani 2: Durga Rani Singh」(2016年)や「Badla」(2019年)などの助監督であり、本作が監督デビューとなる。主演ソーナム・カプールの他に、プーラブ・コーリー、ヴィナイ・パータク、リレット・ドゥベー、シュバム・サラーフ、ディネーシュ・リズヴィー、ジャーヴェード・カーンなどが出演している。

 スコットランドのグラスゴー市警察に勤務するジヤー・スィン(ソーナム・カプール)は、マリア(リレット・ドゥベー)の孤児院で育った。血のつながりはなかったが、同じ孤児院で育ったエイドリアン・ペレイラ(ディネーシュ・リズヴィー)を弟として面倒を見ていた。だが、交通事故で弟を死なせてしまい、自身も両目の視力を失う。

 盲目になったことで警察の職を失ったジヤーは盲導犬のエルザと共に暮らしていた。弟を死なせてしまったトラウマからなかなか回復できていなかった。孤児院を訪れた帰り、ジヤーはタクシーに乗り、異変を感じる。最近グラスゴーでは若い女性が行方不明になる事件が多発していた。その日もミア・ワレスという女性が行方不明になったと報道されていた。ジヤーは直感で、自分が乗ったタクシーにミアがいたと感じ、警察に通報する。だが、担当した警察官プリトヴィー・カンナー警部(ヴィナイ・パータク)は盲目の目撃者の証言を信じようとしない。だが、ジヤーが視覚以外の情報から多くのことを推理する能力に長けているのを見て、カンナー警部は彼女と共に捜査をすることになる。

 もう一人、ニキル・サラーフ(シュバム・サラーフ)という青年が目撃者として現れた。だが、ジヤーとニキルの証言に食い違いがあり、カンナー警部は混乱する。捜査を進めていく内に、犯人(プーラブ・コーリー)はインド人の医師であることが分かる。一方、犯人はジヤーとニキルの命を狙い始め、それぞれ襲撃を受ける。ジヤーは無事だったがエルザは殺され、ニキルも頭部に怪我を負った。また、カンナー警部は犯人に殺されてしまう。

 ジヤーとニキルは孤児院に避難していたが、犯人は彼らの居所を突き止め、孤児院に現れる。ニキルは刺されて重傷を負うが、ジヤーは勇敢に立ち向かい、犯人を殺す。

 題名が示す通り、盲人が主人公の映画である。ただし、主人公のジヤーは生来の盲人ではなく、成人してからの交通事故で視力を失っていた。ジヤーは盲目になる前に優秀な警察官だったことも重要な要素である。

 視力を失い、警察の職も失ったこと以上にジヤーを苦しめていたのは、弟エイドリアンの死であった。エイドリアンを乗せて彼女が自動車を運転しているときに交通事故に遭い、弟は死んでしまった。さらに、ただの交通事故なら弟は生き残ったかもしれなかった。ジヤーは、言うことを聞かない弟に手錠を掛けており、それが原因で彼は逃げ遅れて死んでしまった。もちろん、一般人に手錠を使うのは警察の規則にも反する。ジヤーは、弟の死を自責し続けていた。

 その頃、グラスゴーでは若い女性が消息を絶つ事件が相次いでおり、ジヤーは偶然、犯人の運転する自動車に乗っていた。そこから犯人と接点ができ、ジヤーは元警察官としての責任感もあって、犯人逮捕に全力を挙げ始める。また、途中からもう一人、ニキルという青年が目撃者として現れるが、ジヤーは彼を死んだ弟に重ねていた節もあった。エイドリアンを救えなかったジヤーは、ニキルを救うことで罪滅ぼしをしようとしたのである。

 サイコスリラー映画では、犯人側の動機も映画の質を決める。映画中に犯人の名前は出て来ないが、彼がなぜ若い女性の誘拐と殺人を繰り返すのかはジヤーが分析していた。犯人は不能者であり、反撃して来なさそうな若い女性をターゲットにして猟奇的犯行を繰り返すのである。また、終盤で彼の職業が産婦人科医であることも明かされる。おそらく、普段から女性器を見ていて不能となり、非日常的な刺激を求めて犯行に及んだという説明が通るだろう。

 ソーナム・カプールはキャリア全盛期に「Neerja」(2016年)などの女性中心映画に出演してきた女優だ。この「Blind」も女性中心映画だといえる。盲目というハンデを抱えながら、誰かに助けてもらうのではなく、女性を付け狙う犯人に自ら立ち向かう勇敢な女性を演じた。ただ、彼女は昔から、台詞の発声に力が入らない欠点があり、この映画でもその弱点が時々露呈していた。勇敢な女性役なので、台詞にももっと力を入れるべきである。

 ヴィナイ・パータクやプーラブ・コーリーも好演していた。ニキルを演じたシュバム・サラーフは、ドラマ「A Suitable Boy」(2020年)や「Shantaram」(2022年)に出演していたインド系英国人男優だ。今後、ヒンディー語映画でも活躍の機会が増えるかもしれない。

 「Blind」は、韓国の同名サイコスリラー映画のヒンディー語リメイクである。原作に忠実な翻案と見られ、インドらしさはあまりない。脚本はよく出来ており、女性が女性の問題を解決するという女性中心映画という点でも注目されるが、ソーナム・カプールの3年振り復帰を祝うための映画という性格が強い。楽しめる映画ではあるが、何かが残る映画ではない。