Bad Boy

2.5
Bad Boy
「Bad Boy」

 2023年4月28日公開の「Bad Boy」は、テルグ語映画「Cinema Choopistha Mava」(2015年)をリメイクしたコメディー映画である。

 監督はラージクマール・サントーシー。基本的には「The Legend of Bhagat Singh」(2002年)や「Gandhi Godse Ek Yudh」(2023年)などの硬派な映画で知られるが、カルト的な人気を誇る混沌としたコメディー映画「Andaz Apna Apna」(1994年)も作っている、芸域の広い映画監督だ。音楽監督はヒメーシュ・レーシャミヤーである。

 主演はナマーシー・チャクラボルティーとアムリーン・クライシー。どちらも新人であるが、映画家系の生まれだ。ナマーシーの父親は、「Disco Dancer」(1982年)などで知られる庶民的大スターのミトゥン・チャクラボルティー。ナマーシーの2人の兄ミモー・チャクラボルティーとウシュマイ・チャクラボルティーは既にデビュー済みで、チャクラボルティー家の三男は今回、満を持しての長編映画初出演、初主演となった。一方のアムリーンは、「Nanu Ki Jaanu」(2018年)などをプロデュースしたサージド・クライシーの娘。サージドは「Bad Boy」のプロデューサーでもある。「Bad Boy」は完全にナマーシーとアムリーンのローンチ映画である。

 他に、シャーシュワタ・チャタルジー、ラージェーシュ・シャルマー、ダルシャン・ジャリーワーラー、ジョニー・リーヴァル、ラージパール・ヤーダヴなどが出演している。また、ナマーシーの父親ミトゥンが序盤のダンスナンバー「Janabe Ali」に特別出演し踊りを踊っている。

 貧しい廃品回収屋の息子で無職かつ怠け者のラグ(ナマーシー・チャクラボルティー)は、非情なまでの医療機関監査をし人々から嫌われているベンガル人シュバンカル・バナルジー(シャーシュワタ・チャタルジー)の娘リトゥパルナー(アムリーン・クライシー)と恋に落ちる。だが、シュバンカルは娘を、友人の息子で彼の家に居候中のタパンと結婚させようとする。そこでラグはバナルジー家を訪れ、リトゥパルナーと相思相愛であることを明かす。シュバンカルは優秀な娘が無職のゴロツキと結婚しないように、ひとつ条件を出す。もしラグが1ヶ月間、バナルジー家の家計を全て支払うことができたら娘との結婚を認めるというものだった。ラグはその条件を飲む。

 ラグは友人のオートリクシャーを借りて働き出すが、稼ぎはわずかだった。だが、あるとき乗客にTVCMのアイデアを売りこみ、それによって10万ルピーの報酬を得る。ラグは喜び勇んで現金を持ってバナルジー家を訪れ、全ての請求書の支払いを済ませる。シュバンカルはリトゥパルナーをラグの家に連れていき現実を見せようとするが、リトゥパルナーはますますラグの妻になる決意を固くする。

 とうとうシュバンカルも折れるが、その直後、ラグとリトゥパルナーは交通事故に遭う。ラグは軽傷で済んだが、リトゥパルナーは手術が必要なほど重体だった。病院では手術代として50万ルピーが必要だと言われる。シュバンカルはラグに50万ルピーを払うか、さもなくばリトゥパルナーとの結婚を諦めるように言う。リトゥパルナーの命を第一に考えたラグは負けを認め、病院を立ち去る。

 だが、リトゥパルナーの手術を担当することになった医師ケータン・パテール(ダルシャン・ジャリーワーラー)は、かつてシュバンカルの厳しい監査によって失職の危機を迎えた人物だった。ケータンは手術を拒否する。だが、駆けつけたラグが彼を説得し、ケータンはリトゥパルナーの手術をすることになる。おかげでリトゥパルナーは助かる。シュバンカルもとうとうラグとリトゥパルナーの結婚を認める。

 1990年代を思わせる古風なコメディー映画だった。だが、これは決して否定的なコメントではない。分かりやすい筋書きに、抱腹絶倒のコミックシーンがいくつもちりばめられた、コメディー映画の伝統と美学が詰まっている完成された作品であった。特に序盤、主人公ラグが、リトゥパルナーを口説くために身分を偽って忍び込んだ大学で、学長に呼び出される場面は、観客を否応なしに爆笑に巻き込む優れたコミックシーンであった。ラグとリトゥパルナーの結婚がまとまる結末への持って行き方も素晴らしかった。これは原作の脚本が優れていたおかげかもしれない。

 だが、惜しむらくは主演ナマーシー・チャクラボルティーの未熟な演技である。決してハンサムとはいえない上に、父親ミトゥンのオーラも受け継いでおらず、セリフ回しに重みもなかった。現時点では将来性を感じない二世俳優である。ヒロインのアムリーン・クライシーからは大きな弱点を感じなかったものの、業界にとどまって活躍するだけの特徴があったとも思えなかった。つまり、「Bad Boy」は、ナマーシーとアムリーンをローンチするためにラージクマール・サントーシー監督が一肌抜いて作り上げた「Andaz Apna Apna」風のコメディー映画であるが、当のナマーシーとアムリーンに主演作という重責を担うだけの力量がなかったばかりに、点火されずに終わってしまったということだ。

 脇役には才能あるコメディアン俳優がそろっている。シャーシュワタ・チャタルジー、ラージェーシュ・シャルマー、ジョニー・リーヴァル、ラージパール・ヤーダヴといった名前を聞けば、ヒンディー語映画ファンならば絶対に観てみたくなるはずだ。彼らの演技には全く欠点はなかった。素晴らしい仕事をしていた。だが、主演の若い二人がそれに応えられなかった。特にナマーシーの責任が重大である。俳優ではなく監督などに専念した方がいいだろう。

 ヒンディー語映画ではあるが、ロケ地はなぜかカルナータカ州の州都ベンガルールであった。バナルジー家はベンガル人一家であり、セリフの中に時々ベンガル語が混じった。ベンガル語の「I Love You」である「আমি তোমাকে ভালোবাসিアミ トマケ バロバシ」が映画の重要な転機になっていた。

 「Bad Boy」は、カルト的な人気を誇るコメディー映画を撮った経験のあるラージクマール・サントーシーが監督した、新人俳優ナマーシー・チャクラボルティーとアムリーン・クライシーをローンチするためのコメディー映画である。だが、肝心のナマーシーにスターとしての素質がなく、アムリーンにもこれといったものがなかったため、羽ばたくことなく墜落してしまった残念な作品だ。とはいえ、部分的に爆笑できる場面がいくつかあるので、観てみるのもありである。ナマーシーの父親ミトゥン・チャクラボルティーの特別出演も大きな見どころだ。総じて、特定の理由があれば観る価値のある作品だといえる。