Middle-Class Love

3.5
Middle-Class Love
「Middle-Class Love」

 2022年9月16日公開の「Middle-Class Love」は、大学を舞台にした明るい青春ラブコメ映画である。無名の若手俳優を主役に起用しており集客力は低いが、「Ra.One」(2011年/邦題:ラ・ワン)などのアヌバヴ・スィナーがプロデュースしており、ただの低予算映画ではない。

 監督はラトナー・スィナー。アヌバヴの妻で、過去に「Shaadi Mein Zaroor Aana」(2017年)などを撮っている。脚本も彼女が書いている。キャストは、プリート・カマーニー、イーシャー・スィン、カーヴィヤー・ターパル、マノージ・パーワー、サプナー・サンドなどである。プリートは「Maska」(2020年)や「Jersey」(2022年)に出演していた若手男優だ。ヒロインのイーシャーとカーヴィヤーはどちらも新人である。

 マスーリーに住む銀行員の父親(マノージ・パーワー)と個人経営の弁当屋を営む母親(サプナー・サンド)の間に次男として生まれたユディシュティル・シャルマー、通称ユーディー(プリート・カマーニー)は、中産階級からの脱却を目指し、裕福な家庭の子供が通う名門校オークウッド・ハイに入学する。目的はただひとつ、マスーリーのアイドル、サイシャー・オーベローイ(カーヴィヤー・ターパル)の恋人になってセレブの仲間入りすることだった。

 ユーディーはサイシャーと同じクラスになり、彼女と知り合いになる。サイシャーは同じクラスのアーシュナー・トリパーティー(イーシャー・スィン)とライバル関係にあった。サイシャーは、自分に近づいてきたユーディーを利用し、アーシュナーに復讐することを考える。サイシャーはユーディーに、アーシュナーを口説いた後にこっぴどく振ることに成功すれば彼の恋人になると約束する。ユーディーは二つ返事でアーシュナーを口説き出す。

 当初、ユーディーとアーシュナーは犬猿の仲だったが、彼は巧みにアーシュナーの信頼を勝ち取り、恋に落とす。しかし、ユーディーはヘマをしてしまい、アーシュナーから公衆の面前で平手打ちを喰らう。サイシャーは満足し、ユーディーを彼氏にする。だが、ユーディーにはだんだんと背伸びをして裕福なサイシャーとデートをすることが苦痛になってくる。ユーディーはサイシャーと付き合いながらもアーシュナーと仲直りし、彼女とも会うようになる。

 ユーディーは、サイシャーとアーシュナーが、誤解から仲違いしていることを知り、何とか二人を仲直りさせようとする。だが、ユーディーとアーシュナーがキスをしているところをサイシャーが見てしまい、サイシャーはアーシュナーに、彼は自分の恋人だと明かす。ショックを受けたアーシュナーは立ち去るが、サイシャーもユーディーとは距離を置くようになる。

 また、ユーディーは学費の一部をクールになるために使い込んでしまっていた。それが父親にばれ、勘当寸前になる。心を入れ替えたユーディーはバイトをして使い込んだ分を稼ぐ。だが、考え直し、オークウッド・ハイを辞めることにする。また、ユーディーはサイシャーとアーシュナーの仲直りを実現させる。

 オークウッド・ハイのクリスマスパーティーにユーディーは母親の店を出す。オークウッド・ハイの学生として最後の日のつもりだった。このパーティーで母親の店は優勝する。ユーディーはステージの上で家族に感謝の気持ちを述べる。それを聞いた父親は足りなかった学費を払う。ユーディーはそのままオークウッド・ハイに残れることになった。

 「Student of the Year」(2012年/邦題:スチューデント・オブ・ザ・イヤー 狙え!No.1!!)などに比べたらスターパワーがなく地味な印象を受ける学園モノの青春ドラマだが、主役を務めた若手の俳優たちが好演しているし、何よりコメディータッチの明るい展開が続くので、楽しく観ていられる。なかなかどうして侮れない佳作になっている。

 主演のプリート・カマーニーはカールティク・アーリヤンに似た細身の男優だ。昨今、ヒンディー語映画界の男優たちはこぞって筋肉増強をして重量級になっているが、彼は大学生役らしい風貌をしていた。彼の演じるユーディーが物語の中心にいるのは疑いようがないのだが、よく観察すると、実はこの映画は2人のヒロインの描写が優れていることに気付く。これは監督と脚本が女性によるものだからであろう。

 サイシャーとアーシュナーは序盤から火花を散らしていたが、なぜ二人がそれほどいがみ合っているのかについてはなかなか明かされない。ユーディーは二人の間を行ったり来たりしながら、何が起こったのかを解きほぐしていく。

 対立のきっかけは些細なことだった。元々二人は親友であったが、ある日、アーシュナーの従兄弟ラーフルがマスーリーにやって来た。アーシュナーはサイシャーをラーフルに紹介する。その際、アーシュナーがラーフルに「サイシャーはあんたには高嶺の花よ」と言ったことでラーフルが意地になり、賭けのつもりでサイシャーを口説き始めたのだ。そしてサイシャーはラーフルに恋してしまった。サイシャーが本気になっているのを見たアーシュナーはラーフルに警告するが、ラーフルは真剣にサイシャーを愛していると言ったので、成り行きに任せることにした。ところがラーフルは賭けのことをサイシャーにばらし、彼女に別れを切り出す。ラーフルに振られ、親友から裏切られたことを知ったサイシャーはアーシュナーと絶交したのだった。アーシュナーにしても、弁明する前にサイシャーから酷い言葉で罵られ、それ以上彼女と関わることを止めてしまった。

 サイシャーは、アーシュナーに自分と同じ苦しみを味わわせるため、ユーディーを使って彼女を口説かせたのである。サイシャーの恋人になりたかったユーディーはその依頼を受けてしまう。これがこの映画のそもそもの導入部になっている。サイシャーもアーシュナーもユーディーに恋することになり、三角関係が形成されるのは恋愛映画のお約束だ。

 しかしながら、物語の進行に伴ってユーディーは、サイシャーとアーシュナーの過去に大体どんなことがあったのかを把握し、二人を仲直りさせようとする。驚くべきことに「Middle-Class Love」の最後ではユーディーがどちらと結ばれたのかが明示されない。もしかしたらどちらとも結ばれなかったのかもしれない。サイシャーとアーシュナーが旧来の友情を取り戻し、隣り合って笑っている様子が映し出されるだけである。いつの間にか女の友情を謳歌する物語になっていた。

 恋愛映画としてはこのままでは据わりが悪いと感じたのか、最後にユーディーが「I Love You」を送ったのは、二人のヒロインではなく、父親、母親、そして兄に対してだった。利己主義的な人間だったユーディーは、サイシャーとアーシュナーに振られ、父親から勘当されそうになり、大学からも放り出されそうになったことで目を覚まし、見栄を張るのを止めて、中産階級の出自に見合った生き方をするようになる。するといろいろなことがうまく回りだし、最後は家族に感謝の気持ちを表明するのである。

 この規模の映画にしては、ソングシーンやダンスシーンにも力が入っていた。音楽監督はヒメーシュ・レーシャミヤーである。映像的に面白かったのは「Hypnotize」だ。インスタグラムに似たSNSを通して一方的にサイシャーに想いを寄せるユーディーの気持ちを、いい意味でチープなCGによってカオスに描写している。他にもダンスナンバーの「Tuk Tuk」やバラードの「Manjha」など、隠れた名曲が多い映画である。

 「Middle-Class Love」は、無名の若手俳優たちを主役に起用した学園ラブコメ映画である。ロマンス映画のはずがいつの間にか女性バディー映画になっていたり、愛が男女の愛から家族愛に変換されていたりと、多少の混乱は見られるものの、ユーディーの底抜けに明るいキャラクターが功を奏して終始楽しく分かりやすいストーリーになっている。また、主演の三人の中から明日のスターが生まれる可能性もある。無視できない佳作である。