Judaa Hoke Bhi…

1.5
Judaa Hoke Bhi...
「Judaa Hoke Bhi…」

 ヒンディー語ホラー映画の歴史は実質的にはヴィクラム・バット監督の「Raaz」(2002年)から始まった。エロティックなホラー映画「Raaz」が大ヒットしたことから、初期のヒンディー語ホラー映画はホラーとエロを合わせることが多かった。2022年7月15日公開の「Judaa Hoke Bhi…(離れ離れになっても・・・)」もヴィクラム・バット監督の作品だが、その流れを思わせるエロティックなホラー映画である。

 しかしながら、技術的には冒険をしている。全編、バーチャルプロダクションで撮影が行われているのである。バーチャルプロダクションとは、背景映像と俳優などの実物の被写体を同時に撮影する手法で、ロケ地に移動しての撮影を行わなくて済むため、安価かつスピーディーに映像作品の撮影を行うことができる最新技術である。ウェブドラマ「マンダロリアン」(2019年)で大々的に使用されたことで話題となり、現在急速に普及している。インドにもLEDバーチャルプロダクションスタジオが設立され、早速映画撮影に利用されている。この「Judaa Hoke Bhi…」は、バーチャルプロダクションスタジオを使って撮影された初のインド映画だと思われる。

 キャストは、アクシャイ・オーベローイ、アインドリター・ラーイ、メヘルザーン・マズダー、ルシャード・ラーナー、ジーヤー・ムスタファー、プニート・テージワーニーなど。ほとんど無名の俳優たちばかりだが、アクシャイ・オーベローイだけは俳優ヴィヴェーク・オーベローイの従兄弟であり、「Pizza」(2014年)などの出演歴があるため一定の知名度があるが、人気スターとはいえない。

 ムンバイーに住むアマン・カンナー(アクシャイ・オーベーローイ)はスランプ状態のミュージシャンだった。妻のミーラー(アインドリター・ラーイ)との間に一人息子のラーフルがいたが、4年前に亡くしており、そのトラウマから抜け出せず、アル中になっていた。ミーラーは生活費を稼ぐために編集者の仕事をしていた。二人の間には口論が絶えなくなり、ある日、家を飛び出したアマンが事故に遭って昏睡状態になってしまう。

 アマンは目を覚ますが、ミーラーは入院中でも飲酒を止められないアマンに愛想を尽かし、自伝のゴーストライターをして欲しいとの依頼を受けて、アマンを残したままウッタラーカンド州へ去って行ってしまう。

 ミーラーに仕事を依頼したのは、ビンサルという霧深い村に住む大富豪スィッダールト・ジャイワルダン(メヘルザーン・マズダー)であった。スィッダールトはミステリアスな人物で、ミーラーに呪術を掛け、意のままに扱うようになる。心配したアマンがビンサルまで訪ねてくるが、ミーラーは彼を追い返す。アマンはスィッダールトの屋敷に侵入してミーラーを連れ出すが、ミーラーは急に苦しみ出し入院する。病院でミーラーは暴れ出し、結局スィッダールトの元に戻ってしまう。

 アマンが助けを求めたのは、謎の盲人プローヒト(ルシャード・ラーナー)とその助手ルーヒー(ジーヤー・ムスタファー)であった。プローヒトはアマンにスィッダールトの秘密を明かす。実はスィッダールトは300年間生きていた。300年前、寺院の僧侶をしていたアマンは天然痘に罹り、生き延びるために悪魔と契約を結ぶ。彼は寺院にあった聖なる池の水を汚染し、兄を殺した。また、永遠の命を得るためには、12年に一度、悪魔の血を引く女性と交わる必要があった。ミーラーは悪魔の血を引いており、それ故にスィッダールトは彼女を誘き寄せたのだった。

 アマンはプローヒトから悪魔を倒すための剣を預かる。だが、ルーヒーこそがその悪魔の化身であり、剣を狙っていた。アマンはルーヒーを剣で傷付けるが、彼女を殺すことはできなかった。今にもスィッダールトと交わりそうになっていたミーラーのところへアマンは駆けつけ、スィッダールトを剣で刺す。そして、ミーラーを救い出す。

 ふと目を覚ますと、アマンは病院のベッドの上に寝ていた。ミーラーと喧嘩をして交通事故に遭ったときに時間が戻っていた。アマンは、命は限りがあるから愛おしいことに気付き、ようやくラーフルの死を受け入れることができる。

 ヴィクラム・バットの作るホラー映画は時々ゲテモノ的な面白さがあるが、この「Judaa Hoke Bhi…」にはほとんど取り柄がなかった。映画の冒頭から何か禍々しい雰囲気がたちこめてはいるが、中盤まで物語の方向性が見えず、霧深い風景のようにもやもやした時間帯が続く。悪魔の姿もチープなCGで描画されており、恐怖を感じるより前に脱力してしまう。俳優たちの演技も集中力を欠いている。

 おそらくこの映画は、バーチャルプロダクションスタジオ試用のための習作なのだろう。まずバーチャルプロダクションスタジオありきで作られた映画だと断言してよい。ウッタラーカンド州の風景も出て来るが、全てバーチャル背景であり、現地でロケが行われたシーンはひとつもない。技術的にインド映画の新時代を告げた映画という点では歴史に名を残す可能性がある。

 しかしながら、肝心のバーチャルプロダクションスタジオの映像も、魅力的に感じなかった。新技術の醍醐味は、従来の手法では撮影できないような映像を捉えることにあると思うが、どう見ても「Judaa Hoke Bhi…」の大半の映像は昔ながらの撮影方法でも十分に撮ることができたものだ。しかも、全体的に暗くて、よく見えなかった。もしこれらの映像が安価に撮影でき、ポストプロダクションも楽だというのなら、予算上のメリットもあるだろうが、少なくともこの「Judaa Hoke Bhi…」からは、バーチャルプロダクションスタジオが創造性に貢献しているのを感じ取ることができなかった。

 「Judaa Hoke Bhi…」は、B級映画を次々に送り出すヴィクラム・バット監督の最新ホラー映画である。ただ、内容自体に目新しさは皆無で、かつ楽しさも皆無である。技術的に斬新なのは、全編をインド初のバーチャルプロダクションスタジオで撮影したことだ。まだこの最新設備をうまく使いこなしているわけではなかったが、インドも世界の流行に乗り遅れることなく映像新時代に突入したことを示す映画としてこの作品が今後引き合いに出されることもあるだろう。