Nikamma

2.5
Nikamma

 2022年6月17日公開の「Nikamma」はちょっと古風なマサーラー映画である。テルグ語映画「Middle Class Abbayi」(2017年)のリメイクであり、原作を引きずっているからだと思われる。

 監督はサービル・カーン。「Heropanti」(2014年)や「Munna Michael」(2017年)など、タイガー・シュロフ主演のマサーラー映画を撮ってきたコテコテの娯楽映画監督である。今回は「Mard Ko Dard Nahi Hota」(2019年/邦題:燃えよスーリヤ!!)のアビマンニュ・ダーサーニーを主演に据えた。ヒロインはシャーリー・セーティヤー。YouTuber出身の女優で、「Maska」(2020年)でデビューした。また、1990年代から2000年代にかけて活躍した女優シルパー・シェッティーが出演しているのが特筆すべきである。結婚を機にしばらく出演作がなかったシルパーは、「Hungama 2」(2021年)にてカムバックした。

 他に、サミール・ソーニー、アビマンニュ・スィン、サチン・ケーデーカルなどが出演している。

 題名の「Nikamma」とは、仕事もせずにブラブラしている人という意味で、「怠け者」などと訳せばいいだろう。

 仕事もせずブラブラと過ごしていたアーディ(アビマンニュ・ダーサーニー)は、デリーで敬愛する兄ラマン(サミール・ソーニー)と共に仲良く過ごしていた。だが、2年前にラマンが結婚し、妻アヴニー(シルパー・シェッティー)が家にやって来たことで、ラマンはアーディよりもアヴニーを優先するようになった。面白くないアーディは、パンジャーブ州に住む叔父ナーゲーンドラ(サチン・ケーデーカル)の家に居候するようになった。

 ある日、アーディはラマンに呼ばれデリーへ行く。アヴニーが転勤となり、ウッタル・プラデーシュ州の架空の町ダームリーの交通局(RTO)で働くことになった。アーディはラマンから、アヴニーと共にダームリーへ行くように頼まれた。ラマンは仕事の関係でバンガロールにしばらく滞在しなければならなかったのである。アーディは渋々ダームリーでアヴニーと共に暮らし始める。アヴニーには家事をさせられアーディは困り果てるが、やがて彼女が彼を実の息子のように思っていることを知り、一転してアヴニーを慕うようになる。

 また、アーディはダームリーでナターシャ(シャーリー・セーティヤー)と出会い、恋に落ちる。実は彼女はアヴニーの従姉妹であった。

 ダームリーでは、王族出身でタクシー会社を経営するヴィクラムジート・ビシュト(アビマンニュ・スィン)が次の州議会選挙で州議員になろうとしていた。彼は未登録車両をタクシーにしたり、公共バスを排斥しようとしたりしていた。アヴニーはヴィクラムジートと対立する。アーディはアヴニーを助けるため、ヴィクラムジートとの戦いに介入する。ヴィクラムジートはアヴニーを殺そうとするが、アーディが6日間守り抜けば、何もしないと約束する。アーディは6日間、アヴニーを守ろうとする。

 アーディはアヴニーを結婚記念日を口実にバンガロールへ送ろうとするが、ラマンの方がダームリーに来てしまう。6日目、家からアヴニーがいなくなったことで、アーディはヴィクラムジートの家に押しかけるが、彼もアヴニーがどこにいるか分からなかった。そこへやって来たのが、警察官僚(IPS)の装いをしたアヴニーであった。実はアヴニーは、ヴィクラムジートを逮捕するためにRTOの局員としてダームリーに赴任したのだった。

 しかし、ヴィクラムジートはラマンを誘拐し、どこかに隠していた。ヴィクラムジートは自分で自分の頭を撃ち、昏睡状態となる。アーディとアヴニーは町中を探し回り、ようやくラマンを見つける。

 それなりに興味深い点はいくつかあったが、南インド映画の安易なリメイクであり、支離滅裂な部分が散見された。おそらく原作ではもっときちんとまとめているはずである。興行的に大失敗しているが、市場の評価は正しい。

 まず興味深かったのは、アーディとアヴニーの関係である。二人の関係は、インドにおいていわゆる「バービー・デーヴァル」と呼ばれるもので、つまりは「兄の嫁と夫の弟」の関係だ。バービー(兄嫁)にとってデーヴァル(夫の弟)は可愛い存在であり、何かと近い関係になることが多い。時にはそれが性的な関係に発展することもあるとされている。それ故にインド人男性は、血のつながっていない義姉であるバービーに対して異常な性的ファンタジーを抱いているのである。そこまでは極端だとしても、一般的に「バービー・デーヴァル」の関係は良好である。

 それに対し「Nikamma」において、アーディはアヴニーに対し敵対心を燃やしていた。それは、敬愛する兄を取られてしまったことからくる嫉妬に近い感情であった。しかしながら、映画の中盤でアヴニーの愛情を感じ取り、一転して彼女を母親と同様の存在として扱うようになる。インド映画らしい極端な展開だ。

 もうひとつ興味深かったのは、アーディが「映像記憶」と呼ばれる特殊能力を持っていたことである。彼は目にしたものを後から録画を再生するように思い出すことができた。その能力は映画の中で何度か活かされるのだが、映画の主軸にはなっておらず、中途半端であった。

 さらに、ヒロインのナターシャが出会った途端にアーディにプロポーズをするという展開も度肝を抜かれた。実はアヴニーの従姉妹で、彼女の結婚式で一目惚れしていたという背景は後に説明されていたが、それでもかなり攻めた出会いのシーンであった。

 悪役であるヴィクラムジートは、「Super」と呼ばれるタクシー会社を経営しており、その利益を最大化するために、人々から公共交通機関を奪おうと画策していた。これは「Uber」をもじったものであろう。アヴニーが赴任したRTOは、自動車免許や車両登録などの業務を行う部署である。警察とは別の組織になる。アヴニーはRTO局員として、違法なタクシー会社運営をしている疑いのあるヴィクラムジートを調査し始める。

 映画の最大の売りは、アーディがアヴニーを6日間守り抜こうとする後半であろう。怠け者の割にはめっぽう喧嘩に強いアーディは、ほぼ一人でヴィクラムジートの手下たちに立ち向かう。血で血を洗う死闘が繰り広げられればアクション映画としてはっきりしたかもしれないが、「Nikamma」はライトなコメディータッチで切り抜けるところがあり、悪漢たちは意外にあっけなく退散させられる。そして6日間はほとんど絶望的な危機を迎えることなく過ぎ去っていく。肩透かしな部分である。

 一応の主演はアーディを演じたアビマンニュ・ダーサーニーであったが、ラスト直前においしいところをかっさらっていくのはシルパー・シェッティーだ。実は単なるRTO局員ではなく、泣く子も黙る警察官僚だったことが分かり、颯爽とヴィクラムジートの前に登場する。女性警察官寮といえば自立したキャリアウーマンの代表であり、かつてのスター女優だったシルパーが演じる意義がある。彼女に比べたら、夫のラマンは非常に情けない役であった。2010年代からの傾向であるが、女性の力が強くなったことをひしひしと感じる。

 しかしながら、いろいろなことが解決されていない映画でもあった。アーディはきちんと働き出したのか、ナターシャとの結婚を許してもらえたのか、昏睡状態に陥ったヴィクラムジートはどうなったのかなどである。また、アヴニーが警察官僚であることを義弟のアーディが知らなかったというのはいくら何でも非現実的すぎる。詰めの甘い映画であった。

 アビマンニュ・ダーサーニーは「Mard Ko Dard Nahin Hota」で見せたマーシャルアーツを今回も披露していた。まだいい作品に恵まれていないが、次世代のスターになる可能性を秘めた俳優である。

 ヒロインのシャーリー・セーティヤーは、今まであまりいなかったタイプの女優だ。YouTuber出身というのも現代的だし、彼女の容姿も美人系というよりキュート系だ。彼女が受けるならば、インド人観客の趣向がまた変わったといえるかもしれない。

 「Nikamma」は、テルグ語映画の安易なヒンディー語リメイクである。原作は未見だが、おそらくオリジナルの劣化コピーであろう。至る所に詰めの甘さを感じる映画だった。シルパー・シェッティーが主役級の役柄で出演していたことや、YouTuber出身のシャーリー・セーティヤーが出演していたことなど、いくつかの話題は提供しているが、格別に観る価値のある映画ではない。