Bachchhan Paandey

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Bachchhan Paandey
「Bachchhan Paandey」

 2022年3月18日公開の「Bachchhan Paandey」は、タミル語映画「Jigarthanda」(2014年)のヒンディー語リメイクである。「Jigarthanda」のリメイクは、カンナダ語映画「Jigarthanda」(2016年)、テルグ語映画「Gaddalakonda Ganesh」(2019年)でもされており、これが4作目となる。また、「Jigarthanda」自身が韓国映画「A Dirty Carnival」(2006年)のリメイクとされている。

 プロデューサーはサージド・ナーディヤードワーラー、監督は「Housefull 4」(2019年)のファルハード・サームジー。主演はアクシャイ・クマール、ヒロインはクリティ・サノンとジャクリーン・フェルナンデス。他に、アルシャド・ワールスィー、パンカジ・トリパーティー、プラティーク・バッバル、サンジャイ・ミシュラー、アビマンニュ・スィン、モーハン・アーガーシェー、スィーマー・ビシュワースなどが出演している。また、サージド・ナーディヤードワーラーが特別出演している。

 駆け出しの映画監督マーイラー・デーヴェーカル(クリティ・サノン)は、ウッタル・プラデーシュ州のギャングスター、バッチャン・パーンデーイ(アクシャイ・クマール)の映画を作ろうと、彼の支配するバーグワーに降り立つ。現地では友人のヴィシュ(アルシャド・ワールスィー)と合流し、バッチャンの情報を集め始める。

 マーイラーとヴィシュは、バッチャンの子分の一人、ヴァージン(プラティーク・バッバル)に接近し、彼の携帯電話に盗聴マイクを仕掛ける。だが、ヴァージンはライバルギャングと密通しており、バッチャンに殺されてしまう。その際、バッチャンは盗聴マイクを見つけ、誰かに盗聴されていることに気付く。マーイラーとヴィシュはすぐに逃げ出そうとするが、バッチャンたちに捕まってしまう。

 ところが、マーイラーがバッチャンの映画を撮ろうとしていると知ると、彼らは一転して乗り気になる。そこで、マーイラーはバッチャンにインタビューし、彼に同行し始める。バッチャンが、自分が主演をすると言い出したため、グジャラート州から演技指導者バーヴェーシュ・ボープロー(パンカジ・トリパーティー)を呼び、ギャングたちに演技指導をする。

 バッチャンの映画「B.P.」が完成し、プレミア上映が行われる。ところが、バッチャンが期待したようなギャング映画ではなく、コメディー映画になっていた。映画は大ヒットするが、怒ったバッチャンはマーイラーを殺そうと探す。しかし、この映画でバッチャンは大人気になり、人々から愛されるようになる。それを知ったバッチャンは考え直し、マーイラーに感謝して、映画俳優としての道を歩み始める。

 前半は、映画監督の卵マーイラーが、ウッタル・プラデーシュ州で暗躍する、泣く子も黙るギャングスターの映画を撮ろうと奮闘する様子が描かれる。バッチャン・パーンデーイは地元の人々から恐れられており、また、多くのライバルギャングから命を狙われる存在だった。そんなバッチャンの素顔に迫ろうと、マーイラーはバッチャンの周辺人物に接触したり、盗聴マイクを仕掛けたりする。なかなかスリルのある展開である。

 後半になると一転して、バッチャンがマーイラーの映画作りに協力することになり、演技ができないバッチャンに演技をさせようとあの手この手を尽くすドタバタ劇になる。コミックロールを演じさせたら右に出る者のいないパンカジ・トリパーティーが演技指導者を演じ、バッチャンを教えるのだが、彼はバッチャンが本物のギャングスターだとは露知らずである。

 映画の雰囲気がガラリと変わることを是とするか非とするかで映画の評価が分かれるだろうが、個人的には好意的に受け止められなかった。いかにも南インド映画らしい古風なマサーラー映画の作りで、そういう映画が好きな層もいるだろうが、その先に向かって進化しているヒンディー語映画が敢えて過去に戻る必要性を感じない。

 ストーリー上で気になったのは、「B.P.」が完成してからの流れだ。マーイラーはなぜかバッチャンの映画をコメディー映画にしてしまう。しかも、自分がしたことのまずさを自覚していない。バッチャンの怖さを間近で見た割にはあまりに呑気である。その映画が大ヒットしたことで、バッチャンは母親や周囲の人々から褒められるようになり、恐怖で支配する生き方を考え直すきっかけになると同時にマーイラーのした行為を許すのだが、あまりにお気楽かつ予定調和的で残念だった。

 それでも、クリティ・サノンは好演していたし、アクシャイ・クマールも安定していた。パンカジ・トリパーティーは絶賛に値するし、バッチャンの手下を演じたサンジャイ・ミシュラーやアビマンニュ・スィンなども良かった。プラティーク・バッバルも、意外にプライドを捨てた演技のできる俳優で、前半のみの出演ではあるが、印象を残していた。バッチャンの昔の恋人ソフィーを演じたジャクリーン・フェルナンデスの出演はサプライズだった。

 「Bachchhan Paandey」は、サージド・ナーディヤードワーラーとアクシャイ・クマールの最新作だ。彼らは今まで「Mujhse Shaadi Karogi」(2004年)や「Housefull」(2010年)など多くのヒット作を生み出してきたが、残念ながらこの作品はフロップに終わってしまった。タミル語の大ヒット映画のリメイクだが、ヒンディー語映画にふさわしい洗練がなされていなかったように感じた。無理して観る必要はない映画である。