Turtle

3.5
Turtle

 気候変動が世界的な話題となる中で、水不足問題を巡る映画がヒンディー語映画界で作られるようになっている。「エリザベス」(1998年)などで知られるシェーカル・カプール監督は「Paani」という水不足問題を取り上げた映画の製作を発表し注目を集めていたが、結局お蔵入りしてしまったようだ。だが、「Jal」(2014年)や「Kaun Kitney Paani Mein」(2015年)など、他の監督が水を巡る争いを描いた映画を作っており、意識の高まりを感じる。

 2018年7月2日にジャーグラン映画祭でプレミア上映され、インドでは2021年12月31日からZee5で配信開始された「Turtle」も、干魃にあえぐラージャスターン州の農村を舞台にした映画である。「Turtle」とは「亀」という意味で、副題の「कछुआカチュワー」もヒンディー語の「亀」という単語だ。民話によると、亀は地面を掘って地下水を掘り当てるといわれている。

 監督は新人のディネーシュ・S・ヤーダヴ。主演はサンジャイ・ミシュラー。他に、ヤシュ・ラージャスターニー(子役)、ゾーヤー・シャー(子役)、アモール・デーシュムク、アンキト・アニル・シャルマー、モニカ・シャルマーなどが出演している。また、映画中には鼻で笛を吹く老人が登場するが、彼はラームナート・チャウダリーという有名な民謡ミュージシャンである。

 ラージャスターン州のとある農村では、過去8年間干魃が続いており、周辺の川や井戸が干上がってしまっていた。水が残っている唯一の井戸は、隣村のシャンブー(アモール・デーシュムク)の持ち物で、有料であった。ラームカラン・チャウダリー(サンジャイ・ミシュラー)の孫アショーク(ヤシュ・ラージャスターニー)が生まれた途端に干魃となったので、アショークは「アカーリー(干魃を引き起こす者)」と厄介者扱いされていた。

 それを見かねたラームカランは、祖先が家の庭に埋めた金を掘り出して、それを資金源にして井戸を掘ると宣言する。村人たちは大喜びし、お祭り騒ぎの中、庭の掘削が行われるが、一向に金は出て来なかった。屈辱を受けたラームカランは自殺しようとするが、息子のハリ(アンキト・アニル・シャルマー)が止める。

 また、この騒ぎの中、アショークとリーナー(ゾーヤー・シャー)が幼児婚をすることになった。

 村の呪術師は、誰かが「Aham Dhanasmi(私は金だ)」というマントラを唱えながら3日間地中に埋まれば、金が出て来ると言う。それを信じたリーナーは自分が地中に入ろうとする。ラームカランはリーナーを助けようとするが、それを見たシャンブーらが、ラームカランがリーナーを埋めたと主張し、パンチャーヤト(村落議会)が開かれることになる。そこで20万ルピーの罰金と村からの追放が決まる。

 砂漠の国ラージャスターン州で、干魃に見舞われた村の中で水を巡って人間たちの争いが起きる様子を追った物語であった。映画で取り上げられていたのは限られた地域での出来事であったが、映画の最後では、水を巡るこの争いがいずれ国中に広がり、そして世界中に広がり、世界大戦の引き金となる可能性が指摘されていた。

 ただ、映画のメインストーリー部分では、干魃の原因は気候変動や環境破壊に起因するとは一言も語られていなかった。村人たちは、干魃が始まった年に生まれたアショークを「アカーリー」と呼んで、彼を元凶としていた。言わば迷信である。その年に生まれたのはアショークだけではないと思うのだが、なぜアショークだけがそう呼ばれてしまっているかの詳しい説明もなかった。

 また、呪術師(ターントリク)の役割も注目すべきである。呪術師は、ラームカランが庭を掘る前は、金が出て来ると予言し、金が出て来ないと、今度はマントラを唱えることで金が返って来ると言い出す。そして、ラームカランにリーナーを地中に埋めた濡れ衣が着せられると、女神が怒っていると吹聴し、女神の寺院を建てなければ祟りがあると村人たちを脅す。しかも、その寺院の世話人に自分が居座るつもりであった。一連の事件の中で、いい加減なことを言い触らしていた呪術師が得をすることになったのであった。

 よって、「Turtle」の物語からより強く感じられるのは、実際は迷信に対する批判と、人々を脅して利益を得ようとするまがい物の宗教指導者に対する警鐘なのだが、より有意義な映画に仕上げるために、結末で世界中で飲料水が不足しつつある現状を取り上げているように感じた。

 また、幼児婚が何の批判もなくストーリーに織り込まれていたのも注目すべきである。アショークは8歳ぐらいの設定だと思うが、その年齢でリーナーという少女との結婚が決まった。しかもそれを言い出したのは、リーナーの父親で、役人をしている人物であった。

 インドでは、まだ幼い内に結婚をさせてしまう幼児婚が横行しており、それを防ぐために、結婚できる法定最低年齢を、男性が21歳、女性が18歳と、高めに設定している。だが、自身が幼児婚をした世代がまだ存在しており、それを悪いことと考えていない節もあるため、完全な撲滅には至っていないと思われる。「Turtle」がいつの時代の話なのか明示はなかったが、「Sholay」(1975年)の台詞が引用されていたことなどから考えて、少なくともそれ以降の時代であることは分かる。その中で、幼児婚がサラリと描写されていたのは、幼児婚を支持していると指摘されても仕方がないだろう。一応、それを防ぐために、冒頭の注意書きで幼児婚反対の立場を表明していたが、物語自体からはそういう主張は全く感じなかった。

 ただ、アショークとリーナーは、結婚しても、夫婦生活をしていたわけではない。ラームカランが井戸を作って村に水をもたらした暁にリーナーはアショークに嫁入りすることになっていた。また、アショークとリーナーは、何だか分からないなりに、お互いに絆を感じるようになり、大人たちを助けるために行動を起こすという流れになっていた。

 主演のサンジャイ・ミシュラーは高い演技力を持つベテラン俳優だが、メインストリームの映画では、道化役や脇役として、ファンキーなお爺さん役を演じさせられることが多い。「Turtle」では主演としてしっかり映画を背負う演技をしていた。

 ラージャスターン州の実際の村で撮影が行われていた。背景となる景色は砂埃が飛び出してきそうなほどリアルであったし、村人たちの衣装もカラフルで美しかった。村人たちの多くは実際の村人なのではないかと感じた。また、鼻で笛を演奏するラームナート・チャウダリーは何も語らず常に笛を吹き続けるだけのだが、その単調でノスタルジックなメロディーは、幻想的かつ昔話的な雰囲気を醸し出すのに大いに貢献していた。

 「Turtle」は、干魃に見舞われ、迷信に毒されたラージャスターン州の農村を舞台に、干魃の原因「アカーリー」とされた少年の祖父が汚名を返上し村に水をもたらすために奮闘する物語である、結末では取って付けたように世界の飲料水不足にまで話が広げられているが、中心となるのは村レベルの水を巡る争いである。サンジャイ・ミシュラーの圧倒的な演技が大きな見所である。