サアーダト・ハサン・マントー

 サアーダト・ハサン・マントー(Saadat Hasan Manto)はウルドゥー語の著名な作家である。1912年に英領インドのパンジャーブ州で生まれ、1947年の印パ分離独立を経験し、1948年にパーキスターンに移住して、1955年に没した。一般的にはパーキスターン人とされているが、分離独立前に生まれた人なのでインドとも関わりは深く、彼の作品はインドでも人気がある。特に短編小説が得意な作家だった。

 また、マントーはボンベイやラホールで映画の脚本などを書いていた時期もあり、映画界とも関係がある。特に1940年代にトップスターの座にあったアショーク・クマールとは親友であった。他に、新聞や雑誌の編集に関わったり、ラジオの台本を書いたりして生計を立てていた。

 マントーの作品は、社会の暗部を赤裸々に描き出す筆致に特徴がある。特に彼は印パ分離独立に反対の声を上げ続けており、当時の混乱や人間性の欠如を執拗に小説にした。そして時に彼は、猥褻とも取れる主題や表現にも果敢に挑戦したため、大いに物議を醸した。暴漢に集団強姦され、「開け」と言われれば自発的にズボンの紐をほどくようになった憐れな女性の物語「Khol Do(開け)」や、金品と共に強奪した女性の遺体を死姦する物語「Thanda Ghosht(冷たい肉)」は、彼の代表作である。以下は彼の言葉である。

もしあなたがこれらの物語を我慢できないならば、この社会が我慢できないものになっているということだ。既に裸になっているこの社会から衣服を剥ぎ取ることはできない。私はそれを覆おうとも思っていない。なぜなら、それは私の仕事ではなく、仕立屋の仕事だからだ。

 パーキスターンがイスラーム化される中で彼のその作風は槍玉に挙がるようになり、裁判にもなった。マントーは自由に作品を書けなくなり、アルコール漬けになって、失意の内に亡くなった。

 2010年代後半には、インドにおいてマントーの再評価が進み、マントーに関連した映画が立て続けに3本作られた。

 「Mantostaan」(2017年)は、マントーの短編小説4作品、「Khol Do」、「Thanda Ghosht」、「Assignment(言いつけ)」、「Aaskhri Salute(最後の敬礼)」を1つの物語にまとめた作品である。ラグビール・ヤーダヴやヴィーレーンドラ・サクセーナーなどが主演している。

 「Toba Tek Singh」(2018年)は、マントーの代表作のひとつ、「Toba Tek Singh」を原作にした映画だ。ケータン・メヘターが監督、パンカジ・カプールが主演している。一部、「Khol Do」のエピソードも含まれている。

 だが、マントーの映画としてもっとも評価が高いのは、ナンディター・ダース監督の「Manto」(2018年)である。ナワーズッディーン・スィッディーキーがマントー役を演じている。マントーの伝記映画であると同時に、彼の短編小説5作品、「Khol Do」、「Thanda Ghosht」、「Toba Tek Singh」、「10 Rupaya(10ルピー)」、「100 Watt Bulb(100ワットの電球)」が巧みにストーリーに織り込まれており、非常に完成度の高い映画に仕上がっている。

 これらの作品を観ることで、サアーダト・ハサン・マントーの世界に簡単に入り込むことができるだろう。