言語によって、大きな数を表す数字の区切り方が異なるのは面白い現象である。
例えば日本語では、以下のように区切っている。万を超えるとゼロが4つずつ増えていく。
一 1 十 10 百 100 千 1000 万 10000 億 100000000 兆 1000000000000 京 10000000000000000
英語では、千を超えるとゼロが3つずつ増えていく。
one 1 ten 10 hundred 100 thousand 1000 million 1000000 Billion 1000000000 trillion 1000000000000
では、ヒンディー語ではどうかと言うと、日本語とも英語とも異なっている。千を超えるとゼロが2つずつ増えていくのである。
एक (Ek) 1 दस (Dus) 10 सौ (Sau) 100 हज़ार (Hazaar) 1000 लाख (Lakh/Lac) 100000 करोड़ (Karod/Crore) 10000000 अरब (Arab) 1000000000 खरब (Kharab) 100000000000
この中で、日常においてよく使われるのが「लाख」と「करोड़」だ。それぞれ、「10万」と「1,000万」を意味する。どちらも、金額や人口などを表す際に多用される。アルファベットで綴ると「Lakh」と「Karod」なのだが、「Lac」、「Crore」という英語的な綴りも流通している。「L」、「lc」、「C」、「cr」などと略して書かれることもある。
俗語になるが、「10万ルピー」を「पेटी」、「1,000万ルピー」を「खोखा」ともいう。 「पेटी」 とはスーツケース、 「खोखा」 とは箱のことだ。それだけの金額の現金が入った入れ物の大きさに由来すると考えていいだろう。アンダーワールドでよく使われる言葉である。
「लाख」と聞いて思い出すのが、2008年にインドの自動車会社ターター・モーターズが販売したNanoという自動車である。10万ルピー、当時の為替相場で換算するとおよそ20万円という、世界最安値の自動車として、大々的に売り出された。このとき、その驚異的な値段もさることながら、「लाख」という、インドにおいてはキリがよく響きのいい数字が、人々の琴線に余計触れることとなった。ちなみに、Nanoはその後問題が相次ぎ、2018年には絶版となっている。

インドは人口14億人に迫る国である。その人口を表現する際には、「10億」という意味の「अरब」よりも、「1,000万」という意味の「करोड़」の方が多用される。「एक सौ चारीस करोड़」、つまり、「1, 100, 40, 1,000万」、「140×1000万=14億」といった具合である。もしかしたら「अरब」の方はアラブ地方の「アラブ」と混同しやすいために避けられているのかもしれない。
インド映画界では、2010年前後から、映画のヒットの基準が10億ルピーとなった。10億ルピーを超える国内興行収入を上げた作品がヒット作とされるようになったのである。ここでも「10億」を表すために「अरब」があるのだが、「सौ करोड़」という言い方の方が好まれた。そして、10億ルピー以上の興行収入を上げた作品群は「100 Crore Club」と呼ばれた。ちなみに、初めて興行収入が10億ルピーを超えた作品は、アーミル・カーン主演の「Ghajini」(2008年)である。
歌詞に「लाख」が使われた楽曲としては、「Talaash」(2012年)の「Laakh Duniya Kahe」を挙げたい。
लाख दुनिया कहे “तुम नहीं हो”
तुम यहीं हो, तुम यहीं हो
十万回、「君はいない」と世が言おうと
君はここにいる、君はここにいる
「करोड़」の例としては、「Laal Rang」(2016年)の「Kharch Karod」を挙げておく。
तेरे पे मैं कर दूँ खर्च करोड़
俺はお前に1千万ルピー費やしてやるぜ
ちなみに、インドでは大きな数字にコンマを打つときに、英語の習慣に従って「10,000,000」のように3桁刻みで打たれることもあるが、インドの習慣に従って「10,00,00,000」のように千の位以降は2桁刻みで打たれることもある。「लाख」や「करोड़」の区切りの方に合わせてあるのだ。この独特の習慣に商機を見出したカシオ計算機は、インドでインド式のコンマの打ち方をする電卓を発売し、大ヒットさせた。だが、事情を知らない人がインドでこのコンマの打ち方を見たら、戸惑ってしまうことだろう。
