Eeb Allay Ooo!

3.0

 デリーはインドの首都であるが、都会の割には緑が多く、特にルティヤンス・デリーと呼ばれるデリーの中心部には、森の底に邸宅が並んで沈んでいるかのような閑静な高級住宅街が広がっている。元々は森林地帯を切り拓いて造られた都市であり、猿が多く出没する。ヒンドゥー教の神様にハヌマーンという猿の神様がいることもあって、お布施だと思って猿に餌を与える人間がいることが、猿の増加を助長しているようだ。しかも、猿が人を襲うケースが後を絶たないため、デリーの行政は対策に頭を悩ませている。

 インドで猿害と言った場合、その犯人は大抵アカゲザルである。南アジアに広く分布しており、群れで行動し、悪戯好きで知られる。そのアカゲザルが苦手とするのがラングールという種類の猿である。デリーでは、アカゲザル対策としてラングールが投入されたこともあった。だが、猿を追い払うことを生業とする仕事がインドにはあるようである。

 2019年に平遥国際映画祭でプレミア上映され、インドでは2020年12月18日に公開された「Eeb Allay Ooo!」は、デリーで「猿追い」の仕事をする若者の物語である。監督は新人のプラティーク・ヴァッツ。キャストは、シャルドゥル・バールドワージ、マヒンダル・ナート、ヌータン・スィナー、シャシ・ブーシャン、ニティーン・ゴーヤル、ナイナー・サリーンなど。アヌラーグ・カシヤプも関わっているようである。

 主人公のアンジャニー(シャルドゥル・バールドワージ)は姉(ヌータン・スィナー)を頼って田舎からデリーに出て来た若者であった。アンジャニーのために姉の夫(シャシ・ブーシャン)が見つけて来たのは、猿を追い払う仕事だった。

 アンジャニーは先輩のマヒンダル(マヒンダル・ナート)から「エーブ、アレー、オー」という猿を追い払う掛け声を教えてもらう。だが、アンジャニーがいくら猿に掛け声を掛けても猿はびくともしないばかりか威嚇を仕掛けて来た。アンジャニーは自信を失い、仕事を辞めたいと言い出す。

 だが、アンジャニーは他にできる仕事がないので、猿追いの仕事を続ける。彼なりに工夫をして、猿が怖がるラングールの写真を街中に貼ったり、自身がラングールのコスチュームを着て猿を追い払ったりするが、警察に捕まったりボスから怒られたりして、最後には仕事を失ってしまう。

 アンジャニーはマヒンダルの協力を得て、掛け声をマスターして再び仕事を与えてもらおうとするが、マヒンダルが死んでしまい、その道も閉ざされる。最後にアンジャニーは、猿の格好をした多くの人々の中で猿になって踊り狂う。

 インド独特の仕事であろう猿追いの道に新たに入った若者アンジャニーを主人公にして、ドキュメンタリータッチで、ひたすらアカゲザルを追い続ける悲哀に満ちた生活が描き出される。デリーは元々猿の住処だった森林を切り拓いて造られた街であるせいか、そこにいる猿たちはふてぶてしく、我が物顔でうろつき回っている。そんな猿たちを、つい最近デリーにやって来た田舎者の若者が簡単に追い払えるはずがない。題名の「Eeb Allay Ooo」とは、猿追いのマスターが使っている、アカゲザルを追い払うための掛け声であるが、一朝一夕に猿に通用するような声が出せるはずもない。次第にアンジャニーは仕事に嫌気が指していく。

 だが、アンジャニーは決して敗北を簡単に認めなかった。彼はいろいろ工夫することを知っていた。まずは、アカゲザルが苦手とするラングールの写真を使って撃退することを試みる。だが、上司からは仕事をさぼっていると思われ叱られる。次に彼が試したのは、ラングールのコスプレをすることだ。ラングールの姿をした男が突然、観光名所であるインド門に現れたため、人々から大人気となるが、警察に不審人物として逮捕され、上司にも見つかって仕事をクビになる。この辺りは悲哀にあふれながらも微笑ましい展開だった。

 物語の途中では、共和国記念日パレードのシーンが差し挟まれる。1月26日はインド憲法が施行されたことを祝う共和国記念日であり、国民の祝日となっている。この日、首都デリーでは、軍隊や各州タブローのパレードが行われ華やぐのだが、セキュリティーも一気に厳しくなる。猿追いをするアンジャニーとしては、外国からの来賓も多数参列するこの共和国記念日パレードに猿を寄せ付けないため、重要な任務があった。国家の威信をかけてアンジャニーは猿に目を光らせる。

 物語はあまり希望のある終わり方をしない。アンジャニーは職を失い、次の仕事を求めてデリーを彷徨うものの、うまくいかない。姉の夫も、警備員の仕事をしていたが、銃を携行させられるようになってから前のように仕事ができなくなってしまう。そして内職をしていた姉も納期に間に合わせることができず、トラブルに巻き込まれる。こうして、八方塞がりとなったアンジャニーは、たまたま遭遇したお祭りのパレードで、猿の格好をした人々が踊るのを見て、彼も踊りの輪に加わって踊り狂う。解釈はいろいろできるだろう。猿を追う仕事をしていた人間が、猿の真似をしている内に猿以下の存在になってしまうこの世の皮肉を感じ取ることができるのではなかろうか。

 「Eeb Allay Ooo」は、デリーで悪名高いアカゲザルを追う仕事をする若者をドキュメンタリータッチで追った作品である。まずは猿を追う仕事があるということに驚きであろうし、デリーを我が物顔で闊歩する猿たちのふてぶてしい表情や仕草をよく捉えていてユニークである。下流層に属する人々の日常生活も垣間見ることができる。デリーの一定の時間と空間を切り取ってそのまま映画にしたようなリアル志向の作品であった。