Forbidden Love

3.5
Forbidden Love
「Forbidden Love」

 「Forbidden Love」は、厳密にいえば映画ではなくウェブドラマに分類される。全4話構成で、第1話は2020年9月1日に、それ以外は9月25日に配信開始された。それぞれのエピソードは40分ほどであり、異なる映画監督が撮っている。ストーリーも独立している。4本の短編映画で構成されたオムニバス映画と捉えることも可能であり、ここで取り上げることにした。

 題名は「禁じられた愛」という意味だが、全4話に共通するのは、女性が中心的な物語になっていること、そして何らかの形で不倫が描かれていることである。

Arranged Marriage

 監督は「Parineeta」(2005年)のプラディープ・サルカール。キャストは、アリー・ファザル、パトラレーカー・ポール、オームカル・カプール、ドリティマーン・チャタルジーなど。

 舞台は西ベンガル州コルカタ。ニール(オームカル・カプール)は母親から早く結婚するように催促されていた。彼はずっと断り続けていたのだがとうとう断れなくない、母親の決めた相手キヤー(パトラレーカー・ポール)とアレンジド・マリッジをすることになる。キヤーはなんと親友デーヴ(アリー・ファザル)の従兄妹だった。

 ただ、ニールはとある秘密を抱えていた。実はニールとデーヴは同性愛者で、恋人同士だったのである。ニールは結婚後も決してキヤーとセックスをしようとしなかった。耐えかねたキヤーは過激な性科学者ハロルド・フェルナンデス(ドリティマーン・チャタルジー)に相談に行く。ハロルドは、ニールが彼女の身体を求めてこない理由を、不能か同性愛だと伝える。彼は同性愛を病気だと断定しており、電気ショックを与えて直す治療法を提唱していた。

 キヤーは、ムンバイー出張に出掛けたニールを尾行し、彼がデーヴと同性愛関係にあることを突き止める。ハロルドはキヤーにニールを自宅に連れてこさせ、彼に電気ショックを与えようとするが、キヤーの動きを察知したデーヴがそれを止めようとする。ニールの代わりにキヤーが電気ショックを受け、死んでしまう。ハロルドは警察に逮捕される。

 結婚後もなぜか身体を求めてこない夫。その理由を探ると、夫が同性愛者だったことに行き着く。そんなストーリーのLGBTQ映画であった。

 映画の中では同性愛者への赤裸々な差別が描写されている。極めつけは、同性愛を病気だと信じ、電気ショックによる治療を提唱する性科学者ハロルドである。同性愛者に冷たい社会の中で、ニールとデーヴは自分たちの性的指向や関係をひた隠しにして生きてきた。

 デーヴの家族については不明だが、ニールには家族がいた。多くの同性愛者と同様にニールは家族に自分が同性愛者であることを打ち明けられていなかった。母親に結婚を催促され、渋々キヤーと結婚するが、二人に夜の営みはなかった。

 ハロルドに影響されたキヤーは夫の同性愛を治療しようとする。それが裏目に出て、彼女が電気ショックを受け、死んでしまう。また、ハロルドも警察に逮捕されてしまう。明らかにバッドエンディングである。最後に、2018年9月6日にインドでは同性愛が合法化されたことが示され、同性愛理解を啓発する形で終わっている。

 いつの時代の話かは明示がなかったが、おそらく2018年以降のことだろう。同性愛が合法化された後も人々は同性愛に偏見を抱いており、相変わらず同性愛者は肩身の狭い生活を送っていることを示したかったのだと思う。

 ちなみにキヤーは、夫が同性愛者だと気付く前、母親に連れられて売春宿へ行き、夫を誘惑する方法を学ぶ。キヤーは売春婦が客とセックスをする様子を観察する。そのシーンでは女性の乳首が堂々と映し出されていた。インド映画では珍しい。

Anamika

 監督は「Hungama 2」(2021年)などのプリヤダルシャン。プージャー・クマール、アーディティヤ・スィヤール、ハルシュ・チャーヤー、ソーナー・ナーイルなどが出演している。

 題名の「Anamika」とは「名無しの女性」という意味だが、実はインド人女性の一般的な名前でもある。映画の主人公がアナーミカーという名前だ。

 舞台はプドゥチェリー準州。アナーミカー(プージャー・クマール)には夫(ハリシュ・チャーヤー)がいたが満たされていなかった。アナーミカーはカフェで働いていた。アナーミカーはカフェの常連客イシャーン(アーディティヤ・スィヤール)と仲良くなる。彼は電気工学を学ぶ学生だった。アナーミカーはイシャーンと不倫関係に陥る。やがてイシャーンはアナーミカーに、夫を捨てて一緒に逃げようと提案する。

 イシャーンはアナーミカーにスーツケースを預け、後で取りに来るという。アナーミカーはスーツケースをそのままにし、家に戻る。ところがその夜、プドゥチェリー準州では連続爆破テロがあり、彼女の働くカフェでも爆発があった。イシャーンが預けたスーツケースには爆弾が仕掛けられていたのだった。実はイシャーンはテロ組織のリーダーだった。

 プージャー・クマールはインド系米国人であり、1995年のミス・インディアUSAである。アイシュワリヤー・ラーイ似の顔をしており、この映画の撮影時は40歳を越えていたと思われるが、とても若く見える。彼女が演じていたのは、満たされない人妻のアナーミカーであり、彼女が電気工学を学ぶ若者イシャーンと不倫関係に陥るというのがストーリーの導入部である。

 ただ、単なる不倫映画に終わらない。実はイシャーンはインド各地で連続爆破テロを行っているテロリストで、今回はプドゥチェリー準州でも爆弾テロを実行するために来ていたのだった。イシャーンに魅了されていたアナーミカーは知らず知らずの内に彼のテロ計画に加担することになってしまったのだった。

 アナーミカーとイシャーンの出会い、関係の深まり、そして蜜月の時期などがじっくりと描かれているだけに、爆破テロで全てをひっくり返すという最後の劇的な転換には驚かされてしまう。果たしてイシャーンはアナーミカーを本当に連れ出そうとしていたのか、それとも爆弾で殺そうとしていたのかは分からない。意図せずにテロリストになってしまうという展開は、名作「Aamir」(2008年)に通じるものがある。

Rules of the Game

 監督は「Pink」(2016年)のアニルッダ・ロイ・チャウダリー。キャストは、アーハナー・クムラー、チャンダン・ロイ・サンニャール、アニンディター・ボースなど。

 舞台はマハーラーシュトラ州の都市。プリヤー(アーハナー・クムラー)は夫のガウラヴ(チャンダン・ロイ・サンニャール)と結婚していたが、マンネリを感じていた。いつしかプリヤーはゲームに興奮を覚えるようになり、街角で興じられている賭けシェルゲームにも参加するようになっていた。

 ある日、プリヤーは夫に誘拐ごっこを持ちかける。乗り気になったガウラヴは刃物などを買い集め、強盗の振りをしてプリヤーを襲う。

 ところが翌日、ガウラヴは警察に連行される。ガウラヴは何かの間違いだと思ったが、通報したのはプリヤーであった。プリヤーはガウラヴを刑務所送りにしてしまう。

 プリヤーのキャラが立ちすぎていて、彼女の言動をどう解釈するかがこの映画の評価の分かれ目となるだろう。

 退屈な夫とのマンネリ化した結婚生活を紛らわすため、プリヤーはゲームにのめり込んでいく。そして意外なことに才能を発揮していく。賭けるものが大きければ大きいほど彼女は興奮を得ることができた。そんな彼女が最終的に行き着いたゲームは、夫を誘拐犯に仕立て上げ刑務所送りにするというものだった。

 この映画の中で印象的なセリフとしてハイライトされているのが、路上で賭けシェルゲームをする青年が放った言葉だ。プリヤーはシェルゲームで勝ち続け、胴元である彼に大損害を負わせてしまう。とうとう店じまいを始めた彼にプリヤーはいくらか賞金を返そうとするが、彼は受け取らなかった。そのとき彼が言ったのが、「ゲームのルールを破ったら、ゲームが死んでしまう」だった。この言葉に感化されたプリヤーは、夫を誘拐犯に仕立て上げる危険なゲームを行うのである。

Diagnosis of Love

 監督はマヘーシュ・マーンジュレーカル。キャストは、ラーイマー・セーン、ヴァイバヴ・タトワーワーディー、ランヴィジャイ・スィン、マヘーシュ・マーンジュレーカルなどである。

 舞台はプネー。医師のスダー(ラーイマー・セーン)の勤める病院の理事会では、新しい外科医の人選が行われていた。スダーはハルシュ(ヴァイバヴ・タトワーワーディー)の名前を挙げる。ハルシュは妻を殺害した容疑で逮捕されていたが、現在は無罪放免となっていた。難色を示す理事もいたが、ハルシュは採用される。

 早速ハルシュは次々と手術を成功させる。スダーはハルシュと接近するが、スダーの夫ヴァイバヴ(マヘーシュ・マーンジュレーカル)は親友の警察官アーディティヤ(ランヴィジャイ・スィン)に二人を監視させた。とうとうスダーはヴァイバヴに離婚を切り出す。心臓に持病を抱えていたヴァイバヴは発作を起こして倒れてしまい、やがて亡くなってしまう。

 ヴァイバヴの死後、ハルシュは急にスダーと連絡が取れなくなる。アーディティヤに彼女の居場所を聞き、ハルシュはそこへ駆けつける。ところがそこにはスダーとアーディティヤがいた。実は二人は出来ており、スダーのお腹の中には彼の子供もいた。ハルシュはアーディティヤに殺される。

 マヘーシュ・マーンジュレーカルが監督と同時に重要な役で出演もしている。ただ、主演はラーイマー・セーンであり、彼女が演じるのが妖艶な女医スダーである。スダーには随分年上の夫がおり、それをマーンジュレーカル監督自身が演じている。

 最終的に分かるのは、スダーがかなり食わせ物の女だったということだ。よって、彼女が語ることの全てが真実とは限らない。一応、スダーは子供が欲しかったが、夫のヴァイバヴとの間には子供ができず、別の男性を探し求めるようになったという設定になっていた。ハルシュが彼女のターゲットかと思いきや、実はアーディティヤの子供を身籠もっていたという結末になっている。