Ateet

2.5
Ateet
「Ateet」

 2020年4月21日からZee5で配信開始された「Ateet」は、夫が戦死し、再婚した女性の前に死んだはずの元夫が現れるという筋書きのホラー映画である。題名の「アティート」とはヒンディー語で「過去」という意味だが、同時に元夫の名前にもなっている。

 監督は「Dear Dad」(2016年)のタヌジ・ブラマル。キャストはプリヤマニ、ラージーヴ・カンデールワール、サンジャイ・スーリー、ヴィピン・シャルマーなど。

 タミル・ナードゥ州のヒルステーションに住む軍人ヴィシュワ大佐(サンジャイ・スーリー)にはジャーンヴィー(プリヤマニ)という妻とサナーという娘がいた。ジャーンヴィーは元々アティート大尉(ラージーヴ・カンデールワール)と結婚していた。アティート大尉はヴィシュワ大佐と同じ部隊で戦争を戦ったが戦死した。サナーはアティート大尉との間に出来た子供だった。アティート大尉の戦死後、ジャーンヴィーはヴィシュワ大佐と再婚したのだった。アティート大尉が戦死したとき、まだサナーは幼く、彼女はヴィシュワ大佐を実の父だと思っていた。

 あるとき突然アティート大尉が生きていることが分かる。ヴィシュワ大佐は思い悩み、幻覚を見るようになる。しかも彼の片足の先は凍傷になり、体中に傷が出来た。まるで戦争から帰ってきたかのようだった。軍医マスード・クライシー(ヴィピン・シャルマー)はヴィシュワ大佐に強めの薬を処方する。

 ジャーンヴィーは軍病院を訪れ、アティート大尉と会う。アティート大尉はまだ不安定だったが、ジャーンヴィーと出会ったことで徐々に回復し出す。アティート大尉はヴィシュワ大佐の家を訪れるようになり、サナーと会おうとするが、ジャーンヴィーはアティート大尉をサナーから遠ざけようとする。ヴィシュワ大佐の症状はますます酷くなり、誤って上官に発砲してしまう。ヴィシュワ大佐は軍法会議に掛けられ、しばらく休養を言い渡される。とうとうヴィシュワ大佐は発狂して自殺をしてしまう。

 ジャーンヴィーは、ヴィシュワ大佐やアティート大尉と同じ部隊にいて戦死したナヤーブの家を探し、遺族から戦場で何があったかを聞き出す。ナヤーブは死ぬ前に妻に手紙を送っていた。その中で、ヴィシュワ大佐が部隊を裏切り、アティート大尉を殺したことが書かれていた。だが、同時にジャーンヴィーはアティート大尉も幻覚に支配されていることに気付く。

 ジャーンヴィーはアティート大尉を夕食に招く。アティート大尉は、マスードの妻に預けてあったサナーを勝手に連れ出し、彼女の家を訪れる。ジャーンヴィーはアティート大尉の正体が亡霊であることを暴露する。アティート大尉は一度はサナーを奪うが、自分が亡霊であると自覚し、サナーをジャーンヴィーに返す。そして火の中に自ら飛び込む。

 まずは、ヴィシュワ大佐とジャーンヴィー、そして娘のサナーという何の変哲もない三人家族が提示される。だが、この家族は「過去」に何かがあることも暗示される。ヒンディー語で「過去」は「अतीतアティート」というが、正に「アティート」という名前の元夫がジャーンヴィーにいたことがすぐに分かる。サナーはヴィシュワ大佐との間に出来た子供ではなく、アティート大尉との間に出来た子供であった。アティート大尉は戦死したはずだったが、突然生きていることが分かる。

 この導入部は成功している。戦死したはずの元夫が実は生きていた。ジャーンヴィーは再婚してしまっており、元夫と現夫の間で板挟みになる。現夫も元夫が生きていることを知って思い悩むようになる。別にホラー映画に仕立て上げなくても、これだけで面白い映画が作れそうだった。

 だが、「Ateet」はホラー映画に向かってしまう。まず、ヴィシュワ大佐が恐ろしい幻覚を見るようになる。実はヴィシュワ大佐はアティート大尉や他の部下たちを裏切って殺しており、過去に大きな罪を犯していた。アティート大尉の復活は、自らが犯した罪に対する罪悪感や、過去に自分が取った誤った行動がばれてしまうのではないかという焦燥感を生み出すことになったのだ。この辺りはサイコスリラーに近い。

 だが、それに加えて亡霊も登場する。生きていたと思われたアティート大尉は実は亡霊というオチだった。残念なことに「Ateet」は物語が進行するにつれて失敗作と化していく。序盤、元夫と現夫の板挟みという泥沼系人間ドラマの時間帯がもっとも面白いのだが、そこからサイコスリラー的な展開になってバランスが崩れ、最後には単なるお化け映画に成り下がって失敗作確定となる。亡霊を演出するためのCGIも稚拙であった。

 ヴィシュワ大佐やアティート大尉が戦った戦争というのは明示がなかったが1999年のカールギル紛争のことであろうか。アティート大尉が戦死したときサナーはまだ物心が付いておらず、現在のサナーは10歳前後だと見られるため、計算するとこの映画の時代は2000年代中頃だと考えられる。

 主演のプリヤマニは基本的に南インド映画女優だ。たまにヒンディー語映画に出演しており、「Raavan」(2010年)、「Rakht Charitra 2」(2010年)、「Chennai Express」(2013年/邦題:チェンナイ・エクスプレス 愛と勇気のヒーロー参上)などがその例だが、どれも南インドと関連のある映画だ。この「Ateet」に関してもタミル・ナードゥ州が舞台になっていたため、南インド関連の映画に含められる。ヒンディー語も堪能で、ヒンディー語映画に出演しても問題ない。ちなみに、ヴィディヤー・バーランの又従姉妹に当たる。

 サンジャイ・スーリーとラージーヴ・カンデールワールはどちらも半スター半アクターといった似た立ち位置である。演技力はある。だが、花がない。今回もプリヤマニの引き立て役になっていた。

 「Ateet」は、その順調な滑り出しが後から恨めしくなるほど、物語の進行と共に凡庸になっていく残念な作品だ。最終的にはホラー映画になる。できれば亡霊などは出さずに序盤の現実的な設定を発展させて欲しかった。無理して観る必要のない映画である。