2019年11月15日からNetflixで配信開始された「House Arrest」は、引きこもりになった男性が主人公の一風変わった映画である。
監督はサミト・バスとシャシャーンカ・ゴーシュ。バスは小説家でもあり、漫画家でもある多才な人物だ。ゴーシュは「Waisa Bhi Hota Hai Part II」(2003年)や「Veere Di Wedding」(2018年)などを撮ってきた監督である。
キャストは、アリー・ファザル、シュリヤー・ピルガーオンカル、ジム・サルブ、バルカー・スィン、スニール・クマールなど。
舞台はデリー。カラン(アリー・ファザル)は過去9ヶ月間、自宅から一歩も出たことがなかった。家族や友人は彼を心配したが、彼は決して家の外に出ようとしなかった。親友のJD(ジム・サルブ)はカランにジャーナリストのサイラー(シュリヤー・ピルガーオンカル)を紹介する。サイラーは日本の「引きこもり」について記事を書いており、カランに取材をしたがっていた。 また、カランの下の階に住むピンキー(バルカー・スィン)はマフィアの娘で、死体の入ったスーツケースをカランの家に無理矢理置いていく。ランボー(スニール・クマール)という巨漢が彼女のボディーガードについていたため、カランが抵抗できなかった。しかも、スーツケースの中に入っている人物は生きていた。 サイラーがカランの家を訪れ、彼のインタビューをする。カランはスーツケースのことを隠しながら、自分が引きこもりになった経緯を話す。彼はかつて銀行員で、結婚もしていたが、上司に妻を寝取られ、しかも妻に逃げられてしまった。それ以来、人間不信に陥り、家の中に引きこもっていたのだった。サイラーも、今の職場が好きではなく、彼の気持ちに共感した。二人はすぐに惹かれ合う。だが、それを知ったJDは二人の仲を裂こうとする。実はサイラーはかつてJDの恋人だったのである。しかしながら、カランとサイラーは結ばれ、ベッドを共にする。 翌朝、スーツケースの中の男が飛び出てきたため、サイラーは怖がって逃げてしまう。だが、そこへピンキーとランボーが来て、自分たちがカランに無理矢理その男を預けたことを認める。それでもカランは混乱に巻き込まれたことを不快に思い、皆を家から追い出す。サイラーは去って行ってしまう。ピンキーはカランに、もし本当に好きだったら追い掛けるべきだと助言する。カランは思い切って家を出てサイラーを追い掛ける。
樹木が生い茂る公園に面した、いかにも環境のいい家に住むカランは「引きこもり」という設定であり、物語の大半はカランの家で進行する。ヒッチコック監督の「裏窓」(1954年)を思わせる設定で、「Sonata」(2017年)など、舞台劇を映画化した作品にもこの種の映画は多い。下手をすると退屈な映画になってしまいがちなのだが、「House Arrest」は脚本が優れており、常に先の展開が読めず、全く退屈しなかった。家の中に、スーツケースに入った謎の男がいることでスリルをうまく出せていた。
カランの部屋は、インテリアのセンスがよく、ここなら引きこもって生活するのも悪くなさそうだと思ってしまう。野菜などの食品を届けてくれる人がいたり、警備員が何かと世話を焼いてくれたりして、意外に快適そうである。
日本人として興味深かったのは、映画のあちこちに日本のモチーフが登場したことである。サイラーは日本で英語を教えていた経験があるという設定だったし、カランも日本の庭園のことに触れていた。そもそもサイラーがカランを取材しにきたのは、日本で問題になっている「引きこもり」がインドでも起こっているのではないかと考えたからだった。インテリアには、大友克洋監督の「AKIRA」のグッズや黒澤明監督の「隠し砦の三悪人」(1958年/英題:The Hidden Fortress)のポスターが見えた。カランとサイラーがソニーのPlaystation 3で「鉄拳6」や「バーチャテニス」を遊ぶシーンもあった。また、カランとサイラーの会話の中で、伝説的なヒンディー語映画「Sholay」(1975年)に触れられていたが、この作品も元を辿れば黒澤明監督の「七人の侍」(1954年)に行き着く。きっと監督が日本好きなのだろう。漫画家のサミト・バスが怪しい。
カランが電話で会話をすると、電話先の相手がさも立体映像のように部屋の中に投影されるのは面白い効果だった。ひとつの部屋の中で物語を展開するだけだと単調になってしまうので、アクセントとしてこのような演出をしたのだろうか。今まで見たことがない工夫だった。
最後をどういう風にまとめるのか気になりながら観ていたが、引きこもりになって以来、一歩も外に出たことがなかったカランが、去って行くサイラーを追い掛けるために勇気を振り絞って外に出るという締め方で、恋愛でまとめていた。明示はされていなかったが、サイラーをカランの家に送り込んだJDはこうなることを期待していたようである。よって、カランとくっつきそうになったサイラーを止めたのも策略の内だったと解釈することができる。
「House Arrest」は、引きこもりになった男性が主人公のユニークなコメディー映画である。なぜか日本モチーフが多用され、日本人観客にとっては追加で楽しめる作品になっている。これだけ少ないキャストと予算で、これだけ面白い映画を作ることができたのは、監督の手腕によるところが大きい。観て損はない佳作である。