Ghost

3.0
Ghost

 2019年10月18日公開の「Ghost」は、その直球のタイトルからも分かる通り、ホラー映画である。B級映画の雄ヴィクラム・バットが脚本を書き監督を書いている上に、出演もしている。

 主演はサナーヤー・イーラーニー。主にTVドラマ界で活躍してきた女優だが、女優としてのデビューは映画「Fanaa」(2006年)で果たしている。他にシヴァム・バールガヴァ、ヘイゼル・クラウニー、ガーヤトリー・アイヤル、アナンニャー・セーングプターなどが出演している。映画界ではほとんど無名の俳優たちばかりだ。ヴィクラム・バット監督自身が重要な役で出演しており、注目される。

 舞台は英国。バレンタインデーの日、インド系英国人政治家カラン・カンナー(シヴァム・バールガヴァ)の妻バルカー(ガーヤトリー・アイヤル)が惨殺された。カランは殺人の容疑で逮捕される。カランの選挙マネージャー、ボブは、女性弁護士スィムラン・スィン(サナーヤー・イーラーニー)にカランの弁護を依頼する。

 スィムランの両親は彼女の幼少時に離婚しており、その生い立ちの影響で彼女の精神は不安定だった。しかも最近父親を亡くし、同棲していた恋人スィドとも破局しており、私生活は荒れていた。スィムランは当初、カランの弁護を断るものの、考え直し、一転して引き受ける。そしてカランの保釈を勝ち取る。

 カランの語るところでは、バルカーは幽霊に殺されたとのことだった。当然、スィムランはその話を信じないが、彼女も超常現象に遭遇するようになり、信じるようになる。ボブは幽霊の正体を突き止めるが、その直後に殺されてしまう。スィムランは霊能師ニーナー(ヘイゼル・クラウニー)に相談する。カランとバルカーの身に異常が発生し始めたのは、何者かがバルカーにハート型のロケットを届けたときからだった。ニーナーはそのロケットに秘密があると言う。

 カランがバレンタインデーにレイチェルという女性と密会していたことが分かる。その女性は過去2ヶ月半にわたって行方不明であり、ニーナーが言うにはクリスマス頃に殺されていた。女性の遺体が発見され、監視カメラによって、彼女と最後に会ったのがカランであることが分かり、カランは逮捕される。一方、スィムランは、精神病院を経営する精神科医だった父親スィン(ヴィクラム・バット)の患者ソニア(アナンニャー・セーングプター)の霊が全ての超常現象の原因だと察知する。スィンが残した日記から、ソニアのことが分かってくる。

 実はソニアとバルカーはレズビアンで、恋人同士だった。だが、バルカーは金と名声を求めてカランと結婚した。ソニアの存在がカランのキャリアに重荷になり始めると、ボブとバルカーは共謀してソニアを精神病患者だとして精神病院に入院させてしまった。ソニアは自殺し、悪霊となってカラン、バルカー、ボブに復讐を開始したのだった。また、スィンを殺したのもソニアであることが分かる。

 ソニアの霊は、生きている人間や死んだ遺体に憑依することができた。ソニアはレイチェルに憑依してカランを誘惑し、カランに憑依してバルカーを殺していた。

 スィムランはカランの無実を証明するため、憑依の存在を裁判所で証明しようとする。カランの家にあったロケットを死体の上に置き、ニーナーが呪文を唱えると、ソニアの霊が憑依した死体が動き出した。スィムランはその様子をビデオに収める。だが、ソニアの霊はスィムランに襲い掛かる。また、刑務所にいたカランにも霊が襲い掛かる。だが、スィムランがロケットを破壊すると、霊は消え去る。

 憑依の様子が収められたビデオを証拠として提出したことでカランの無実が明らかになり、彼は釈放され、選挙にも勝利する。

 英国を舞台にし、キリスト教的な世界観の上で、生物や死体に憑依する力を持った悪霊が繰り広げる恐怖を描いた、エロティックなテイストのホラー映画であった。

 インドのホラー映画全般に当てはまる欠点なのだが、ホラーシーンが大袈裟な映像と音声に頼ったもので構成されており、しかも論理性に欠いている。ホラーシーンを笑い飛ばすという、インドの映画館にありがちな「コメディーとしてのホラー映画」の楽しみ方なら事足りるが、きちんとしたホラー映画として観た場合はどうしても稚拙に見えてしまう。

 ホラー映画は、殺人事件と同じで、動機が重要になってくる。なぜその幽霊はその人を狙うのか。それを論理的に説明できないと、大人向けのホラー映画とはいえない。その点、「Ghost」で悪霊となって主人公たちに襲い掛かるソニアの動機は一応納得のいくもので、しかも少し変わったものだった。なぜならソニアはレズビアンだったのである。

 近年ではヒンディー語映画においてもLGBTQを意識した映画作りが行われているが、霊界にもLGBTQが浸透しているようである。カランの命が狙われており、幽霊はどうも女性であることが推測されたため、観客は当然のことながら、カランの昔の恋人など、カラン関係の女性が何らかの恨みを持って彼を脅かしていると考える。だが、蓋を開けてみれば、その女性はカランの妻バルカーの「恋人」であった。もし幽霊がカランの昔の恋人だとしたら、カランとスィムランが恋仲になったことで、スィムランの命も危なくなるはずだが、確かに幽霊の行動から、彼女に対する嫉妬心みたいなものは感じられなかった。この辺りのツイストが「Ghost」の最大の見所だといえるだろう。

 また、主人公スィムランもまたトラウマを抱えた女性で、しかも彼女の父親が今回の事件に深く関わっていることも分かる。この点もよく工夫されていたと感じた。

 主演のサナーヤー・イーラーニーは、ヒンディー語映画界での出演作は少ないものの、悪くない演技をしていた。カランを演じたシヴァム・バールガヴァは大根役者であった。ヴィクラム・バットも大した演技をしていたわけではないが、これはご愛敬であろう。

 「Ghost」は、ホラー映画としての見せ方は稚拙であるが、脚本は意外にしっかりしており、ストーリーを楽しめる映画になっている。ヴィクラム・バット監督らしいB級映画だ。この種の映画が壺にはまる人は必ずいるはずである。