Kaalakaandi

3.5

 インド映画というとロマンス映画やアクション映画が主流のように思われるが、実は脚本重視のスリラー映画やブラックコメディー映画にも優れたものが多い。「Delhi Belly」(2011年)もスリラー要素たっぷりのブラックコメディー映画として高い評価を受けた映画だった。

 「Delhi Belly」のアクシャト・ヴァルマー監督の最新作が「Kaalakaandi(黒い事件)」である。2018年1月12日に公開された。キャスティングがとても渋い顔ぶれで、スター要素のあるのはサイフ・アリー・カーンのみだが、他に、クナール・ロイ・カプール、ディーパク・ドーブリヤール、ヴィジャイ・ラーズなどの個性派俳優の名前が見える。また、アクシャイ・オーベローイ、イーシャー・タルワール、ソービター・ドゥリパーラー、シヴァム・パーティール、アマンダ・ロザリオ、シェーナーズ・トレジャリー、アースィフ・バスラー、ナリー・スィン、アマーイラー・ダストゥール、ニール・ブーパーラムなどが出演している。

 ムンバイーのとある雨の一晩の物語で、主に3つのエピソードが同時並行的に進行する。それぞれのエピソードはほぼ独立しているが、所々で接点が生じ、お互いのエピソードに影響を与える構成になっている。

 リリーン(サイフ・アリー・カーン)は、酒も煙草もせず、健康を気遣った生活を送ってきた中年男性だったが、医者から末期の胃がんにあり余命1~3ヶ月と宣告され、ショックを受ける。家では弟アンガド(アクシャイ・オーベローイ)の結婚式の準備が進んでいた。リリーンは友人からLSDをもらって初めて試す。その後、リリーンはアンガドを散髪しに外に連れて出る。アンガドは、昔の恋人セリナ(アマンダ・ロザリオ)に会いに行った。だが、セリナはアンガドを利用しているだけだった。アンガドは、結婚相手のネーハー(アマーイラー・ダストゥール)を裏切ったと感じ、結婚を解消しに彼女に会いに行く。だが、ネーハーと向き合って、あまりに彼女がいい女性だったため、彼女と結婚する決心をする。一方、リリーンはLSDの影響で幻覚を見始める。道端で出会ったヒジュラーのシーラー(ナリー・スィン)を連れ回し、彼女の裸を見る。シーラーを道に下ろし、アンガドと共に結婚式場に戻る。そこで写真家ラーキー(イーシャー・タルワール)と会話をし、彼女に胃がんになったことを明かす。リリーンは踊る群衆の中に入り、銃を宙に向けて放つ。

 レヘマト(ヴィジャイ・ラーズ)とワーリス(ディーパク・ドーブリヤール)は下っ端のマフィアだった。ドンのラザー(アースィフ・バスラー)の下で、現金輸送の仕事をしていた。ラザーの右腕で腕利きのガンマン、オムレツ(ニール・ブーパーラム)から二丁の拳銃をもらったワーリスは有頂天になるが、直後にオムレツはバイクに乗った暗殺者によって殺される。レヘマトとワーリスは、襲撃を受けたと見せ掛けて現金をネコババしようと画策する。ワーリスはレヘマトを撃ち殺し、ラザーのところへ行く。だが、ラザーは全てお見通しだった。それでも命は許されたワーリスは、ムンバイーの海岸に座り込む。そこへ空から弾丸が落ちてきて死んでしまう。

 ターラー(ソービター・ドゥリパーラー)は、恋人ズビーン(クナール・ロイ・カプール)の制止を振り切って、米国に留学しようとしていた。飛行機に乗る前に、二人は友人アーイシャー(シェーナーズ・トレジャリー)の誕生日パーティーに立ち寄る。そこで警察の麻薬取締捜索を受け、パーティー会場は封鎖されてしまう。ターラー、ズビーン、アーイシャー、そしてアーイシャーの恋人ジャハーンギール(シヴァム・パーティール)は警察の目をごまかして逃げ出す。ターラーの運転した自動車は、バイクに乗っていた2人をはねてしまう。目撃者がいなかったため、ズビーンたちはその場から逃げることにする。ターラーは空港まで行くが、罪の意識に苛まれ、飛行機に乗らずにムンバイー市街地に引き返し、警察署に自首する。だが、ターラーがはねたバイクの2人組は、オムレツを殺した暗殺者で、お尋ね者だった。警察は自分の手柄にするためにターラーのひき逃げを不問とした。

 副題には「Every Action Has A Reaction(全ての行動は反応を伴う)」とある。3つのストーリーが示すのは正に因果応報だ。自身の行った行動に従って結果に直面する。特に分かりやすいのはレヘマトとワーリスのエピソードである。ワーリスは、兄貴と慕っていたレヘマトを騙し討ちしてまで、ボスのラザーから預かった多額の現金を我が物にしようとする。だが、ラザーに裏切りがばれてしまい、最後には全く関係ないところから降って来た弾丸に当たって絶命してしまう。信頼を裏切った者には最悪の結果が待っていることが示されていた。

 ターラーのエピソードも分かりやすい。ターラーは自動車でバイクをはねてしまうが、友人たちの助言に従って逃げ出し、そのまま米国に渡ろうとする。だが、空港で彼女は、ゴミ箱から落ちたゴミを拾う人を見て良心の呵責にせき立てられ、飛行機に乗らずに市街地に取って返し、警察に自首する。だが、彼女がはねたのはお尋ね者の殺し屋で、自分の手柄にしたい警察からひき逃げの罪は不問にされた。もちろん、そのまま米国に去って行ってしまっても、このひき逃げ事件はうやむやにされたことだろう。だが、勇気を出して自首したことで、ターラーは一生罪悪感を背負うという罰から解放されたのだった。

 因果応報という観点では一番分かりにくいのが、リリーンのエピソードだ。彼はこれまでの人生、ずっと摂生して暮してきたが、末期の胃がんに罹っていることを知ってしまう。彼は死ぬ前に今までしてこなかったことをしようと決心し、煙草を吸ったり酒を飲んだり、LSDを摂取したりする。しばらくして幻覚症状が出たリリーンは、ヒジュラーと楽しいひとときを過ごし、写真家ラーキーとも語らい合う機会を得る。また、結婚直前で迷いを持っていた弟アンガドは、やはり結婚相手のネーハーと結婚することを決める。その決断の裏には、LSDを飲んで灰になっていたリリーンの言動も影響していたかもしれない。ただ、リリーンのエピソードだけは落ちが付いていなかったように感じた。

 もうひとつ、よく分からなかったのは、なぜワーリスがラザーから許されたか、である。裏切りを察知したラザーはワーリスに銃を突き付けて殺そうとするが、次のシーンではワーリスはムンバイーの街を彷徨っていた。ラザーから許されたのか、それともラザーとその取り巻きに反撃して生き残ったのか、はっきりとは描かれていなかった。

 基本的には、先の見えないストーリーを楽しむ映画であり、そこから深いメッセージ性などを読み取ることはできない。あとは、俳優たちの演技を楽しむ映画である。サイフ・アリー・カーンのサイケデリックな演技も良かったが、特にヴィジャイ・ラーズとディーパク・ドーブリヤールの掛け合いはこの映画の白眉であった。

 サイフ演じるリリーンが道端で出会うヒジュラーを演じていたのはナリー・スィンという俳優である。ナリーは実際にトランスジェンダーの俳優であり、これまでも「Tamasha」(2015年)などでヒジュラー役を演じている。

 「Kaalakaandi」は、「Delhi Belly」で有名になったアクシャト・ヴァルマー監督の最新作である。寡作な監督であり、前作から今作の間に7年の歳月が過ぎてしまった。だが、「Delhi Belly」で見せた、複雑な脚本を分かりやすく語る構成力とブラックユーモアは健在で、先の見えない展開をドキドキしながら見守る体験のできる映画に仕上がっていた。