2017年6月9日公開のヒンディー語映画「The Wishing Tree」は、子供向けのマジカル環境保護映画である。ヒンディー語で「कल्पवृक्ष」という題名も付けられているが、英語の題名と同じで、「願い事を叶える樹」という意味である。
監督はマニカー・シャルマー。ほとんど無名の人物だが、シャールク・カーン主演の「Asoka」(2001年)で助監督をしていたことがある。その縁からか、劇中にもシャールク・カーンの映像が随所に使われている。
キャストは、シャバーナー・アーズミー、マカランド・デーシュパーンデー、ヴラジェーシュ・ヒールジー、サウラブ・シュクラー、ラジト・カプール、シェールナーズ・パテール、ボビー・ダーリン、ハルシュプリート・カプル(子役)、シヴァーニー・ジョーシー(子役)、アーディティヤ・マンガーニー(子役)、マーク・シャー(子役)、アーバース・ヤーダヴ(子役)などである。また、アミターブ・バッチャンがナレーションを務めている。
舞台は架空の村ハリドゥーン。太った女の子ニキター(ハルシュプリート・カウル)は、学校でみんなからからかわれていた。ある日、彼女は森の中で不思議な女性(シャバーナー・アーズミー)と出会い、カルプヴリクシュの秘密を教えてもらう。ニキターがカルプヴリクシュに祈ると、たちまち彼女は人気者となる。 ニキターは、クラスメイトのショーン(マーク・シャー)、ファーティマー(シヴァーニー・ジョーシー)、グリークバル(アーディティヤ・マンガーニー)、そしてシャンカル・ダーダー(サウラブ・シュクラー)の食堂で働くダヌワー(アーバース・ヤーダヴ)にもカルプヴリクシュのことを教える。彼らはそれぞれカルプヴリクシュにお願いをする。おかげで、別居していたショーンの父親が戻ってきたり、ファーティマーが憧れるシャールク・カーンの手術が成功したりする。 密輸業者のサードー(マカランド・デーシュパーンデー)は、カルプヴリクシュを伐り倒してその樹皮を売り払おうとするが、この樹には悪霊が取り憑いていると考える。そして村人たちにこの樹を伐り倒させようとする。しかし、村人たちの前で奇跡が起き、彼らはこの樹を神が宿る樹として信仰するようになる。
子供向けの映画だったが、まるで子供が作ったような映画だった。編集が下手で、話の筋を見失ってしまう場面が多い。要所要所でCGが使われていたが、その質も低かった。そして、「自然を大切にしよう」というエコなメッセージが込められた映画だったのだが、ファンタジーでまとめてしまったため、環境問題が我々の現実に差し迫った問題であるという提示につながっていなかった。とても残念な出来の映画である。
このような駄作にもかかわらず、キャストだけは豪華だ。まず、ヒンディー語映画界のスーパースター、アミターブ・バッチャンがナレーションを務め、これまたスーパースターのシャールク・カーンが、出演はないものの、過去の映像と共に頻繁に引き合いに出される。ベテラン女優のシャバーナー・アーズミーが森の精のような役で出演していたが、彼女は時々変な役も引き受ける傾向にある。ヒンディー語映画初の子供向け映画「Makdee」(2002年)でも森の住む魔女役で出演していた。脇役陣を眺めてみても、個性的な俳優たちばかりだ。
学童期の子供たちが中心の映画だったため、子役のキャスティングも映画の質に直結する。起用されていたのは、ほとんど初出演の子役俳優たちばかりで、演技も学芸会レベルだった。
この映画の一番の難点は、自然保護を訴える映画でありながら、願い事を叶えてくれる樹という空想の産物をストーリーに入れ込んだことだ。子供たちは、自然を守りたいからカルプヴリクシュを守ろうとしたのではなく、それが願い事を叶えてくれる樹だから守ろうとしたのであり、純粋な意味での自然保護ではなかった。一応、映画の最後では、アミターブ・バッチャンのナレーションにより、「全ての樹がカルプヴリクシュなのだ」と説明されて、自然を大切にするように諭されていたが、こじつけのように感じてしまった。
「The Wishing Tree」は、子供たちに自然を守ることの大切さを教える、志の高い映画ではあるが、出来が悪く、ほとんど褒められる要素がない作品で終わってしまっている。キャストだけは豪華だが、それに騙されて観ないようにして欲しい。