Moh Maya Money

3.5
Moh Maya Money
「Moh Maya Money」

 2016年11月25日公開の「Moh Maya Money(欲・幻・金)」は、私欲に走った夫婦が保険金詐欺に手を出し、破滅の道を歩んでいくケイパー映画である。

 監督は新人のムニーシュ・バールドワージ。主演はランヴィール・シャウリーとネーハー・ドゥーピヤー。どちらも渋い演技をする俳優たちだ。他に、デーヴ・チャウハーン、アシュワト・バット、アナント・ラーイナー、ヴィドゥシー・メヘラー、プリヤー・タンダンなどが出演しているが、ほとんど無名の俳優たちばかりだ。

 舞台はデリー。不動産会社に勤めるアマン(ランヴィール・シャウリー)は中産階級の生活を抜け出してリッチになりたいという欲望が強い男性だった。アマンは手っ取り早く家を建てるために会社に黙って不正に不動産の売買をしており、ラグヴィール(デーヴ・チャウハーン)から大金を借りていた。一方、妻のディヴィヤー(ネーハー・ドゥーピヤー)はメディア会社に勤めており、上司のカビール(アフワト・バット)と不倫していた。ある日、ディヴィヤーは妊娠に気付く。

 アマンは不正がばれて会社をクビになり、ラグヴィールから執拗な借金の取り立てを受けるようになる。ディヴィヤーはアマンに黙ってお腹の子供を中絶する。アマンはどうしようもなくなり、自分に掛かっている生命保険を使って借金を返すことを思いつき、ディヴィヤーに協力を申し出る。だが、自分の死を偽装するためには死体が必要だった。アマンは、売れない映画監督ローハン(アナント・ラーイナー)を睡眠薬で眠らせて自分の自動車に乗せて焼き殺す。遺体は黒焦げになってしまって判別不能だったが、ディヴィヤーが識別したことで、アマンは死んだことになった。保険金が下りるまで、アマンは山間部に潜伏する。

 アマンが留守の間、ディヴィヤーはカビールの家に滞在していた。アマンは時々ディヴィヤーに電話を掛けて様子をうかがっていたが、異変に気付き、デリーに出て来る。そこで彼はディヴィヤーの不倫を知り、銃を手に入れて、カビールの家に押しかける。そしてカビールと、そこにいたディヴィヤーを連れて森へ行く。ディヴィヤーが妊娠していたことをアマンはそのとき初めて知るが、既に中絶した後だった。しかも、それはカビールの子供だった。それを知ったアマンはカビールを撃ち殺す。だが、彼は絶望し、銃を落として立ち去ろうとする。ディヴィヤーは銃を拾いアマンを撃ち殺す。

 ローハンの妻バーヴナー(ヴィドゥシー・メヘラー)は夫が行方不明になったため、毎日のように警察署に通っていた。ディヴィヤーはバーヴナーと知り合いになる。アマンが用意した遺体はローハンのものだったことを知ったディヴィヤーは、保険金が下りたら彼女に渡すつもりだった。しかし、バーヴナーは、ローハンが最期にディヴィヤーの夫と一緒にいたことを知り、警察に通報する。

 中産階級の夫婦を欲望が蝕んでいく様が語られる映画である。借金で首が回らなくなり、保険金詐欺を思い付くが、それがさらなるトラブルを呼び込むという展開はよくあるものだが、この映画ならではの工夫は、まず冒頭に主人公アマンの葬儀を持ってきたことである。ディヴィヤーが、夫のアマンが交通事故で死んだと知らされるところから始まり、その葬儀が2015年12月15日に行われる。一通り葬儀の様子が描写された後、その45日前まで遡り、アマンとディヴィヤーの視点からプロローグが語られる。それを観ることで、アマンの死が保険金詐欺を目的とした偽装であること、また、ディヴィヤーが夫に内緒で上司のカビールと不倫していることなどが明らかになる。また、死を偽装するために遺体が必要になるが、アマンはたまたま知り合ったローハンを殺して自分の遺体代わりにする。中盤からそのローハンの妻が登場することで、さらに物語が複雑になる。

 救いのない映画ではあったが、ランヴィール・シャウリーやネーハー・ドゥーピヤーの好演もあって、緊迫感のある展開になっていた。また、現在から過去へ、そしてまた現在へ、と、時間軸が行ったり来たりし、しかも別々の視点から同じ時間帯の出来事を反芻することで物語に抑揚を付けており、それが一定の効果を生み出していたと感じる。最終的に欲望に身を任せて行動した登場人物は皆、不幸な目に遭っており、欲望は身を滅ぼすという教訓が得られる。ただし、映画の中では何も悪いことをしていないばかりか、苦労して生活していたローハンとバーヴナーもアマンの保険金詐欺に巻き込まれて不幸のどん底に突き落とされる。それを考えると、欲に身を任せようが何をしようが、不幸になるときは不幸になるということなのかもしれない。

 アマンとディヴィヤーの夫婦関係は生々しく感じた。過去のシーンの冒頭でアマンとディヴィヤーが別々の電話に出て話しているシーンが象徴するように、この二人の関係はすれ違っていた。アマンは仕事でトラブルを起こして多額の借金を背負い、しかも会社をクビになるが、それを妻になかなか明かそうとしなかった。ディヴィヤーを不安にしたくなかったからと言い訳していたが、いかにもすれ違いのある夫婦で起こり得ることだ。しかし、ディヴィヤーもピュアではなかった。彼女は職場の上司と不倫関係にあり、アマンとの離婚のタイミングをうかがっていた。アマンが命を狙われるようになったことを知り、離婚のタイミングが早まったという冷静な計算までする。

 「Moh Maya Money」は、ランヴィール・シャウリーとネーハー・ドゥーピヤー主演の、保険金詐欺を中心としたケイパー映画である。ストーリーは予想の範囲内で、普通に作ったら何の変哲もない映画になったところではあるが、時間軸の往復や視点の転換により中盤に盛り上がりがあり、引きつけられる時間帯はある映画だった。派手さはないが、観て損はない。