Banjo

2.5
Banjo
「Banjo」

 2016年9月23日公開の「Banjo」は、バンジョー弾きが主人公の映画である。ただ、「バンジョー」といっても米国南部で発展したカントリーミュージックでよく用いられる楽器のことではない。インドで「バンジョー」といった場合、日本の大正琴が独自に進化した楽器のことを指す。ヒンディー語では「ブルブルタラング」とも呼ばれる。大正琴自体の発明が1912年であるため、インドには20世紀に伝わった、比較的新しい楽器ということになる。西洋音楽にも古典音楽にも民俗音楽にも当てはまらないバンジョーを弾く奏者は、音楽家を名乗ることもできないくらい地位が低いようである。

 「Banjo」の監督は、過去にマラーティー語映画を監督した経験のあるラヴィ・ジャーダヴ。主演はリテーシュ・デーシュムクとナルギス・ファクリー。他に、ダルメーシュ・イェーランデー、アーディティヤ・クマール、ラーム・メーナン、マヘーシュ・シェッティー、ルーク・ケニー、モーハン・カプールなどが出演している。また、ヴィジャイ・ラーズがナレーションを務めている。

 ムンバイーのスラム街に住むタラート(リテーシュ・デーシュムク)はムンバイー随一のバンジョー弾きだった。普段は地元の政治家パーティールの下で違法な取り立て屋の仕事をしていた。グリース(ダルメーシュ・イェーランデー)、ペーパー(アーディティヤ・クマール)、ヴァジャヤー(ラーム・メーナン)はタラートのバンドのメンバーだった。

 米国人ミッキー(ルーク・ケニー)はインドの音を集めている内にタラートの奏でるバンジョーの音に出会う。その音源をニューヨークに住むミュージシャンの卵クリス(ナルギス・ファクリー)に送ったところ、クリスは気に入ってしまう。もうすぐニューヨークで実施されるコンペティションにバンジョーとのコラボレーション作品で応募することを思い立ち、ムンバイーを訪れる。

 クリスはタラートと出会い、彼のバンドと曲を作り始める。地元のクラブで演奏する機会も得られ、順調に事が進んでいるかに見えた。しかし、パーティールの暗殺未遂によりタラートに濡れ衣が着せられる。タラートたちは釈放されるものの、バンドは解散状態となり、失意のクリスもニューヨークに帰ってしまった。

 しかし、タラートは再起し、地元の音楽祭に乱入してバンジョーをかき鳴らす。その映像をニューヨークにいるクリスも見て喜ぶ。

 音楽を重視する映画作りをしてきたインド映画だが、ミュージシャンやバンドを主題にした映画は21世紀になってやっと作られるようになり、「Rock On!!」(2008年)や「Rockstar」(2011年)などが作られた。この「Banjo」もバンド映画の一種に分類することができる。

 「Banjo」がユニークなのは、その題名の通り、バンジョーが主題になっていたことである。インドには、スィタール、タブラー、サロード、サントゥールなど、様々な楽器が存在するが、それらが古典音楽として国際的に高い地位を獲得したのに対し、バンジョーはほとんど「スラム街の楽器」のように扱われ、バンジョー弾きはバンジョーを弾いていることを隠すほどであった。だが、そのギラギラした音に魅了されたNRI(在外インド人)のクリスは、わざわざバンジョー弾きを探しにニューヨークからムンバイーにやって来たのだった。

 ただ、特に前半に冗長なシーンが目立った。音楽が主題の映画では音楽の質が映画の質を大きく左右するが、音楽監督のヴィシャール・シェーカルは今回、それほど真剣に作曲をしていないように感じた。インパクトのある曲が少なかったのである。

 ストーリーにもブレがあった。クリスはニューヨークの音楽コンペティションに作品を応募するためにわざわざムンバイーにやって来てバンジョー弾きを探していたのに、いつの間にか映画の目的が、ムンバイーで行われる音楽祭に出場することになっていた。一応、タラートたちが米国のヴィザを取得しようと奮闘するシーンがエンディングで描かれていたものの、一貫性のなさは否めない。

 ミッキーを演じたルーク・ケニーは「Rock On!!」にも出ていた白人である。だが、コルカタで生まれ、ムンバイーで育っており、実質的にはインド人だ。ポンディチェリー出身のフランス人女優カルキ・ケクランと似た位置づけの俳優である。音楽家の父を持ち、VJとして活躍していたこともあって、音楽映画への出演が多い。

 パーキスターン人とチェコ人の間に生まれたナルギス・ファクリーはインド人離れした外観をしており、ヒンディー語にも訛りがあって、今回のようなNRI役はうってつけだ。演技に真剣に取り組んでいるようには見えないが、使い方を間違えなければ使い道がある。

 これらバタ臭い二人に対して主演のリテーシュ・デーシュムクは正真正銘のインド人、しかもマラーティーであり、スラム街のバンジョー弾きとして際立っていた。バンドメンバーの顔ぶれも土臭い俳優が選ばれており、いいコントラストになっていた。

 「Banjo」は、ムンバイーのスラム街に住むバンジョー弾きが主人公の音楽映画である。ただ、冗長な展開、ストーリーの一貫性のなさ、そして音楽に特別優れたところがない点などから、完成度は低い。大正琴から発展したインドのバンジョーを取り上げた映画という点だけはユニークだ。


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