Rough Book

3.0

 2015年にニューヨーク・インド映画祭でプレミア上映され、インドでは2016年6月24日に公開されたヒンディー語映画「Rough Book」は、インドの教育制度について疑問を投げ掛ける内容の映画である。

 監督は「Gour Hari Dastaan」(2015年)などのアナント・ナーラーヤン・マハーデーヴァン。キャストは、タニシュター・チャタルジー、アマーン・F・カーン、カイザード・コートワール、ラーム・カプール、ジョイ・セーングプター、ジャヤティ・バーティヤー、ヴィナイ・ジャイン、スハースィニー・ムレーなど。

 物理を教える高校教師サントーシー(タニシュター・チャタルジー)は、夫のプラディープ(ヴィナイ・ジャイン)が汚職に関わったことで離婚協議を始めた。プラディープの家を出たサントーシーはプレジデンシー・カレッジという高校で教え始める。校長のPKサハーニー(カイザード・コートワール)は教育を「需要と供給」だと考えており、結果至上主義を貫いていた。彼は成績順に学級をA~Dに分けていたが、サントーシーは一番下のD組の生徒に物理を教えることになった。

 D組の生徒は、スハイル・カプール(アマーン・F・カーン)をはじめ、全く勉強に関心がなかった。だが、サントーシーは他の教員とは異なった方法で物理を教え、生徒たちの関心を引き出す。しかしながら、サントーシーはサハーニー校長と対立し、停職となる。代わって物理を教えることになった教師は元塾講師であり、ひたすら知識を詰め込むタイプだった。スハイルやD組の生徒たちはサントーシーの家に行き、物理を教えてもらうことにする。サントーシーの友人たちも協力する。

 スハイルたちは、12年生の修了テストと同時に、インド工科大学(IIT)入学のためのIIT-JEEの準備もする。修了テストでは6割くらいしか取れなかったスハイルたちだったが、なんとIITに入学を果たし、世間から注目を集める。

 学校を舞台にした教育テーマの映画としてはよくある筋書きの物語であった。革新的な教え方をする教師が落ちこぼれの生徒たちを教え導き、彼らの潜在力を引き出す。学校の管理職は結果重視、数字重視の方針で、生徒を成績順に輪切りにして効率化を図り、教育のビジネス化を推し進めるが、主人公の教師がそれに反抗し、停職となる。最後には、落ちこぼれたちが難関大学に合格し、今まで彼らを馬鹿にしてきた人々を見返す。日本でも、「ビリギャル」(2015年)など、同様の映画は多い。

 主人公のサントーシーは物理教師であったが、彼女の教え方の特徴はとても斬新なものだった。物理現象を具体的に目で見せたり、生徒に授業をさせたり、Googleでも解けない問題を出して考えさせたりする。突っかかってきた生徒に対しても真っ向から立ち向かわず、巧みにいなす。勉強にやる気のなかった落ちこぼれの生徒たちも、サントーシーの授業だけは目を輝かせて真面目に受けるようになる。

 ただ、結局、落ちこぼれたちのIIT合格をもって成功としていたのには疑問を持った。インドの教育制度の批判をしながら、結局は高等教育ヒエラルキーの頂点にあるIITをゴールとしていた。真の学び、真の理解を重視するなら、ゴールはIITでなくてもよかったはずである。

 サントーシーが教える学校での出来事と並行して、サントーシーの母親が村で運営する学校が少しだけ出て来た。どうも孤児のための学校のようで、映画の最後に表示された説明によれば、「SOS子供の村」という。オーストリア発祥で、インドをはじめ世界中に学校を持っている。サントーシー自身もこの学校の出身である可能性があるが、明示はなかった。

 インドでは10年生と12年生のときに「Board Exam」と呼ばれる共通試験を受ける。サントーシーが担任したのは12年生で、正にこの試験のために勉強をしていた。日本でいう「高校卒業資格」を取るためには、「Board Exam」で一定の点数を取らなければならない。また、この成績が大学入学選抜にも使われる。ただ、IITは独自にIIT-JEEと呼ばれる共通試験を実施している。サントーシーが教えたスハイルたちは、「Board Exam」とIIT-JEEの両方を同時に勉強し、受験した。彼らは「Board Exam」では6割くらいの得点しか取れなかったが、インド最難関をいわれるIIT-JEEでは合格を勝ち取る。

 映画を観る限り、これはどうも試験方式の違いにあるようだ。「Board Exam」は記述式であるのに対し、IIT-JEEは選択式である。普通に考えれば、応用力のある生徒は「Board Exam」の方が得意そうなものであるが、映画ではIIT-JEEの方が応用力を求められる試験だとされていた。試験制度は頻繁に改革が行われるし、自分がこれらの試験を受けてきたわけではないので、この辺りの詳細は不明である。

 主演のタニシュター・チャタルジーは、普段は脇役でインパクトのある演技をしているのだが、今回は主役の教師役を堂々と演じていた。元々演技力のある女優であり、少しの不安もない演技であった。

 「Rough Book」は、結果主義や教育のビジネス化など、インドの教育界に渦巻く問題を、斬新な教授法をする女性教師の視点から取り上げた作品である。主演タニシュター・チャタルジーの好演が光る映画であった。