Project Marathwada

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Project Marathwada

 2016年6月3日公開の「Project Marathwada」は農民自殺問題を取り上げたヒンディー語映画だ。マラートワーダーとはマハーラーシュトラ州の地域名である。マラートワーダー地域には、アウランガーバード、ナーンデード、ラートゥールなどの都市がある。世界遺産になっているアジャンターやエローラなどもこの地域内に入る。

 監督は新人のバーヴィーン・ワーディヤー。主演はオーム・プリー。他に、スィーマー・ビシュワース、クナール・シェート、ラーフル・パテール、カタリーナ・カジクス、ファラー・カーダル、ゴーヴィンド・ナームデーヴ、ダリープ・ターヒルなどが出演している。

 ムンバイーの大学でジャーナリズムを専攻するサチン(クナール・シェート)、クリシュナン(ラーフル・パテール)、キャロル(カタリーナ・カジクス)、カーダンバリー(ファラー・カーダル)は、課題として農民自殺問題に関する映像作品を制作することになる。彼らはサチンの故郷ナーンデードに行こうとするが、途中でたまたま出会ったトゥカーラーム(オーム・プリー)という農民が、正に農民自殺問題を州首相などに訴えようとしており、彼を課題のテーマにすることにする。四人はトゥカーラームのインタビューを撮影する。

 トゥカーラームの息子は農業で失敗して自殺しており、政府から補償金ももらえていなかった。彼の土地は開発業者に強制的に接収されてしまっていた。同じような境遇の農民がたくさんいた。トゥカーラームは、妻のサクー(スィーマー・ビシュワース)を村に残し、単身ムンバイーに出て来て、この窮状を政治家などに訴えようとしていたのだった。だが、野党政治家には取り合ってもらえず、開発業者の社長(ダリープ・ターヒル)との面会も断られた。そこでトゥカーラームは州首相(ゴーヴィンド・ナームデーヴ)の前で灯油をかぶって焼身自殺しようとするも、警備員に止められる。だが、このニュースは全国を駆け巡った。

 四人はトゥカーラームの身元を引き取ると同時に、メディアに対しトゥカーラームのインタビューのデータを公表する。ニュースでトゥカーラームの窮状が詳しく報道され、州首相に政党本部から圧力が掛かる。とうとう州首相は、農民の土地の返却や自殺した農民への補償金の迅速な支払いなどに応じる発表をした。

 ところがトゥカーラームがその報道を知るのは翌日になってからだった。その直前、彼は殺鼠剤を食べてしまっていた。トゥカーラームは吉報を知り、意気揚々と村に帰ろうとするも、意識を失って階段から転げ落ちてしまう。

 インドでは農民の自殺が長らく大きな問題となっている。その数は1日に10人とも30人ともいわれる。様々な原因が取り沙汰されているが、よく元凶として名指しされるのが米モンサント社の遺伝子組み換え綿、Btコットンである。インドでは2002年から、害虫に強く収穫量が多いBtコットンの種が政策的に導入されたが、この遺伝子組み換え綿の価格は通常の綿の2倍するため、農民たちは銀行や高利貸しから多額の借金をせねばならない。しかも、天候不順になって不作になると、莫大な額の借金を抱えることになる。Btコットンを続けて収穫すると年々収穫量が減っていくことや、耐性を持った害虫を駆除するためにより強い農薬を購入する必要になること、また、特許作物のため、前年に収穫した種を翌年に使うことができず全て購入しないといけないことなど、必要な費用が膨れあがる問題も指摘されている。Btコットンが原因にしろ、他の原因であるにしろ、農業で失敗し、借金を返済し切れなくなった農民たちは、政府から出る補償金を頼りに自殺をするのだが、自殺した農民の全てが補償金をもらえるわけではない。補償金の額は、「Project Marathwada」によると、一人10万ルピーとのことである。

 農民自殺問題は過去にも、直接的または間接的に、映画で取り上げられてきた。「Summer 2007」(2008年)、「Stanley Ka Dabba」(2011年)、「Baromas」(2012年)などである。「Project Marathwada」は、都会に住む若者の視点から、インドの農村部で今正に起こっている問題を考える内容になっていた。しかし、映画の作りはあまり上手ではなく、ストーリーに方向性と引っ掛かりがないため、メリハリなくだらだらと最後まで続いてしまった印象を受けた。映画の中では最後に州首相が困窮する農民のために大盤振る舞いをしてくれたが、非現実的で取って付けたような展開だった。主人公トゥカーラームが自殺未遂をしたから州政府が動いたという風にも受け止められる。これは逆に、農民たちに自殺をしてでも行動を起こせと言っているかのようだった。一応最後に主演のオーム・プリーが直接農民たちに「自殺はせずに、ストライキなどの運動を起こしなさい」と訴えていたが、そういうメッセージをストーリーにして映像で語るのが映画の本来の姿であり、非常に稚拙な作りだと感じた。

 キャストを見渡すと、主演のオーム・プリーをはじめ、スィーマー・ビシュワース、ゴーヴィンド・ナームデーヴ、ダリープ・ターヒルなど、ベテラン俳優たちが名を連ねている。彼らはそれぞれ好演をしていたといえるが、映画そのものの質が低かったため、彼らの演技でも映画を救うことはできていなかった。若い4人を演じた俳優たちはほとんど無名だ。キャロルを演じたカタリーナ・カジクスという女優の話すヒンディー語は酷い片言で、こんな人物を映画に出していいのかと言いたくなるぐらいだった。てっきり外国人かと思ったが、インド生まれらしい。

 マハーラーシュトラ州の農民が主題の映画であるため、マラーティー語の映画のようにも見えるが、基本的にはヒンディー語映画だ。しかし、マラーティー語の台詞も出て来るし、英語の台詞も要所要所で使われる。

 「Project Marathwada」は、深刻化する農民自殺問題を取り上げた映画である。主演のオーム・プリーをはじめ、ベテラン俳優の起用があるものの、映画そのものの質が低く、残念な出来になっている。無理して観る必要はない映画である。