Singh Is Bliing

2.5
Singh Is Bliing
「Singh Is Bliing」

 「Singh Is Kinng」(2008年)といえば、アニース・バズミー監督、アクシャイ・クマール主演の大ヒットコメディー映画である。それとよく似た題名の映画が2015年10月2日公開の「Singh Is Bliing」だ。ターバンをかぶったスィク教徒が主人公の映画である点、そしてアクシャイ・クマールが主演である点だけは共通しているが、プロデューサーも監督も全く異なり、続編でもない。

 「Singh Is Bliing」の監督は、コレオグラファー出身のプラブデーヴァ。彼のメインフィールドはタミル語映画界なのだが、最近、映画を監督する際はヒンディー語を選んでいる。主演はアクシャイ・クマールだが、ヒロインはインド映画界で活躍する英国人女優エイミー・ジャクソン。他に、ケー・ケー・メーナン、ラーラー・ダッター、プラディープ・ラーワト、ラティ・アグニホートリー、ヨーグラージ・スィン、クナール・カプールなどが出演している。また、サニー・リオーネとプラブデーヴァが一瞬だけカメオ出演している。

 パンジャーブ州バッスィー・パターナーンで生まれ育ったラフタール・スィン(アクシャイ・クマール)は何でも途中で放り出してしまう性格で、父親(ヨーグラージ・スィン)は手を焼いていた。ある日、父親はラフタールに、ゴアでカジノを経営する友人キルパール・スィン(プラディープ・ラーワト)の下で働くように言いつける。こうしてラフタールはゴアへ向かう。

 キルパールは、ルーマニアに住む友人ラーナー(クナール・カプール)の娘サラ(エイミー・ジャクソン)がゴアへやって来ることになったため、彼女の世話係をラフタールに任せる。サラはヒンディー語が話せず、ラフタールは英語が話せなかったため、通訳としてエミリー(ラーラー・ダッター)を雇う。

 サラの両親は離婚しており、母親はゴアに住んでいた。ラフタールは、サラの母親探しを手伝う。また、サラは、ルーマニアのアンダーワールドを支配するマーク(ケー・ケー・メーナン)に追われていた。マークはサラがゴアにいることを知り、追っ手を放つ。キルパールはラフタールに、サラを連れてパンジャーブ州へ逃げるように言う。

 ラフタールの故郷ではサラは家族に歓迎を受ける。ラフタールの両親も、ラフタールとサラの結婚を考え始める。そのとき、ゴアでサラの母親が見つかったため、ラフタールとサラはゴアに戻る。だが、サラの母親は再婚しているようで、サラという名前の子供がいた。それを知ったサラはゴアを立ち去る。

 ルーマニアに着いたサラは、ラーナーがマークに撃たれ重傷を負ったことを知る。ラフタールは、サラの母親を連れてルーマニアまで来て、二人を再開させる。サラの母親は実は再婚しておらず、サラという名の養女をもらっただけだった。サラは、両親の命を救うため、マークと結婚することを決める。だが、ラフタールはマークに挑戦し、彼の手下をなぎ倒して、マークを倒す。こうしてラフタールはサラと結婚することになった。

 プラブデーヴァはインド映画界でもっとも優れたコレオグラファーの一人であり、彼の過去の監督作にはいくつものヒット作がある。だが、彼の作る映画は基本的に娯楽最優先、脚本二の次の古き悪きマサーラー映画であり、大味で雑なことが多いので、注意が必要である。

 「Singh Is Bliing」の脚本も筋が通っておらず、論理立ててあらすじを説明するのが困難なレベルであった。サラはマークから逃げるためにルーマニアからゴアに来たのに、なぜかゴアに着いた途端に、ゴアに住む母親探しという別の目的での行動が始まること、マークの追っ手から逃げるためにサラはラフタールと共にゴアからパンジャーブ州へ行ったはずなのに、ゴアで母親が見つかるとすぐにゴアに戻ってしまうこと、サラは一騎当千の格闘家なのにマークにはなぜか逆らわず、彼との結婚を渋々受け入れることなど、つじつまの合わない部分ばかりだ。

 ヒロインのエイミー・ジャクソンも、ヒンディー語が話せないという設定に胡座をかいて、ほとんど台詞をしゃべらず、感情表現にも乏しかった。こんな可愛げのないヒロインを誰が受け入れるのだろうか。

 エイミーの不足分を補っていたのが、セカンドヒロイン扱いになるラーラー・ダッターであった。元ミス・ユニバースであり、既にベテラン女優の域に達しているが、意外に気取らない性格のようで、時々汚れ役も引き受けている。「Singh Is Bliing」では、やたらハキハキした通訳役を面白おかしく演じており、笑いに貢献していた。

 主演のアクシャイ・クマールは、おそらく「Singh Is Kinng」と同じ調子の演技を心掛けたと思われる。天然ボケのサルダールジーをひょうきんに演じており、ターバン姿も似合っていた。ちなみにアクシャイの家系はパンジャービーである。

 スィク教徒が主人公の映画ということは、音楽はバングラーを中心としたノリノリのものになるのはお約束だ。スネーハー・カーンワルカル作曲の「Tung Tung Baje」、マンジ・ミュージック作曲の「Singh & Kaur」、サージド・ワージド作曲の「Cinema Dekhe Mamma」、ミート・ブロス作曲の「Dil Kare Chu Che」と、バングラー揃いである。

 「Singh Is Bliing」は、2008年の大ヒット映画「Singh Is Kinng」とは無関係だが、似たような作りの映画である。いつも大味な映画作りをするプラブデーヴァが監督をしているが、今回はかなり散らかった作りになっており、まとまりは悪い。「Singh Is Kinng」の続編だと思って観てはいけない映画である。