「Monsoon Shootout」(2013年)は、人生のある時点で3つの選択肢が選べると仮定し、それぞれの選択肢を選んだ場合の未来を順に見せるネオノワール映画であった。同じようなコンセプトの映画が、2015年9月25日公開の「Bhaag Johnny(逃げろ、ジョニー)」である。上司から殺人を強要された主人公が、その殺人を実行した後の展開と実行しなかった後の展開をどちらも観客が楽しめる仕掛けになっている。
監督は「Maharathi」(2008年)のシヴァム・ナーイル。主演はクナール・ケームー。ヒロインは2人、ゾーヤー・モーラーニーとマンダナー・カリーミー。どちらもまだ駆け出しの女優である。他に、マーナスィー・スコット、ヴィクラム・バット、ニシガンダー・ワード、ムクル・デーヴ、アスィーム・マーチャントなどが出演している。また、ウルヴァシー・ラウテーラーがアイテムソング「Daddy Mummy」にアイテムガール出演している。
バンコクに住み、ラモナ・バクシー(マーナスィー・スコット)社長の経営する会社で会計士として働いていたジョニー(クナール・ケームー)は、インサイダー取引をしていたのがバクシー社長にばれ、それを隠蔽する代わりに殺人を依頼される。標的とされたのは、タニヤ(ゾーヤー・モーラーニー)という女の子だった。ジョニーはタニヤを殺すためにパタヤーへ行く。 ジョニーは、バクシーの手下ノーバディー(アスィーム・マーチャント)に銃を渡される。だが、そこへジン(ヴィクラム・バット)が現れる。ジョニーの行く末を心配したインド在住の母親が、僧侶に頼んで黒魔術を行い、ジンをジョニーの元に送り込んだのだった。ジンは、タニヤを殺したときと殺さなかったときの未来を見せるとジョニーに言う。 タニヤを殺した場合、ジョニーは警察から追われる身となる。途中でレイチェル(マンダナー・カリーミー)という女性が一緒になる。彼女は大使館に勤めていたが、重要な機密を知ってしまい、命を狙われていた。ジョニーはレイチェルの助けを借りて、バクシーがタニヤを殺す動機を調べる。そして、バクシーを脅迫し、300万ドルを持って来させる。ジョニーはバクシーを殺し、金を手に入れる。 タニヤを殺さなかった場合、ジョニーとタニヤはノーバディーなど、バクシーの手下たちに追われることになる。一度はノーバディーらに捕まりそうになるが、彼らを殺して逃げる。こうして警察にも追われることになる。だが、バクシーの家に忍び込むと、タニヤはバクシーの夫に見覚えを感じた。実はタニヤはバクシーにとって夫が前妻との間に作った子供だった。夫の死後は財産がタニヤのものになることになっており、バクシーは彼女を殺そうとしたのである。バクシーは、パターン警部(ムクル・デーヴ)と結託してジョニーとタニヤを捕まえようとする。 この時点で、2つの選択肢からどちらを選ぶか決めることになる。ジョニーは、タニヤを殺さなかった場合を選ぶ。その後、ジョニーはパターン警部に撃たれるものの、パターン警部は駆けつけた警察によって殺され、ジョニーは一命を取り留める。ジョニーはタニヤとの結婚を考える。
何の罪もない人を殺すか否かという選択肢を用意された場合、殺さないという選択肢の方により良い未来が待っているのは容易に想像が付く。果たして、「Bhaag Johnny」の結末も予想通りであり、その点では意外性がなかった。また、行動が結果をもたらすという教訓が込められており、説教臭い映画にも感じる。だが、2つの未来を同時進行的に見せる手法はなかなかエキサイティングで、映画らしい工夫のあるスリラーに仕上がっていた。
面白かったのは、逃げるジョニーとは別の場所で別のエピソードが展開し、それがジョニーの運命につながっていたことだ。タニヤを殺そうと殺すまいと、ジョニーはホテルから自動車で逃げ出すわけだが、そのとき道を横断中だった一人の老婆を轢きそうになる。タニヤが生きている場合はタニヤが気付き、老婆を轢かずに済むのだが、タニヤを殺した場合は老婆を轢いてしまう。この出来事が、実はその後に大きな違いをもたらしていた。
老婆を轢いた場合、老婆はタクシー運転手に助けられ、病院に運ばれるのだが、そのタクシーがパトカーと衝突する。そのパトカーはテロリストを追っていた。タクシーと衝突したためにテロリストは逃亡に成功し、爆弾をフェリーに仕掛ける。タニヤを殺した場合、ジョニーは最終的に300万ドルを手にするが、パタヤーから逃亡するときに爆弾が仕掛けられたフェリーに乗り合わせ、爆死してしまう。一方、老婆が轢かれなかった場合、テロリストは警察に逮捕され、フェリーも爆破されない。
「風が吹けば桶屋が儲かる」ではないが、ちょっとしたことがその後の未来に大きな違いをもたらすことが示されており、常に正しく生きる大切さが説かれている。
主演のクナール・ケームーは、A級のスターではないものの、よく生き残っている俳優である。時々、この「Bhaag Johnny」のような良作に恵まれるので、運がいいのだろう。2人のヒロイン、ゾーヤー・モーラーニーとマンダナー・カリーミーはこれからの女優だ。
意外性があったのは、ヴィクラム・バットがジン役で出演していたことである。ヴィクラム・バットはこの映画のプロデューサーの一人でもあり、脚本も書いている。スリラー映画やホラー映画を得意とする監督として知られているが、どういう風の吹き回しであろうか。彼が俳優としてカメラの前に立ったのは本作が初めてである。
「Bhaag Johnny」は、2つの未来から1つを選ぶチャンスを手にした主人公の物語である。説教臭い映画ではあるが、2つの未来は同時進行で提示される手法は斬新で、しかもそれらが同時に謎を解いていくのがエキサイティングだった。興行的には大失敗に終わったが、光るものがある良作である。