Miss Tanakpur Haazir Ho

2.5

 2015年6月26日公開の「Miss Tanakpur Haazir Ho(ミス・タナクプル、前へ!)」は、水牛と結婚することになった男性を主人公にした、実話に基づく物語である。監督はヴィノード・カープリー。ジャーナリストからドキュメンタリー映画を経て、長編映画を作るようになった人物である。

 物語の中心となるアルジュンを演じるのはラーフル・バッガーだが、「Luv Shuv Tey Chicken Khurana」(2012年)などで脇役出演していたほとんど無名の俳優である。それよりもむしろ脇役陣が豪華で、アンヌー・カプール、オーム・プリー、サンジャイ・ミシュラー、ラヴィ・キシャン、ブリジェーンドラ・カーラー、リシター・バットなどが出演している。

 ハリヤーナー州の架空の農村タナクプルの村長スワーラール(アンヌー・カプール)は、娘ほどの年齢の女性マーヤー(リシター・バット)と結婚するが、夜の営みができず、子供を作れずにいた。また、スワーラールの飼っている水牛は、毎日20リットルの牛乳を出す上物で、村の祭りでミス・タナクプルを受賞した。スワーラールの自慢の水牛であった。

 マーヤーは、村で電気修理の仕事などをしながら警察官を目指す青年アルジュン(ラーフル・バッガー)と仲良くなり、二人は密会していた。スワーラールは間男の存在を察知し、アルジュンに疑いを掛ける。手下のビーマー(ラヴィ・キシャン)や呪術師トゥカーラーム・シャーストリー(サンジャイ・ミシュラー)と共にアルジュンを呪い殺そうとするがうまくいかない。だが、アルジュンの妹の結婚式の日、スワーラールはマーヤーの部屋にアルジュンがいるのを見つけ、集団で暴行を加える。そこへ村人たちが駆けつけたため、スワーラールはアルジュンがミス・タナクプルを強姦したと公表する。アルジュンの妹の結婚式は中止となる。

 翌朝、警官のマタング(オーム・プリー)がタナクプルにやって来る。スワーラールに買収されていたマタングはアルジュンを強姦の容疑で逮捕する。アルジュンの家族は弁護士(ブリジェーンドラ・カーラー)を雇って無罪を主張するが、裁判官も買収されており、アルジュンは司法拘留となる。アルジュンの父親は井戸に身を投げて自殺してしまう。

 裁判官は被害者のミス・タナクプルを裁判所に連れてくるように命令するが、途中で運搬していたトラックが転落してしまい、ミス・タナクプルは怪我をしてしまう。代わりに別の水牛を裁判所に連れてきたが、偽物であることが分かり、公判は延期され、アルジュンは保釈される。

 一方、タナクプルでは村落議会パンチャーヤトが開かれ、アルジュンはミス・タナクプルと結婚させられることになる。だが、結婚式の日、ミス・タナクプルは逃げ出し、行方不明となる。こうして裁判は続行不可能となった。停職になったマタングは全てを暴露し、スワーラールらの悪事が明らかになる。アルジュンは晴れて自由の身となった。

 「Miss Tanakpur Haazir Ho」が訴えたいのは、インドにおいて虚構の裁判があまりにもたくさん行われていることへの警鐘である。この映画では、スワーラール村長が、妻マーヤーと夜の営みができないことを隠すために、妻の間男アルジュンに、水牛を強姦した濡れ衣を着せて破滅させようとする。村長が警察や裁判官を買収したために、この事件は真剣に受け止められて裁判が進んで行く。また、アルジュンもマーヤーを守るために、真実を明かさなかった。こうして徐々に大事になっていき、アルジュンは水牛ミス・タナクプルと結婚することになってしまうのである。

 実話に基づく映画とのことで、本当にこのような事件があったのだろうが、それをどう料理して娯楽映画にするかは監督の手腕に掛かっている。「Miss Tanakpur Haazir Ho」は、ブラックコメディーにしたいのか、シリアスな悲劇にしたいのか、軸のブレが感じられた。アンヌー・カプール、サンジャイ・ミシュラー、ラヴィ・キシャン、オーム・プリーなどが繰り広げるドタバタ劇は完全にコメディーなのだが、アルジュンを演じるラーフル・バッガーの身に起こることはかなり深刻だ。暴行を受け、足をバイクでひかれ、村の広場で吊し上げられ、警察署で暴行を受け、妹の結婚式が中止となり、父親が自殺する。挙げ句の果てに水牛と結婚させられるのだが、それをギャグと捉えていいのか、悲劇と捉えていいのか、曖昧になっていた。よって、非常に中途半端な映画だった。

 中心的なキャラだったアルジュンと、ほぼ唯一の女性キャラであるために自動的にヒロイン扱いとなってしまうマーヤーに、自らの力で困難な状況を打開しようとするガッツがなかったことも、この映画を弱いものにしていた。社会的な抑圧やどうしようもない状況にただただ打ちのめされて立ち上がろうとしない主人公は、近年のヒンディー語映画では全く受け入れられない。たとえフィクションを織り交ぜても、主人公に勇気と行動を与えることは、娯楽映画として仕上げるために重要な要素だ。ドキュメンタリー映画とはそこが大きく異なる。

 アルジュンを演じたラーフル・バッガーからは、映画スターとしてのオーラが感じられなかった。TV俳優止まりではなかろうか。それでも、先述の通り、アンヌー・カプールらベテラン俳優たちのドタバタ劇は秀逸で、この部分だけなら十分にコメディー映画として成立した映画である。

 リシター・バットは2000年代に存在感のあった女優である。だが、第一線に定着することはできず、2010年代には目立たなくなった。「Miss Tanakpur Haazir Ho」のような低予算映画に出演しているところを見ると、だいぶ落ちぶれてしまった感がある。

 「Miss Tanakpur Haazir Ho」は、水牛と結婚することになった青年の物語である。基本的にはブラックコメディーだが、極度に不幸なシーンも所々にあって、中途半端な娯楽映画になってしまっている。監督のハンドルミスであろう。無理して観る必要はない映画である。