Babloo Happy Hai

3.5
Babloo Happy Hai
「Babloo Happy Hai」

 2014年2月7日公開の「Babloo Happy Hai」は、何の変哲もない青春群像劇のように思わせておいて、途中からAIDSの啓蒙映画に急転するという手の込んだ作品である。

 監督は「I Am Kalam」(2011年)のニーラ・マーダブ・パンダー。キャストはサーヒル・アーナンド、エリカ・フェルナンデス、スミト・スーリー、アモール・パラーシャル、プリート・カマル、アヌ・チャウダリー、レーイナー・マロートラー、パルヴィーン・ダバスなどである。パルヴィーン以外はほぼ無名の若手俳優ばかりだ。

 ちなみに題名の「Babloo Happy Hai」とは「バブルーは幸せだ」という意味だが、映画中にバブルーというキャラは登場しない。「パップー」などと同じく、不特定の人物を示すあだ名の一種であり、日本語では「某」「へのへのもへじ」「名無しの権兵衛」などが近い。

 ジャティン(サーヒル・アーナンド)、ハリー(スミト・スーリー)、ローハン(アモール・パラーシャル)はデリー在住の仲良し三人組だった。ジャティンとタマンナー(プリート・カマル)の結婚が決まり、バチャラーズ・パーティーが開かれた。そこでジャティンはナターシャ(エリカ・フェルナンデス)という美女と出会い、酔っ払って彼女と一夜を共にしてしまう。

 タマンナーの従姉妹の結婚式がマナーリーで行われることになり、ジャティン、ハリー、ローハンも行くことになる。そこでジャティンはナターシャと再会する。また、童貞だったジャティンはタマンナーの友人ガザーラー(レーイナー・マロートラー)を口説くことに成功し、童貞を捨てる。

 マナーリーでは大雪が降り、ジャティン、ハリー、ローハン、タマンナー、ナターシャ、ガザーラーたちは、ハルシュ(パルヴィーン・ダバス)とディーパー(アヌ・チャウダリー)が主催するNGOアーシュラヤの建物にしばらく滞在することになる。アーシュラヤはHIV陽性の子供たちの世話をしたり、人々にコンドームの使用を呼びかけたりする活動をしていた。

 タマンナーはハルシュとディーパーがHIV陽性だと知り、これ以上彼らと一緒に住めないと言い出す。タマンナーはジャティンを連れてデリーに帰ってしまう。ナターシャはアーシュラヤで働くことを決める。

 デリーに戻ったジャティンはナターシャのことが忘れられなかった。ナターシャが彼を訪ねてきたことをきっかけにジャティンはタマンナーに結婚の破棄を申し出る。ナターシャはジャティンに自分もHIV陽性だと打ち明ける。ショックを受けたジャティンはナターシャを追い出し、絶望する。ハリーとローハンが駆けつけ、彼を病院に連れて行く。検査の結果、ジャティンはHIV陰性だった。ハルシュからナターシャの手紙を渡され、ジャティンはそれを読む。そこには、バチャラーズ・パーティーの夜、ただ単に添い寝しただけだと書いてあった。

 ジャティンはマナーリーに急ぎ、ナターシャと再会する。そして彼女と共に生きていくことを決める。

 メインキャラクターはジャティン、ハリー、ローハンの3人であり、彼らが冬のマナーリーを訪れることになる。20代の若者三人組の友情を描いたロードムービー映画というと「Dil Chahta Hai」(2001年)が走りだが、より「Babloo Happy Hai」と類似していたのは「Zindagi Na Milegi Dobara」(2011年/邦題:人生は二度とない)であった。「Zindagi Na Milegi Dobara」ではカールキ・ケクラン演じるナターシャが許嫁を束縛していたが、「Babloo Happy Hai」ではジャティンの許嫁タマンナーが同じように彼を束縛していた。二人が破局に向かう結末もそっくりだ。

 しかしながら「Babloo Happy Hai」は単に青春群像劇で終わる映画ではなかった。まず、序盤からやたらとコンドームが言及される。たとえば早く童貞を捨てたくてたまらなかったハリーは、タマンナーの友人ガザーラーといい雰囲気になる。いざ行為を始めようとしたところ、ガザーラーに「コンドームは持ってる?」と聞かれる。ガザーラーはコンドームなしでは絶対に行為を許さなかった。そこでハリーは急いで町へ行き薬局でコンドームを買ってくる。だが、帰ってきたときには既にガザーラーはいなくなっており、その夜は空振りに終わる。そんなしょうもないエピソードがわざわざ差し挟まれるため、これはコンドーム啓蒙映画かと思い始める。

 中盤に、AIDSに関する正確な知識の啓蒙やHIV陽性児童の世話などをするNGOアーシュラヤと、それを主催するハルシュとディーパーが登場することで、映画のメッセージが明確になる。しかも、この映画にはHIV陽性者が何人も誕生する。ハルシュとディーパー自身がHIV陽性者であったし、ジャティンたちがマナーリーに来る途中で出会ったトラック運転手もコンドームなしで売春婦とセックスをしたことでAIDSになってしまう。

 極めつけはナターシャであった。ジャティンと一夜を共にし、マナーリーで再会する謎の女性である。やけ酒して酔い潰れるなどの奇行から、何か悩みを抱えていることが示唆されるが、それがようやく明かされるのは終盤だ。実は彼女もHIV陽性者だったのである。ジャティンはナターシャとセックスをしてしまったと考えており、それを聞いたことで天地がひっくり返るようなショックを受ける。幸い、検査の結果は陰性だったし、後で実は彼女とはセックスをしていなかったことも分かる。そのときまでにジャティンはタマンナーとの婚約を解消しており、ナターシャを愛していることに気付いていた。ジャティンは、HIV陽性者ながらナターシャを人生の伴侶とすることを選ぶのだった。

 日本では、HIVウイルスが空気感染などしないことはよく知られていると思われる。だが、インドでは未だに偏見が根強い。タマンナーも、ハルシュとディーパーがHIV陽性だと知るや否や、彼らから離れようとする。また、HIV陽性になるとすぐに死ぬとも勘違いされている。そういう誤解を解くためにハルシュとディーパーはNGOアーシュラヤを立ち上げて啓蒙活動をしていたが、まだまだ道半ばであった。ディーパーは、一緒にいたり触れ合ったりして広がるものはHIVウイルスではなく愛情だ、という旨の美しいセリフを発していたのが印象的だった。

 映画の中でNGOアーシュラヤのオフィスになっていたのは、クッルー谷のナッガルにあるナッガル城だと思われる。ナッガルはクッルー王国の王都として栄えた場所で、ナッガル城はヒマーチャル地方の伝統的な建築様式で建てられている。

 「Babloo Happy Hai」は、パーティー好きな若者たちをメインに据えた青春群像劇だと思いきや、AIDSやHIVについての正確な知識を若者に啓蒙する目的で作られた大真面目な作品だ。そのギャップがこの映画の全てである。有意義な娯楽映画を作ろうと努力する監督の態度を評価したい。


Produced By Gagan Dhawan | BABLOO HAPPY HAI || Full Hindi Movie