インドのハイウェイを移動していると、所々にドライブイン的な食堂が並んでいる。道行く人々が食事をしたり休憩をしたりできる憩いの場で、陸路で長距離移動する者にはなくてはならない施設である。主に北インドでそのような食堂をダーバーと呼ぶ。2012年11月2日公開の「Luv Shuv Tey Chicken Khurana」は、ダーバーにまつわる物語である。
監督は新人のサミール・シャルマー。主演はクナール・カプールとフマー・クライシー。他に、ヴィノード・ナーグパール、ラージェーシュ・シャルマー、ラーフル・バッガー、ドリー・アフルワーリヤー、ラージェーンドラ・セーティー、ムケーシュ・チャブラー、アナングシャー・ビシュワース、ニムラト・カウル、ヴィッキー・カウシャルなどが出演している。
題名の「Luv Shuv Tey Chicken Khurana」とは、「愛や何かとチキン・クラーナー」という意味である。チキン・クラーナーというのは、ダーバーの店名であると同時に、そのダーバーのスペシャルメニューでもある。
ロンドンで多額の借金を作ったオーミー(クナール・カプール)は、マフィアのシャンティーから故郷に帰される。オーミーの父親ダルジー(ヴィノード・ナーグパール)は有名なダーバー「チキン・クラーナー」の経営者であり、金持ちであった。オーミーは父親に金を工面してもらおうと思っていた。だが、10年前、父親から金を盗んで家出をし、流れ流れてロンドンまでやって来た過去があった。 10年振りにパンジャーブ州の故郷に戻って来たオーミーを、家族は温かく迎える。だが、ダルジーは認知症を患っており、ダーバーも既に閉店していた。オーミーの従弟ジート(ラーフル・バッガー)は、医者のハルマン(フマー・クライシー)ともうすぐ結婚することになっていた。ハルマンは、オーミーの幼馴染みで、かつて二人は恋仲にあった。オーミーは、ロンドンで弁護士をしていると嘘を付く。 そんな中、ダルジーは死んでしまう。遺書により、ダーバーはオーミーが相続することになった。オーミーはダーバーを売って手っ取り早く金を作ろうとするが、思い直す。そして、父親のスペシャルメニューだったチキン・クラーナーを復活させ、ダーバーを再興しようと努力し始める。誰もレシピは知らなかった。ハルマンは、オーミーを手助けするようになる。 ひょんなことから、オーミーはチキン・クラーナーに欠けていた最後の材料を発見する。だが、それは大麻であった。オーミーは敢えてチキン・クラーナーを復活させず、自分なりのメニューを考案する。そして、家族に対し、弁護士をしていることは嘘だったと打ち明ける。すると、ジートには実は恋人がおり、その恋人との間に子供までいることが発覚する。その代わり、ハルマンはオーミーと結婚することになる。 なかなか金を用意しないオーミーにいらだったシャンティーはインドまで彼を追ってやって来るが、オーミーの叔父ティトゥー(ラージェーシュ・シャルマー)の知り合いであることが分かる。
借金を背負ってロンドンからインドに帰って来た主人公オーミーが、父親ダルジーのダーバーを再興する物語であった。ダルジーのダーバーは、チキン・クラーナーというスペシャルメニューで有名で、非常に繁盛していたが、ダルジーが認知症になり、チキン・クラーナーが作れなくなってしまったために客足が途絶え、閉店となってしまっていた。ダーバー再興のためにはチキン・クラーナーの復活が必須であったが、ダルジーは誰にもそのレシピを教えずに死んでしまった。
このメインストーリーはユニークな展開であった。ほとんど料理をしたことがないオーミーが、かつての恋人ハルマンの助けを借りながらレシピの研究をし始める。オーミーがチキン・クラーナーを復活させたかった理由は、当初は借金を返すためだった。ライバルのダーバーのオーナーから、チキン・クラーナーのレシピを教えることで大金がもらえる約束になっていたからだ。しかし、金を前にしてオーミーは考えを変え、ダーバー再興へ向けて全力を尽くす。
チキン・クラーナーに足りなかったのは大麻だったというオチだが、オーミーは大麻に頼らず絶品のチキンカレーを作り出そうとする。そして物語の最後では、かつてのように繁盛が予期される状況が提示される。
その一方で、ロマンスの要素もある映画ではあったが、この部分は非常に弱かった。オーミーとハルマンは恋仲にあったが、オーミーは家出をし、それ以来全くハルマンに連絡を取らなかった。ハルマンはそれに怒っていた。ハルマンはオーミーの従弟ジートと結婚することになったが、オーミーはそれに対して特に何か嫉妬の感情を表すこともしない。ハルマンの方はオーミーに対して求愛行動を取るが、オーミーはどこかはっきりしない態度をするだけである。結局、ジートに恋人と子供がいることが発覚したおかげで、その代わりにハルマンの夫にオーミーが選ばれた。つまり、オーミーはハルマンを手にするために何の努力もしていない。棚からぼた餅型の珍しいロマンスであった。
主演クナール・カプールは「Rang De Basanti」(2006年)の演技で名の知られた男優であるが、いまいち演技に芯がないところがある。「Luv Shuv Tey Chicken Khurana」での彼の演技も安定しなかった。一方のフマー・クライシーは重みのある演技をしていた。オーミーの若い頃をヴィッキー・カウシャルが演じ、ダルジーの亡き妻ムスカーンを「The Lunchbox」(2013年)のニムラト・カウルが演じていた。
音楽はアミト・トリヴェーディーである。独特のファンキーなサウンドは、パンジャーブ地方を舞台にしたコメディー映画にはよく合っていた。
「Luv Shuv Tey Chicken Khurana」は、父親のダーバー復興に邁進する青年の物語である。ダーバー復興を成功させると同時に、恋愛も成就させるが、ロマンス要素はとても弱い。主演クナール・カプールの演技も不安定である。まだ作り込む余地のある映画だと感じた。