Prague

3.0

 オシアンス・シネファン映画祭で4本続けて映画を観る中で、最後に鑑賞したのは「Prague」というヒンディー語映画である。題名の通りチェコ共和国の首都プラハでロケが行われている。プラハは意外にヒンディー語映画とは縁が深い都市で、今まで「Meenaxi: A Tale of 3 Cities」(2004年)、「Drona」(2008年)、「Rockstar」(2011年)などのロケが行われている。政府が積極的に映画ロケの誘致をしているからであろう。「Prague」はサイコスリラーまたはホラーに分類される映画で、プラハの古い街並みをどのように映画に使うのか、見物である。

監督:アーシーシュ・R・シュクラ
出演:チャンダン・ロイ・サーンニャール、クマール・マヤーンク、アルフィー・ラーンバー、ソニア・ビンドラー、エレナ・カザンなど
備考:スィーリー・フォート・オーディトリアム3で鑑賞。オシアンス映画祭。

 ムンバイーで建築を学ぶチャンダン(チャンダン・ロイ・サーンニャール)は、さらに建築を学ぶためにプラハへ行くことになっていたが、かねてから死んだ友人アルフィー(アルフィー・ラーンバー)の亡霊に悩まされていた。チャンダンは、他の人には見えないアルフィーと話していた。チャンダンは、建築学科の友人グルシャン(クマール・マヤーンク)と共にプラハで学ぶことになっていた。グルシャンはボヘミアンな生活を送る変わった性格の若者で、友人たちから一目置かれていた。

 アルフィーは建築学科のアイドル、スバーンギー(ソニア・ビンドラー)に振られたことで自殺してしまった。スバーンギーは現在別の男と付き合っていた。チャンダンは密かにスバーンギーに憧れていた。ひょんなことからチャンダンはスバーンギーと仲良くなり、有頂天になる。ところがスバーンギーはグルシャンに取られてしまう。

 傷心状態のままチャンダンはプラハの土を踏む。プラハではエレナ(エレナ・カザン)というチェコ人女性と付き合うようになる。ところがチャンダンの下宿先にグルシャンが転がり込んで来る。チャンダンは、またグルシャンにエレナに取られるのではないかという妄想に駆られるようになる。その恐れは現実のものとなった。ある日チャンダンはグルシャンがエレナと情事をしているところを目撃してしまう。

 その後、チャンダンはエレナから妊娠したことを告げられる。だが、グルシャンの子供だと考えたチャンダンはエレナを冷たく突き放す。精神的に極限状態となったチャンダンはアルフィーの亡霊に突進する。すると、アルフィーは現れなくなる。解放されたチャンダンは家に帰る。するとそこにはグルシャンがいた。チャンダンはエレナを妊娠させて知らんぷりをしているグルシャンに憤り、彼に殴りかかる。ところがそこにはグルシャンはいなかった。

 実はグルシャンも彼の妄想が生んだ亡霊であった。チャンダンはスバーンギーをグルシャンに取られたとき、グルシャンを駅のプラットフォームから突き落とし殺していたのだった。つまり、チャンダンはアルフィーとグルシャンという死んだ友人の亡霊にずっと悩まされて来たのだった。グルシャンとエレナの情事もチャンダンの妄想でしかなかった。もちろんエレナの子供の父親もチャンダンであった。それが分かったとき、エレナは自殺をしていた。

 主人公チャンダンの不安定な精神状態を極限まで映像で表現した作品。現実と妄想、過去と現在が入り交じり、時に同じ映像が繰り返され、恍惚感を醸し出す。俳優の顔を向いたカメラを俳優に固定して動き回らせ、陶酔感を表現する映像技術は既に「Dev. D」(2009年)で効果的に使われているが、この「Prague」でも採用されており、チャンダンの精神をよく表現していた。それだけでなく、チャンダンに付きまとう亡霊を映像化し、彼の精神が次第に蝕まれて行く様子を追っていた。亡霊はチャンダンの精神の投影であるため、チャンダンに危害を加えることはしない。ただチャンダンの言うことに耳を傾け、時々反応するだけである。チャンダンには、アルフィーとグルシャンという2人の亡霊と付き合う内に、彼らの性格が乗り移って来る。しかしチャンダンは現実と妄想の区別が付かないために、自分でない性格のときは自分自身がその行動をしていることに気付かない。この辺りはハリウッド映画「ファイト・クラブ」(1999年)にも似ていた。

 舞台は前半がムンバイー、後半がプラハとなる。チャンダンは建築を学びにプラハに留学するのだが、留学先がプラハである必要性は特に感じなかった。異国情緒は出ていたし、精神描写で暗くなりがちな映画の雰囲気に明るさをもたらしていたが、別にインド国内または他の国であっても問題はなかっただろう。

 主演のチャンダン・ロイ・サーンニャールは「Kaminey」(2009年)のミカイル役で一躍注目を浴びた俳優である。精神を蝕まれて行く様子をよく表現できていたと思う。グルシャンを演じたクマール・マヤーンクもカリスマ性のある俳優であったが、あまり情報がない。

 「Prague」は、トラウマを抱えた主人公の次第に蝕まれて行く精神を映像化した作品。映像効果や脚本に自信を感じたが、全く目新しいものではない。それでもよく出来た作品だったと言える。