「3 Bachelors」は2012年7月6日に公開された映画だ。「3 Idiots」(2009年/邦題:きっと、うまくいく)のシャルマン・ジョーシーが主演で、女優ムンムン・セーンの娘、ラーイマー・セーンとリヤー・セーンの姉妹がヒロインを務めている。ところが実はこれは遙か昔の2003年頃に撮影された映画で、ずっとお蔵入りしていた。つまり、シャルマンとリヤーが「Style」(2001年)で共演した直後に撮影されており、当時はまだまだ駆け出しの俳優たちだった。お蔵入りしていたのは出来が良くなかったからであることは容易に想像ができる。シャルマンが「3 Idiots」や「Ferrari Ki Sawaari」(2012年)などで上り調子になったところに合わせて公開されたようだ。公開当時、インドに滞在していたがパスしており、2023年9月28日に鑑賞し、このレビューを書いている。
監督は「Khap」(2011年)のアジャイ・スィナー。音楽監督はダブー・マリク。シャルマン・ジョーシー、ラーイマー・セーン、リヤー・セーンの他に、マノージ・パーワー、ヒマーニー・シヴプリー、マニーシュ・ナーグパールなどが出演している。また、イラン出身のノルウェー人ダンサー、二ガール・カーンがアイテムソング「Dhoom Dham」でアイテムガール出演している。
大学に通うため、田舎からムンバイーに出て来たアミト(シャルマン・ジョーシー)は、同じく新入生のジャイ(マニーシュ・ナーグパール)と出会う。二人とも寮に部屋を確保することができず、不動産屋を当たるが、ムンバイーの物価は高く、彼らの予算に見合った物件はなかった。ひとつだけ手頃な物件があったのだが、大家が借家人は夫婦のみと厳しく制限していた。そこでアミトはジャイに女装させてジャヤーを名乗らせ、夫婦を演じて住処を確保しようとする。ジャイは声の物真似がうまく、女性の声を出すのもお手の物だった。しかし、大家さんは実は大学の学長シャーリニー・デーヴィー(ヒマーニー・シヴプリー)であり、彼女の姪でアミトやジャイと同じ大学に通うネーハー(ラーイマー・セーン)とニシャー(リヤー・セーン)も同居していた。アミトとジャイは何とかシャーリニーの家に部屋を確保したが、外ではずっと女装していなくてはならないジャイの不満は溜まる一方だった。 大学にはディーパク・ヴァルマー(マノージ・パーワー)という教師がいた。シングルファザーであり、2人の男の子を育てていた。毎朝子育てに追われていたディーパクはよく遅刻をしていた。大学の中に副学長用の宿舎はあったが、そのポストは空だった。アミトとジャイはディーパクに、シャーリニーを口説き落として副学長職を手にするようにけしかける。 いつの間にかアミトはネーハーに恋するようになっていた。だが、ネーハーはアミトを既婚者だと信じ込んでいたため、アミトとの関係についてはそれ以上進めようとしていなかった。ジャヤーが実はジャイであることを最初に知ったのはニシャーであった。アミトが誤って彼女に漏らしてしまったのだ。だが、ニシャーもジャイに恋しており、アミトと協力して両者の恋を叶えようとする。ところがゴタゴタの中でシャーリニーに嘘がばれてしまう。シャーリニーはディーパクといい仲になっていたが、彼が副学長宿舎目当てで自分に近づいてきたことも知り、ショックを受ける。アミトとジャイがディーパクをけしかけてシャーリニーの心を弄んだことを知ったネーハーとニシャーは彼らを見捨てる。 アミトとジャイは転校を決意し、ディーパクも別の大学に移ることを決める。だが、突然シャーリニー、ネーハー、ニシャーが姿をくらましてしまう。彼女たちから署名をもらわなければ転校や転勤の手続きが進まなかった。アミト、ジャイ、ディーパクは彼女たちを追ってマハーバーレーシュワルまで出向く。そこで彼らは思いをぶちまけ仲直りする。
夫婦のみ受け入れ可能な物件に住むため、男性2人の内1人が女装し、夫婦だと嘘を付いて大家さんの前に現れるというプロットは、アビシェーク・バッチャンとジョン・アブラハム主演の「Dostana」(2008年)に似ている。もっとも、「Dostana」での二人はゲイカップルということにしてごまかしていた。アミトとジャイが女装を思い付いたのは、カマル・ハーサン監督・主演のヒンディー語映画「Chachi 420」(1997年)を観たからだ。カマル・ハーサンはこの映画の中で女装をし、「チャーチー(おばさん)」になっていた。
女装はいろいろなコメディーのネタ元になりえるが、意外にも「3 Bachelors」では有効活用されておらず、ジャイが女装したジャヤーの正体がばれそうになるピンチはあまり訪れなかった。アミトがネーハーに真剣な恋をし、良心の呵責に襲われて真実を明かすシーンもあり、どちらかといえばロマンス方面に振っていた映画だった。それに対しニシャーはジャイを追いかけるようになるが、ジャイのどこに惹かれたのか、映画中では詳しい説明がなかった気がする。
「3 Bachelors(3人の独身たち)」という題名とポスターを見ると、その3人とはシャルマン・ジョーシー、ラーイマー・セーン、リヤー・セーンのことかと早とちりしてしまうが、映画を観るとそれは、シャルマン・ジョーシー演じるアミト、マニーシュ・ナーグパール演じるジャイ、そしてマノージ・パーワー演じるディーパクであることが分かる。彼らはそれぞれ危機を乗り越え、ラーイマー・セーン演じるネーハー、リヤー・セーン演じるニシャー、そしてヒマーニー・シヴプリー演じるシャーリニーとの恋愛を成就させる。
撮影当時まだ駆け出しだった俳優たちを起用して作った低予算映画であり、完成度は低い。ずっとお蔵入りになっていただけのことはある。シャルマン・ジョーシーやラーイマー・セーンはその後実力を付け、一定の人気も獲得するが、この頃はまだまだ未熟だ。ラーイマーとリヤーの姉妹は、公式にはリトゥパルノ・ゴーシュ監督の「Noukadubi」(2011年)で初共演ということになっているが、もしこの「3 Bachelors」が先に公開されていたら、姉妹の初共演になっていた。
日本人として興味深いのは、登場人物の中に日本人日本語教師が登場したことだ。演じているのは日本人ではなく、どうもマニプル州出身の俳優のようである。おかしな日本語とヒンディー語を話し、コミックロールを演じている。「すみません」という言葉をアミトが「スシュミター・セーン」と聞き間違えるところなど、クスッと笑えた。
「3 Bachelors」は、2012年に公開された映画ではあるが、実際には2000年代前半に撮影されており、その作りも10年ほど時代遅れである。シャルマン・ジョーシー、ラーイマー・セーン、リヤー・セーンの若い頃の演技が見られるが、このときは3人ともまだまだ未熟だった。変な日本人が登場する映画であることは、日本人として記憶に留めてもいいかもしれない。それ以外に見所を探すのは難しい低予算映画である。